狂乱の宴
7/4、シルクの一人称を「ボク」に修正しました。
キキキキキキキキキキキィン!!
「腕をあげたじゃねぇかギル!ギルマスをしながらいつ鍛えてんだ?」
ガキィン!
「そういうノルドも強くなってるじゃないか!ちゃんと領主の仕事してんのか!?」
準決勝第二試合、ノルド様とギルさんの対戦。どっちも戦闘好きそうだから荒れるだろうなぁと思ってたけど、いきなりド派手な競り合いが目の前に展開された。
ギルさんは短剣二刀で高速戦闘、ノルド様は大剣を扱いながら見事にそれを捌く。そして重い一撃を放つからギルさんも深入りできない。
会場も大盛り上がりだ。
「・・・すごいなぁ。ギルさんの変幻自在の攻撃もそうだけど、それを防ぐノルド様もすごい。戦闘の技術の大事さっていうのが嫌なほどわかる」
「そうですね。私たちに足りないものの一つですよね。羨ましいですが、一朝一夕で身につくものじゃありませんからね」
「ぱぱもギルにぃも楽しそう。早くあの高みまで追いつきたいなぁ」
僕の言葉にティアとシルクが答える。
「・・・」
なんでここにシルクがいるんだろう。
でもあの試合の後、ティアを助けてくれたのはシルクだ。下手なことを言うと薮蛇になりそうでためらってしまう。
そう。あの試合。なんだかぜんぜん勝った気がしない。ティアのあのプレッシャーは種類は違うけどケンさんと比べても劣らない圧力があった。試合中にあれが出てたら僕は間違いなく負けていたという確信がある
とりあえず植物罠のカードは渡した。するとプレッシャーは嘘のように消えた。ティアの様子もいつもどおりだし許してもらえたのかな?聞いてみたいけど、それこそ薮蛇な気がして聞くのに勇気がいる。
僕が悶々としている間にも試合は続いている。
「このままじゃジリ貧だな。一つ手札を切るか」
そういってギルさんは短剣をしまい、シルクと戦ったときに使った背中の二本の曲刀に手をかける。
「ふむ。狼の牙を前にこの剣のままでは心元ないな」
ノルド様は剣を構えると、体が光りだす。それがゆっくりと体と剣を覆っていく。
「ぱぱ、もう闘剣つかうんだ。さすがギルにぃ」
「闘剣?」
「ぱぱはね、普通の剣だと磨耗が激しくてすぐに折れちゃうの。だから編み出したのが闘剣。自分のオーラを剣にまとわせて折れないようにするんだよ」
「あー。すごい納得する。理由も技も」
「でもこの技、すごいスタミナを使うんだ。だから底なしのスタミナとマイペースの技を持ってるぱぱだから実用できる技だね」
「この技、その気になればその辺の枝でも凶器にできますし、軽い素材を使えば攻撃速度を恐ろしく上げることができますね。さすがノートルの町のトップ」
「ちょっとまって。マイペースの技って何?」
「あ、そっか。二人は町の外の人だっけ。あまりに強いから忘れてたよ。マイペースの技っていうのは、戦闘において、絶対に相手を自分のペースに引きずりこむんだよ。だから相手は無意識で必要以上にスタミナを消費するし、自分は見た目以上に消費しないんだ。ちなみにボクも習得してるから、ボクたち親子を相手にする時は長期戦は絶対にやめておいたほうがいいよ」
うわぁ。なにその反則的な技。怖い。オカルト的な意味でも。
「じゃあこのままじゃまずいからギルさんが一つ切り札を使うってことか」
「それに対抗するためにノルド様も一つ切り札を切ったということですね」
「そうだね。ぱぱもギルにぃもあの技使うのは久々なんじゃないかな。あ、ギルにぃはボクに使ったんだっけ」
さて、切り札を一枚ずつきった戦いはどんな事になるんだろう?
やはり動いたのはギルさんだった。
「疾風牙」
一瞬で距離をつめ・・・いや、ノルド様も突っ込んでた!剣先を読みつつ、隙間からオーラを纏った大剣を振るう。
ギルさんは振る剣を止めるなんて人離れした事をし、改めて剣を交差、大剣を弾く。そのまま流れるようにノルド様に剣が肉薄する。
「連牙・夜風」
ノルド様も再び剣を振るうけどギルさんのほうが早い。
「80%」
ノルド様がどっかの漫画の筋肉お化けの弟が言うような台詞を吐く。
ギィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!
