魔法使いが肉弾戦で無双する。
4/26、読みやすいように行間をあける訂正をしました。
僕は森の中を疾走する。思ってる以上に速い。これならすぐに現場に到着できる。
見えた!馬車が襲われてる!護衛もいるみたいだけど多勢に無勢で状況はよくなさそう。
襲ってる連中の一人が馬車の扉に手をかけた!
ここからはほぼ無意識に体が動いた。
「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
僕は扉に手をかけていた賊にとび蹴りをかましていた。
「ぎょぶっ!!!」
奇妙な声を上げた賊が、くの字にまがりつつ地面にめり込む!
うわっ!思った以上の攻撃だ!やりすぎた!どうしよう・・・生きてる・・・よね?
思わずしゃがみこんでつんつんしてみる。ぴくぴく反応が返ってくる。よかった、生きてる。
そのことに安堵した僕は、戦闘中だったことを思い出し、あわてて立ち上がって周囲を見渡す。
当然周りはついていけず、時間が凍ったようにみんなが動きをとめて僕を見ていた。
・・・やっぱりやりすぎたかなぁ。でも初めてのことだから手加減なんてできなかったし・・・
そんな僕の困惑を知ってか知らずか、ようやく立ち直ってきたっぽい賊が僕に吼える。
「何者だてめぇは!」
「通りすがりの魔法使いです!」
魔法少女とは言わない。認めたくない。
「魔法使いだと!あんな蹴りを放つ女が魔法使いだと!嘘をつくな!嘘はその格好だけで十分だ!」
「ほっといてよ!」
「魔法使い!後ろだ!」
「えっ?」
切羽詰った声を聞いてあわてて振り向く。手に感触。
「ぐはっ!」
振り返りざまに偶然振ったステッキが真後ろにいた賊のみぞおちにヒット。軽く吹っ飛びつつも賊は体制を立て直した。
あっぶな!軽く振ったステッキがあたっただけで賊が吹っ飛んだっていうちょっとした異常な威力や、瞬時に体制を立て直す賊の頑丈さや冷静さ、危ない所に声をかけてくれたことへの感謝を放置して、僕はようやく殺意を向けられることと、このまま後ろの賊に気づかなかったらということに恐怖した。
「ばかな!俺は王都でも上位にランクするアサシンだぞ?その俺がまったく反応できなかっただと!?」
身体能力があがったせいか、賊の独り言が聞こえてくる。まさしく二流以下の失態なんだけど僕もそれどころじゃあない。
「一斉に攻撃するぞ!相手は一人だ!恐れることはねぇ!やっちまえ!」
あとで考えると、これでフラグがたったんだろうね。相手の運命はきまった。
このとき恐怖に襲われてた僕は
「身体強化!!」
これだけ強くなってもまだ使っていなかった魔法をとうとう使用する。
僕の体の中を駆け巡ってた何かがすぅーっと消えていく感覚と同時に体中に染み渡る感覚。体が羽みたいに軽く感じる。しかもこの辺り一帯が自分の感覚みたいだ。
無意識に周囲が確認できる。今ここにいるのは僕、馬の近くに一人、馬車の中に一人、馬車の周りに八人、足元に一人、前方から向かってくるのが一人、僕の後ろから三人。遠くの木陰にも一人いるな。賊は馬車の周りの護衛の相手をしてる四人に前方の一人と後ろの三人がそれっぽい。
ゆっくりと感じる時間の中で、前方の人間失格アサシン失格の二流以下が近づいてくる。それでもあれだけ強くなってた僕を恐怖させたんだから実力は本当にあったんだろう。
僕は力いっぱい袈裟切りでステッキを振り下ろす!相手はそれを両手にもったナイフでクロスして受け止める!
と同時に「ぱきぃん」という甲高い音とともにクロスしたナイフが砕けた!しかもそれでも僕の攻撃の勢いはとまらずに相手の肩にヒット。さっきの3倍以上に吹っ飛んでいった。
うわぁ。またやりすぎた・・・
これでだいぶ冷静になった僕は吹っ飛んだやつを放置。軽く反省しつつ、後ろから迫ってくる三人に向き直る。
三人はほぼ隊列を組んで迫ってくる!
ジェットス○リームアタックか!
おもわずつっこみを入れつつ当然のようにジャンプして相手の頭を足蹴にする。
「俺を踏み台にへぶぅ!!」
最後まで台詞を言い切る前に僕が勢いをつけようと蹴りこんだため、顔から地面につっ込んだ。
いや、ちゃんと手加減したよ!?
思った反動を得られなかったため、バランスを崩した僕もタックルをするように二人目に突っ込んだ。
「なんだごふっ!!」
「うわっ!こっちくんげはっ!!」
突っ込んだ二人目は後ろに吹っ飛び、三人目を巻き込んでさらに飛んでいく!
「痛てててて・・・・」
ぜんぜん痛くなかったけど、ついそんなことをつぶやきつつお約束どおりにはいかないなぁとか思いながら立ち上がる僕。周りは再び時間が凍ったようにその場にいる全員が僕を見てた。今度はアホみたいに口をあけて。
「ぎぇぇぇぇぇぇお助けぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
残った賊の誰かがそう叫んだとたんに時間が動き出す。賊はくもの子を散らすようにいろんな方向へ逃げていった。木陰に隠れてた人もとんでもない速さでここを離れていく。あぁ。やっぱり賊の仲間だったんだ。
賊がいなくなって静かになった街道で、僕は深呼吸して身体強化の魔法を解いた。体の中の何かが消えていく感覚が止まる。やっぱりこれ、MP的な何かを消耗してるんだ。魔法だから当然か。
バタン!急に馬車の扉が開き、中からつり目のドレスを着た美少女が飛び出してきた。彼女は僕の横をすり抜け馬の近くで倒れている初老の男性の頭を抱きかかえると、男性に数本刺さっていたナイフを抜き、手をかざす。手からは暖かい光が洩れ、傷がふさがっていく。心なしか男性の顔色もよくなってきたみたい。
あれは回復魔法?そんなことを気にしながら見てたら男性が気がついた。
「・・・ティア様。申し訳ありません・・・」
「まだしゃべってはだめ!無茶しないで。」
「しかし」
「あなたはよくやった。状況もなんとかなった。今傷を癒したから回復するまで安静にしてなさい。」
「ありがとうございます。」
そう言うと男性はすぐに意識を失ったようだ。無茶してたんだね。
「魔法使いの方。危ないところを助けていただき、ありがとうございました。」
状況についていけてなかった僕は、はっとなった。
「いえ、こういうときは助け合うべきでしょうから。」
そう言って僕はこの場を離れようとする。
「ぜひお礼をさせてください。もしよろしかったら我が家へ招待させていただけませんか?」
「いえ、お気持ちだけで結構です。」
「命の恩人に対して礼のひとつもできないとシルヴェルト家の恥です。どうかお願いします。」
おおげさだな。でもさすがに貴族っぽい人にここまで言われると断りにくいし後が怖い。
「わかりました。ご招待にあずからせていただきます。」
「ありがとうございます。では他の者も治療したいので少し時間をください。」
そう言うと彼女は他の護衛の方へと歩いていった。
なんだか厄介ごとに巻き込まれた気がする・・・