強くなるために
と、いうわけでやってきました「獣の森」。
これがノートルからやや北よりに西に進んだ山のふもとの森の名称。なんでも魔獣、聖獣、鬼獣など、多種多様な獣が生息する森なんだそうだ。
その先に見える山は修羅の山。とにかく生存競争の激しい場所で、シャレにならないレベルの強いモンスターが跋扈しているらしい。「らしい」というのは、ここから帰ってくる人間が極端に少ないからだそうだ。
そしてなんでそんな危険な場所が放置されているかというと、この山からは出てこないからということだった。
というかよくそんな場所にあってあの町の戦闘狂たちがおとなしいな。と思ったら、この森を抜けることがそもそも難しいらしい。ギルさんやノルド様も挑んだことはあるしいが、諸事情により引き返せざるをえなかった。と教えてくれているのは当のギルさんだ。
「ノルドの方は聞いた話だが、内容は俺と同じように怪我人も抱えて気力も食料もつきかけてあれ以上は無理だった。もしあの山まで行こうと思うならそれこそ準決勝まで残ったメンバー四人なら何とかなるだろう。つかノルドも今回そこまで考えてたからあんだけ駄々こねたのかもな」
「リベンジしたかったってことですか?」
「あぁ。当時のアイツは相当悔しがってたからなぁ」
「今回そのチャンスだと思ったんでしょうね」
「なんか、ぱぱがごめんなさい」
実は現在、ノルド様に許可を貰った翌日だったりする。とにかくノルド様を説得するのに時間がかかった。本気で領主やめそうな勢いだったからなぁ。修行後に僕たちの誰かと対戦するっていう約束でようやく折れたっけ。
とりあえずノルド様を説得、その後ギルさんとシルクの準備のため買い物、冒険者ギルドへ行ってついでにできそうな依頼を受注。ギルさんはそこでサブギルマスに数日間の引継ぎをして、ようやく出発してきた。
ただ出発してからは早かった。ギルさんもシルクも生き生きとして魔物を倒していった。だから瞬殺。もうむしろ相手が哀れだ。そして現在に至る。
「んじゃ始めるか。まずはシルクからな。決闘で闘った時に感じたんだが、お前は咄嗟の判断が若干鈍い。冷静に状況を判断するか、反射的に状況に対応するか、どっちかを極めるといい。厳しいかもしれないがそれができるようになったら同レベルよりは頭一つ強くなる」
「あ、そういわれると。でもどうしたらいいの?」
「モンスターと戦うときにわざと相手に攻撃をさせろ。そしてそれをよけろ。それもなるべくたくさんの種類のモンスターにだ。いろんな攻撃を見て、咄嗟の判断力をつけろ」
「ん。わかった」
そういうとシルクは颯爽と森の中へ入っていく。
「まて、ちょっとおちつけシルク。この森で単独は危ない。移動するにしても俺たちの目の届く範囲にいろ」
「はーぃ」
はーいの声が遠くなっていった。一応言われたとおり、ぎりぎり粒で見えるか見えないかぐらいの場所でがさごそしだした。まぁあの位置なら何かあっても逃げれるだろうし気づくだろう。
「まったく。これも一歩間違えば判断ミスだぞ」
「あはは」
僕は乾いた笑いをもらした。
「まぁ、とりあえず次はティアだな。決闘の時は対戦しなかったが、観戦してた限りではセンスはかなりよかった。あとは何ができるんだ?」
ティアは今の自分の攻撃手段を教えていく。
「それだけの手段でよくあんな攻撃を思いつくな。感心するわ」
「ありがとうございます。お世辞でもうれしいですよ」
「俺がお世辞とか言う人種に見えるか?もっと自信をもっていいぞ。・・・つかティアとユウナはもっとフレンドリーと言うかラフにしてもらっていいぞ?お前らだったらそのほうが嬉しい。特にユウナはな」
「ありがとうございます。まぁ私は素でもこんな感じなので。ただ態度は少しくだけさせてもらいますね」
「んじゃ僕は敬語はやめるよ。名前はそのままギルさんとよばせてもらうね」
「ん。いまはそれいい。いつか呼び捨てや違う呼び方をしてくれるのを楽しみにしてる」
「あはは」
僕は再び乾いた笑いをもらした。答えに困るよギルさん。
「それで私はどうしたら?」
「そうだな。打たれ弱さはあるが回復できる、接近戦も遠距離も必殺技もある。まさしくオールマイティだ。だから全体的に底上げをするか、何か突出したものを作るのもいい。ただまずはやっぱり攻撃の手段を増やすことだな。今日と明日でいくつかカードを作って試してみろ。ティアの場合はそれで間違いなく一段も二段も強くなるだろう」
相手にしてみたら厄介だろうなぁ。というか僕だったら嫌だな。たくさん攻撃方法を持つ相手ってそれだけで恐怖だ。
「わかりました。あと気をつけるところは?」
「なるべくいろんな戦い方をしてみろ。遠距離、近距離、カードを使った戦いに、わざと傷を負った戦い。基礎はできてるようだからあとは経験だな。それによって効率のいい攻撃方法や、意表をつくような攻撃とかできるようになるだろう」
「はい。やってみます」
「んじゃよかったらシルクの様子を見てやってくれ。あいつを放っておくと何をしでかすかわからねぇ。ティアの判断なら安心できる」
「わかりました」
「ティア、無理しないでね。特にわざと怪我をしたりするときは」
「はい。とりあえずそれは安全が確保できたときに、ですね」
僕はほっとしながらシルクに向かっていくティアを見ていた。
「最後にユウナ。ユウナは昨日の朝にも言ったけど、まずは技術を身につけてもらう。武器を振るうにも技術はいるし、あの中途半端な技をちゃんと技として身につければ、威力を倍以上にあげられるだろう」
「あ、あの技は全部借り物なんだ。僕の編み出した技じゃなくて」
「あぁなるほどな。道理でどれも技としての完成度が高いわけだ。あの牙突きなんかちょっと動きを取り入れようかとか思ってたしな」
うわ、超似合う。軽く想像してしまった。
「まぁこういう模倣から自分のオリジナル技もできるだろう」
「あ、一応あるよ。オリジナル技」
「何?俺が受けた技にそんな出来上がった技はなかったぞ?」
あー。そういえば決闘中は一度も流星脚使ってないなぁ。
がさがさがさっ!!
