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異世界でなった魔法使いが想像と違う!  作者: 桜華
第二章:異世界でなった魔法使いの旅路
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いいことがあった日の食事

食事回です。

暑い日が続いています。みなさん、体調には十分ご注意ください。

「にんじ~んLoves you yeah♪」


歌を歌いながら肉を薄く切っていく。歌は人参だけど。


「ユウナ、ご機嫌ですね」

「うん。でもこの歌を聴いてるとなんかおなかがすいてくる」

「俺もだ」


そうだろうね。僕もおなかがすいてきた。選曲間違えたかな。ちなみに僕が歌いながらご飯の準備を始めたら、しばらくしてみんなが手伝いを願い出た。


「シルク、ナイフの持ち方はいいのですが、野菜の持ち方が少々怖いです」

「え~?大丈夫だよ。切ることは慣れてるもん」

「シルク、よく見てみろ」

「え?」


びろーん。シルクが切った野菜は、見事につながっていた。


「えー?なんで切れてないの?」

「そりゃ敵を倒すために切るのと、料理のために切るのじゃ全然切り方が違うからだ」

「そういうギルさんはやたらと慣れてますね。肉の薄切りって簡単じゃないんですが・・・」


ティアの言うとおり、ギルさんはものすごい慣れた手つきで切っていく。しかも早くてうまい。


「んぁ?お前らは知ってるから話すが、盗賊時代はできるやつができることをするからな」

「・・・ギルさん料理係だったの?」

「いや、俺は頭だ。だがあれだけの人数がいてまともにできるのが俺だけしかいなくってよ・・・」

「あー。前もかなり上の役の人だとは思ってたけど、トップだとは」

「もしかして今の冒険者の中に元盗賊さんって結構います?」

「ねぇ、誰か切り方教えてー。ユウナでもティアでもギルにぃでもいいからー」


なんとなく予想はしてた。ティアも思い当たる節があるみたい。シルクは知ってるからか興味がないからか、はたまた野菜が切れなかったのが悔しかったのか、野菜の切り方を聞いてきた。


「あぁ。っつっても「結構」なんていねぇけどな。ちなみに今のサブギルマスも俺の元部下だ。優秀なやつで、前も俺の補助をさせてた。シルク、力任せに切っても駄目だ。肩の力を抜いて引くように切ってみろ」


手を休めずに、僕たちのバラバラの発言のぜんぶに返事をするギルさん。この人本当に器用だなって思う。


「ティアは気づいてたの?」

「んー、なんとなく、の範疇ですけどね。ほら、冒険者ギルドにいったときに、妙にギルさんに畏まってる人がちらほらといたので」

「この中で誰を敵に回したくないって、ティアを敵に回したくねぇな。恐ろしい観察力だ」

「僕も同意」

「切れた!ギルにぃ、ちゃんと切れたよ!」


なんだかシルクだけ世界が違う。とはいえ、準備は和やかな雰囲気で過ぎていった。






「で、これはどういうことだ?」


ギルさんが顔をしかめて僕を見てくる。テーブルにはそれぞれ盛り付けられたサラダ(もちろんにんじん入り)、数種類の肉、葉野菜等が生で並んでいる。そして中央には暖められた鍋、お湯の張った底には、昆布が沈んでいる。


「まぁ見ててよ」


僕は少し底がある器にポン酢を入れて、肉を一枚箸でつかむとお湯をくぐらせる。肉の色が変わると、ポン酢をつけて食べる。う~ん、おいしい。今日はいい結果がでたから、おいしいご飯にしたかったんだよね。だからしゃぶしゃぶにしてみました。


「へぇ。変わった食べ方ですね」

「面白そう!」

「おい、俺にもその汁をもらえるんだろうな」

「肉や野菜につけるのは僕の使ったポン酢とゴマダレの二種類用意したよ。両方試してみて好きなほうで食べてね」


そういってみんなに二つの器を渡す。


三人がトングを使って肉を湯にくぐらせる。しゃぶしゃぶ。

色が変わってポン酢をつけてばくっと。あ、三人とも最初はポン酢なんだ。


「うめぇ!」

「おいしい!」

「おいしーいっ!」


僕は思わずドヤ顔だ。


「肉の味を濃く感じるぞ」

「お肉なのにこんなにさっぱりいただけるなんて」

「おいしいね、ギルにぃ」


三人は嬉しそうに次の肉に手を伸ばしている。僕も食べようっと。


「こっちのゴマダレっていうのもおいしいですねぇ。私どっちも好きだなぁ」


ティアが幸せそうな顔でもぐもぐしてる。ティアっておいしいもの食べるときすごく幸せそうな顔をするな。僕はその顔を見るのがすごく好きなんだけど。ふぅ。癒される。


「これはこれでうまいんだけどな。さっきのポン酢のほうがうまい」

「うわぁ。甘いのにお肉がおいしいって不思議な感じ。ボク、このゴマダレっていうのすごく気に入っちゃった」


ギルさんはポン酢派、シルクはゴマダレ派のようだ。僕は断然ポン酢派。ギルさんにちょっと親近感が湧いた。我ながらちょっと単純だと思う。


「シルク、そのタレはサラダにもあうよ。ティア、お湯を通したお肉に野菜を巻いて食べてもおいしいよ」

「早速やってみる」

「私も」


シルクはサラダから葉っぱをつかんでつけて食べてみる。ティアはさっそく次の肉をしゃぶしゃぶしだした。


「サラダおいしい!ユウナ、このタレちょうだい!」

「おいしいですユウナ。これ、ラフィンドのお野菜でやってみたいですね」


よかった。色々作ってたり、食べ方を勧めてはいるけど、実は反応があるまではちょっと怖いんだよね。誰かの歌の歌詞じゃないけど、育ってきた環境が違うから好き嫌いは否めない。ティアは日本人寄りだと思うんだけどね。


「しかしこれだけうまいものを食ってると、酒が飲みたくなってくる。それが肉ならなおさらだな」


ギルさんはお酒好きそうだとは思ってたけど、やっぱり好きみたいだ。というか冒険者やってる人たちはほとんどの人が好きそうって思うのは偏見かな?