ギルさんはそれを剣をクロスさせて受け止めていた。
「さすがにぱぱの80%は攻撃を中断するしかなかったかぁ」
「・・・シルク。ちなみにあれの威力ってどれくらいかわかる?」
「ずいぶん前に悪徳商人のおっきな屋敷を一撃で崩壊させてたよ」
「それは下手によけても余波が確実にダメージになりますね」
80%でそれか。ていうかティア動揺しないね。
「チッ、なんでもかんでも力任せにするんじゃねぇよ!」
「はっはっはっ。悔しかったらお前も筋肉を付けろ。いつまでたっても俺に勝てんぞ?」
「うるさい脳筋!その減らず口を今すぐ閉じさせてやる!」
「やれるものならやってみな!俺の筋肉は見た目の美しさだけじゃねぇぞ!」
「・・・シルク。ノルド様ってナルシスト?」
「ぱぱ?ううん。自分が好きとかそういうことは言わないよ。あ、でも筋肉が好きで、自分の筋肉は特に好きっぽいよ」
そっちかー。
「ほらほらどうした?弾き返せないならもっと力をいれちまうぞ?そら、90%だ!」
「ぐぅっ!こんなものぉぉぉぉ!」
ギルさんがどこかの宇宙最強の宇宙人が特大のエネルギー球を受け止めてるときのようなうめき声を上げる。いや、あれはきついだろうなぁ・・・
「さぁ、一気に蹴りをつけてやろう。うぬああああ。フルパワー! 100%中の100%!!」
「ぐぉぉぉぉぉぉぉ!・・・なんてな」
ギルさんは苦しそうな顔でニヤっとする。
「闘狼月光昇牙!」
ギルさんの体から闘気を発する。交差した剣をずらしながら弾き、腰を落とす。出した足が地面にヒビを入れる。全身のバネを使った二本の曲刀がノルド様を強襲する。
それでも弾かれた剣を前に出すノルド様はさすがだ。
バキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!!
折れたんじゃないかっていうような音と共にノルド様の剣が宙を舞った。
「餓狼烈牙!」
狼の牙がノルド様に噛み付いた。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
体中に剣が突き刺さる!
「やりすぎだ!」
「止めないと!」
「大丈夫だよ。全部急所は外れてる」
実の娘が落ち着いている。いや、落ち着きすぎじゃない?きみのぱぱ血だらけだよ?
「本番だとあれが全部急所に入るんだよ。ギルにぃに敵対する人は哀れだとしかいいようがないよ」
何この子怖い。目の前に広がる光景もすごいし。
「ティア、大丈夫?」
「え、ええ。・・・本当に大丈夫なんですよね?」
「うん。まぁ見ててよ」
ノルド様が倒れる。起き上がる気配はない。
「勝者!ギルさん!決勝はこれも運命か!当人のユウナとギルさんの対決だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!!
会場が盛大に沸く。
そんななか医療班が即座に近づき、治療を開始する。
「リジェネイト!」
血だらけで倒れてるノルド様の傷が塞がり、顔色がよくなっていく。そして何事もなかったかのようにむくりと起きた。医療班の差し出した試験管を受け取ると、中の液体を一気に飲み干す。そして
「あっはっはっはっ。いやぁ負けた負けた」
笑い飛ばした。
「ね?大丈夫だったでしょ?」
ティアは目が点になってる。僕も開いた口が塞がらない。
「こんなに全力になったのも久々だぜ」
「俺はお前を勧誘した時以来だなぁ。悔しいが今回は負けだ」
「まだ一勝一敗だからな。次も勝って勝ち越させてもらう」
「ふん。今度は返り討ちだ。お前が抑えきれないくらいの力で叩き潰す!」
「はっ。言ってろ」
そういいながらも二人はとても楽しそうだった。なんだかあの男同士の友情がちょっと羨ましい。あ、あの戦闘狂な所は別で。そこは別で。大事なことだから二回言った。
「じゃあギル。ユウナのことは任せるぞ。なんとしても勝って彼女をこの町に迎えろ」
「口説く権利を手に入れるだけだぜ?」
「お前が本気で口説くんだ。落ちない女はいないだろ?」
「まぁ逃がす気はねぇな」
ぞくり。
なんだか嫌な予感がする。次の試合は絶対に負けられないような。負けたら今後の人生に多大な影響がでそうなそんな予感がする。
そしてその鍵を握る相手がギルさん。間違いなく強い。
負けない。絶対に負けない。
ユウナ、お仕置き保留中。怖くて聞けません(笑)
余談その一
ノルドとギルの対戦成績はノルドが勧誘した時の戦いです。
そのときはギルが負けて、そのタイミングでノルドはギルを自分の町へと誘いました。
その後ノルドの手によって詐称された身分証を手に入れたギルは、冒険者ギルドに登録してあっという間にAランクまで上ります。ギルドマスターに推薦したのもノルドです。
ギルは「敗者は勝者に従うべき」の精神で勧誘、ギルド登録、ギルマス推薦を受けます。本人はこれで勝者敗者の権利を終わったと考えています。
余談その二
勝負は実力の差をつけたうえでサイコロを使っています。今のところ実力を跳ね返すような猛者はいません。でもこれって最後に大番狂わせがおきるのでしょうか・・・?
ちなみに勝敗によっては本当に物語が変化します。特に変わるのはギル。勝てばティアのライバル、負ければシルクとくっつく可能性が大きいです。