「ユウナぁー!ギルにぃー!そっちに一体でかいのが行ったよー!」
シルクの声が聞こえた。しかしまたなんとタイミングのいい。さて、何がでてくるのか。
こっちに向かってるのはそれは大きな、羽のついた真っ赤な猛牛。
思わず僕の頭にテレビのCMが流れる。ティアこれカードにしたら絶対空飛べるようになるよ。
「変身!」
光が包むと僕は旅装束から魔法少女に変わる。
「威力は抑えて撃つから見てて」
そう言うとジャンプ。
森から出たタイミングでこっちに気づく猛牛。そのまま突っ込んできそうだけど遅い。
「流星脚ぅぅぅぅぅ!!」
ガスッ
ズガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!
やっぱり作ってしまったクレーターの中心で猛牛を確認。あぁ、やりすぎた。せっかく空を飛べるカードを作るチャンスだったのに・・・
あ、でも食べたらおいしそう。Mr.ビーフゲットだぜ!
・・・あれ?ギルさんが静かだ。
「ギルさん?」
「・・・ストライプ」
ん?声が小さくて聞こえなかった。
「・・・ハッ。い、いや、なんでもない。つかお前そんな技持ってたのか。決闘の決勝最後の技もずいぶんヒヤッとしたが、この技出されてたら俺たぶん負けてたぞ・・・」
またえらい高評価いただきました。
「いやまて、さっきの話だとティアも使えるのか?それ」
「まぁ。たぶん僕より威力は落ちると思うけど・・・」
「やばっ。血が滾る。だがアレはたぶん今の俺じゃ・・・いや、反威牙なら・・・それより月光牙を超えるような技を作ったほうが・・・」
「ギルさん?ギルさーん!」
戻ってきてくれー。そんな爛々とした目でぶつぶつ言ってるの怖いよ!
「ユウナぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
ドムッ
がふっ
ズドーン!!
「今の何!?あんな技持ってたの!?ていうかなんであんなすごい技持ってて使わなかったの!?」
「シルク!?さっき遠くにいなかった!?っていうかあの距離で見えたの!?」
「あんなに威力がある技、あれくらいの距離なら余裕でみれるよ!それよりボクの質問に答えて!」
首を掴んでがくがくさせられる。
ギブギブ!決まってる!首が決まってるから!苦しい・・・落ちる!落ちる!!
「シルク、それじゃユウナはしゃべれませんよ。首が決まってますから」
ティアもいまの騒ぎでこっちまで戻ってきた。
「あ。ご、ごめんユウナ」
シルクが手を離してくれた。ナイスティア。
「あー。死ぬかと思った」
首絞めもきつかったけど、ギルさんはこんな高威力のタックルを受け続けてるのか・・・尊敬に値する。
「あの技は隙がすごく大きいんだ。だから使いどころが難しいんだよ。それにギルさんみたいに威力を上乗せさせるようなカウンターを使われると自分にその牙を向くからね。使うときは慎重なんだよ」
「一応準決勝で私が使おうとしたんですが、使う前につかまっちゃいましたからね」
ぎく。その話題は避けて欲しい。せっかく罰ゲームがうやむやになって
「ユウナ。罰ゲームはまだとってありますからね」
「・・・はい」
ませんでしたー(涙)
「とりあえず、ギルさんが戻ってくるのを待ちましょう」
「そうだね」
「そうですね」
結局ギルさんはその後、戻ってくるのにずいぶん時間がかかった。
ユウナの心の中「僕の流星脚よりシルクのミサイルアタックのほうが「そんな技!」な気がする」
ティア「罰ゲーム?忘れるわけないじゃないですか(ニッコリ)」
罰ゲームというと千年物のパズルを持つ少年の好物ですね。「罰ゲーム!」ドォォォォン!
余談
ギルさんのいう決闘最後の技はエク○カリバーですね。あれはユウナが勝ててたらちゃんと発動してました。流星脚でもよかったんですが、あのギルさんが素直にあたってくれるわけありません。