出してもいいけど、ギルさんだけっていうのも不公平だと思うんだよね。

そうだ、みんなに何か一つずつ付けよう。決して、僕もご飯が食べたいから罪悪感を消すためにやるんじゃないんだ。

よし、僕とギルさんは決まったから、シルクとティアはなにがいいかな。あ、シルクはゴマダレが欲しいって言ってたっけ。でもそれだけじゃあ寂しいから色んなドレッシングを加えよう。あとはティアだね。ティアにはジュースとデザートでどうだろうか。うん。それでいこう。MPは・・・余裕だね。

僕は金貨を四枚取り出すと、一枚ずつ少し離しながら地面に置く。そして僕自身も少し離れる。

そして僕の急な行動を黙って見守るみんな。


「召喚」


一つ一つに行い、それぞれ、お酒(小さい瓶の日本酒)、ご飯(スーパーの惣菜コーナーに売ってるやつ)、ドレッシング(ゴマダレ、青じそ、シーザー)、ジュース(メロンソーダ)、デザート(コンビニのシュークリーム)を召喚した。


「おぉっ、これもしかして酒か!?」

「ゴマダレだぁ。でもこの他のは何?」

「すごい色の水ですね。こっちの茶色い丸いのは・・・あ、どっちも甘い香りが」

「それぞれにプレゼントだよ。ギルさんはお酒、シルクはゴマダレと他の味がする野菜用のタレ、ティアにはジュースとデザートだよ」


僕はご飯をプラスチックの入れ物から出すと、買っておいたお椀サイズのカップに移す。


「あ、それぞれに注意事項ね。ギルさんのお酒は度数が強いから気をつけて。シルクのはつけすぎると辛くなるからね。あと混ぜたりしないように。ティアのは甘いから食後に食べることを勧めるよ」


「「「ユウナ」」」

「ありがとう」

「ありがとー」

「ありがとなっ。マジで嬉しいぜ!」

「今日だけだからね」


そう言って罪悪感もなくなった僕は早速ご飯を一口。久しぶりのご飯は冷たかったけどおいしく感じた。

次に肉をしゃぶしゃぶしてポン酢をつけてご飯と一緒に口に運ぶ。


もぐもぐもぐ、ごくん。


「おいしい」

「ユウナ、幸せそうな顔してますよ」

「二度と食べられないかもしれなかった日常の味だからね。しばらく食べてなかったのも後押しして、ちょっと感動して食べてるよ」

「よかったですね」

「うん」


二人で笑いあう。こういう関係っていいな。


「これうめぇ!なんだこの酒!?こんなの飲んだことねぇ!ユウナ、これうまい!今までに飲んだ酒の中で一番うまい!」

「おいしぃー!どのタレも違ったおいしさがあるよ~。僕、しばらく野菜だけあれば生きていける!」


せっかくのいい雰囲気だったのに。ってちょっと残念に思いながらギルさんを見ると、出会ってまだあまりたってないのに、これはいい顔だ。ってわかるくらいにいい顔だった。日本酒を相当気に入ったみたいだ。

そしてシルク。ゴマダレ以外も試したんだね。ギルさんに負けないくらいいい顔をしてる。シルクも相当気に入ったみたい。


「シルク、あとでジュースを分けますから、そのタレ少し分けてもらえますか?」

「いいよー」

「・・・俺もちょっと気になる。野菜嫌いのシルクがここまで絶賛するんだからな」

「じゃあギルにぃもお酒少し分けてよ」

「あ、私ギルさんのお酒も少し興味があります。デザートを少し分けますので、少し分けてもらえますか?」

「俺の酒はシルクにはちょっときつい。ティアから貰ったデザートを出すから、それでどうだ?」

「えー。まぁギルにぃがそういうなら・・・」


みんな他のが気になってたんだね。そりゃ一人一人があれだけ賞賛すればそれも当然か。でも僕に話がこないのはちょっと寂しいな。


ともあれ、この後もわいわいと、おいしいご飯と楽しい時間をすごした。






食後、ジュースとデザートに衝撃を受けたシルクと、今までに見たことがないほど幸せそうな顔のティアが僕の思い出に刻まれた。







この時期、冷しゃぶとかおいしいですよね。


それぞれの心中

ギル「こんなにうまい酒、どこで手に入れたんだ?そんなことを知ってるユウナをますます好きになっちまった。初めて見たときに感じた直感は間違っちゃいなかったが、これほど俺が入れ込むとは思わなかったぜ」

ティア「シュークリーム最高。さすが私が惚れた男です」

シルク「好き嫌いは減るし、お肉もジュースもデザートもおいしかったし、絶対におねぇさまになってもらわないと。あれ?むしろもうおねぇさまなのかな?」

ユウナ「ここ数日、夜になると急に悪寒がするんだよね。今日はあったかくして寝よう」


余談その一

しゃぶしゃぶですがユウナは箸で、他は焼肉のトングに近いはさむ道具を使っています。


余談その二

この世界の甘味は少ないです。甘い=贅沢でおいしい、という概念があって、甘いものっていうのは極端に甘すぎるものか、甘みが薄いものしかなく、ギルさんはそれを食べたことがあるので、交換のやり取りがうまくいって内心ほっとしています。あ、もちろん日本酒がシルクには早いと思ったのもあります。

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