始まり
自分はどこにでもいる普通の大学生「土見 智明」
黒い髪に黒い目の典型的な日本人の髪と瞳。顔もまぁまぁ普通だと思う。思いたい。
高校生時代にクラスの中のよかった女子に告白されるというイベントがあったおかげで、ちょっとは自信を持っている。自惚れかもしれない。その子とは1年前に別かれてしまったけど・・・。
(ん?なんだこれ?)
都心より少し離れた家賃4万のアパート自分の部屋、特にすることがないのでベッドに横たわり、携帯を開いてみたら見慣れないアイコンが一つあった。
明るいピンク髪を青く丸い髪飾りでツインテールにしている、頬には少し前の時代のアニメを思い出すような楕円形のチークが付けてあり、透き通ったエメラルド色の瞳でこちらに可愛くウインクしてる。なんかよくあるゲームアイコンだなぁ・・・。
タイトル名「Guardian Tool」
(こんなゲームいれたか?記憶にないな・・・)
可愛いアイコンを眺めること数秒たった。
(いやいや、いれてないいれてない、遊の奴が勝手に入れたか?押したらウイルスでした!とかだったらかなり嫌だな・・・いやこのアプリが勝手に入ってる時点でアウトか?)
ゲーム大好きな幼馴染の立花遊人のニヤニヤした顔が浮かぶ。
通称「遊」、同じ幼稚園から小学校~大学まで一緒という真の腐れ縁だ。
この手のアプリゲームはゲームっぽくないと言っていたが心変わりでもしたのだろうか。
(いくら考えても仕方ないな・・・こういう時はグークル先生に限るな)
いつもスリープモードで閉じてあるノートパソコンを開き、
ブラウザ画面を呼び出して「Guardian Tool」を検索してみる。
(wikiがある・・・!?)
検索ページの一番上に書かれているのは「Guardian Tool wiki」
他にも質問版やフレンド募集掲示板などの文字は見られるがGuardian Toolの公式ページのようなものは検索一覧には表示されていない。
(もしかして本当にゲーム?やっぱり遊のいたずら?)
とりあえず内容の確認のためにwikiをクリックする。
自分はいつも攻略wikiなど見ながらゲームを進めている。
同じ物語を2周目見る気は起きず、アイテムの取り残しやイベントなどを見逃したくないためそうしているのだが、遊が言う効率厨らしい。
ちなみに遊は生粋のゲーマーで攻略ページなど一切見ないやりこみ探求派らしい。
このアプリを決して削除してはいけません。命に関わります。
真っ先に赤い文字で大きく書いてあった。
(びっくりした。え、どういうこと?)
戸惑いつつも、ページ左端の「初めての方へ」と書かれた文字を押す。
このアプリは他次元生命体「ウォッチャー」と戦うために作られた自己防衛アプリです。
(ん~ウォッチャー?防衛アプリって書いてあるけどそんな生物に襲われたことなんか一度もないぞ?そもそもウォッチャーて名前どうなの?逆に危機感なくすような名前なんだけど・・・)
Guardian Toolを所持している人をツールホルダーと呼称されます。
ツールホルダーはGuardian Toolを通して自信を守るためツールから召喚される物を「守護者」を呼ぶことができます。
(ツールホルダーに守護者。呼び名が適当だなぁ。)
(つまり俺はツールホルダーでこのツールから何か呼び出せるようでそれが守護者か。)
守護者については別項目参照らしくあまり詳しく書いてなかったが、続けてウォッチャーについて書かれていた。
ウォッチャーとは
・他次元より生物を観測し、この次元に現れ、対象を捕食する生物の名称である。
・ウォッチャーは自信がウォッチャーに観測された場合のみこちらに存在する。
・ツールホルダーがウォッチャーを観測した場合、アプリを通じて他のツールホルダーにも観測することができる。
・ウォッチャーはウォッチャーが観測していない物質に対し、干渉できず干渉されない。
・ウォッチャーは捕食した生物の姿を模す。
色々長々と書いてあったが要訳するとこんな感じだ。どんなSFモンスターだ。
(ゲーム設定はなんか面白そうだな。携帯のカメラとか使って協力してモンスターを倒すゲームか?)
そのとき携帯が鳴った。
「ウォッチャーに観測されました!ウォッチャーに観測されました!」
可愛い少女の声で目覚まし音のように騒がしくアラームがなる。
思わず手に取って画面を見る。
「Guardian Toolを起動する」と書かれたボタンが表示されている。
(なんだ?まだゲームを始めてすらいないのに?)
ふと視線を感じ部屋の窓を見た。
そこには黒い煙に覆われた大きな赤い目をした物体がこちらを見つめていた。
物体と自分の間に遮っているはずの窓ガラスを物体がゆっくりとまるで何もなかったかのようにすり抜けて入ってくる。
咄嗟に部屋から逃げ出した。我ながら即行動できたことが素晴らしいと思う。
アパートの自室が1階でよかったと心の中で思いながら振り返らないで全力でその場から逃げ出す。
(やばい!なんだあれ!)
誰かに見られているような感覚がひしひしとこちらに伝わってくる。
どこへ逃げるか走りながら考える。駅へ向かうことを決めた。
人の多いところは誰か巻き込むかもと思ったが、それだと自分に助けがくるとは思えない。
我ながら自己中心的な考えだと思うが背に腹は代えられない。
そう考えてるとすぐ横を自分が来た方向に車が走っていった。
(まずい!向こうには化け物がいるのに!)
伝えられないとわかっているがつい足を止め振り向いた。
少し離れた場所で車をすり抜けて現れる黒い煙の姿が見えた。
車は何事もなかったように信号を左に曲がっていった。
(やっぱり、あれがウォッチャー!)
・ウォッチャーはウォッチャーが観測していない物質に対し、干渉できず干渉されない。
というwikiに書いてあった言葉が思い浮かぶ。
駅に向かって走り出す。
(人通りの多いところまでいけば、きっとツールホルダーがいて助けてくれる!)
もっと運動しておけばよかったと思いつつ息を切らしながら駅に着く。
後ろを振り返るとウォッチャーの姿は見られないが誰かに見られている感じは一向に消えない。
自分の最寄り駅は特に大きな駅というわけではなかったためあまり人はいない。
(夕方だからもっといるだろうと思ったけど予想以上に人が少ない!電車に乗って逃げる?追いつかれて一緒に乗り込まれでもしたらアウトだ・・・)
そこで自分がさっきから携帯をぎゅっと握りしめていることを思い出した。
「Guardian Toolを起動する」と書かれたボタンを押す。
アイコンに書いてあったピンク髪の可愛い女の子が現れて何か説明しているが操作方法や重要そうな場面は必至にタップして飛ばしていく。
(知ってる!知ってる!さっきwikiで見た!早くしろ早くしろ!)
イライラしながら速読する。右足が貧乏ゆすりをしていたが止めようと思わなかった。
女の子が可愛い声で「それでは召喚するっよ~♪」と生死がかかってる場面でこの声とセリフはイラッとしたが我慢してタップをする。
携帯になにやらゲームでよく見る魔法陣っぽいものが描かれそこの光と共に何かが描かれていく。
何かと言われたら輪郭だけはわかる、何か箱っぽいものだ。
完全に輪郭を現したとき思わず絶句した。
茶色く輝く正方形の物体が浮かんでいるだけだった。
(な・・・え・・・?うそだろ・・・?)
可愛い女の子の声で「この子に名前をつけてあげてね~♪」と聞こえ入力モードに切り替わる。
(いや、なんだこの四角、これいつで戦うのか・・・!?いやまて、実はロボットアニメみたいに変形とかして助けてくれるのかもしれない)
どうやら音声による命名が可能らしくマイクマークが点灯している。
(名前!どうしよう!変更できないみたいだし、だめだ迷ってたら間に合わなくなる)
「ブロック!」
安直すぎてウォッチャーとか名付けた奴のこと笑えないなと頭に思っていると強い視線を感じばっと顔を上げる。そこには目のついた黒い煙が車が行き交う道路を真っすぐにこちらに向かっているとこが見えた。もちろん車はすべて通り抜けている。距離にしてもう50mもないだろう。
煙が速度を上げてこちらに向かうのがわかる。ホーム画面下にある「召喚」と書かれたボタンを押す。
「頼む!助けてくれえええええええ!」
思わず叫んでしまう。そしてすぐに近くの地面から魔法陣が現れ光と共に正方形の物体が現れる。
大きさにしてハンドボールぐらいの大きさ。
飛ばし読みしていた説明に召喚後はマスターの命令で動くと書いてあったので、こちらへ向かっている目のついた黒い煙を指さして叫んだ。
「ブロックあいつを倒せ!」
しかしブロックは動かなかった。
(な!)
目のついた黒い煙がこちらにとびかかってくるのが見えた。
咄嗟に右に倒れこむように避けたが目のついた黒い煙はすぐ反転してこちらに覆い被さってきた。
倒れていたために回避ができなかった。足に目のついた黒い煙が絡みつく
目のついた黒い煙はとても冷たく、足をばたつかせるが取れる気配はない。
次第に足の感覚がなくなってくるのを感じる。冷たさで体中の体温が奪われていくのがわかる。
手で払おうとしてもまるでぶよぶよした液体のように手をすり抜ける。
(くそ!くそ!役に立たないじゃないか!やばいこのまま死ぬのか!)
ふと目の端に召喚されたブロックが置いてあるのに気付く。
戦ってくれはしないけど武器にはなるかもしれない、そんな思いで必死に横にあるブロックに手を伸ばす。煙は下半身を覆い上半身へと向かっていた。
反動をつけて思いっきり手を伸ばす。
運よく右手でブロックを引っ掛けることができた、必死に何度も引っ掛けようやく両手でつかむ。掴んだブロックを両手でつかんで大きく振りかぶる。
「離れろおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ガンっという音を出し、思いっきりかち割るように大きな目玉に叩きつけた。
少しでもダメージが与えられるよう角で思いっきり。
目玉に角が刺さる感触がした。目玉は声にならない悲鳴をあげているよに自分から震えながらバッと自分から離れ、高さはそのままでまるで痛がっているように目がぐるぐると不規則に回転している。張り付いていた煙もいつのまにか剥がれて目の回転に合わせるようにまるでアメーバのように伸縮を繰り返している。
息が荒い。やるならいましかない。
今度はしっかりとブロックを両手に挟むようにして持ち上げ立ち上がる。ウォッチャーはちょうど自分の腰の位置。思いっきり体重を乗せて振り下ろした。
(助かった・・・?)
叩きつけた目玉は先ほどとはちがい鈍い音を立てて、黒い煙と共にすーっと半透明になり消えていった。
はーっと深いため息をつきながら座り込んだまま抱きかかえたブロックに寄りかかる。
いつのまにか周りに数人、歩行者が変な目でこちらを見ていた。人目を気にしてその場から逃げ出そうか考えたが動こうにも動けないしなにより疲れたので無視することを決めた。
「こいつが俺の守護者ってまじかよ・・・どうやって戦ってくんだよ・・・」
抱きかかえたブロックに顎を載せてぽつりとつぶやく。
まだ夕日が沈む空をぼーっと眺める。
冷え切った足になぜか暖かいブロックのボディーがとても居心地よくてしばらくそうしていた。