呪いの爪痕
「し、死んだのか?」
「ば、馬鹿いうな!あのシルク様だぞ!?」
「で、でもギル様のあの技くらったら」
「縁起でもないこというな!」
「お前ら黙ってろ!!」
客たちの勝手な見解をノルド様が一喝する。
「失礼します!」
そういうとティアがシルク様を抱え込む。
パキン
シルク様の持ってた魔剣が地面に落ちると同時に三つに折れた。
ティアは魔剣に目もくれずに脈を計る。少しほっとした顔をした。たぶん命に別状はないんだろう。そういえばギル様はわりと落ち着いて見える。
「サーチ」
そう言ってしばらく難しい顔をする。一瞬、眉が上がった。
「何かあったのか!?」
ノルド様が心配そうに声を上げる。ギル様の顔も少しこわばる。
ティアはそれを手で制すると、
「リフレッシュ、リカバー、カースブレイク」
たぶん魔法を唱えたんだと思う。しかしティアの顔は難しいままだ。
「・・・命に別状はありません。たぶん呪いも解かれてます。しかし・・・」
「し、しかし?」
「精神汚染された形跡があります。汚染自体は消えたのですが、汚染されたときの影響が残る可能性があります」
「な、なんとかならんのか!」
「・・・方法は二つ。リザレクションを使うか、霊薬を使うか」
「ティアは!?」
領主の質問にティアは首を振る。
「私は無理です。ユウナは?」
「ごめん。僕も無理」
「おい!ここに霊薬を持ってるやつがいないか!?いなけりゃかリザレクショ」
「無茶です!それにリザレクションの使い手はこの国に二人しかいません!霊薬など国宝級の宝になってしまいます!」
「ではどうすればいいのだ!?」
「影響が出るのは可能性でしょう!?残らない可能性だってあります!」
「そんな悠長なことを言ってられるか!何かあってからでは遅いんだぞ!」
「すまん。おれがもっと早くに魔剣を処理できていれば・・・」
ギルさんの台詞で静かになる。誰もギルさんを責められない。
「・・・だめで元々です。私とユウナならリザレクションを使うことができるかもしれません」
その台詞にみんなが一斉にティアを見る。
シルク様をノルドさんに任せてティアが立ち上がる。
「ユウナ、私に今までで一番回復向けで、かつ効力の高い身体強化をかけてください」
「・・・わかった」
僕は魔法少女の姿に変わる。
「身体強化!」
まずは自分にかける。そして、
「身体強化!!」
今までで一番力強くティアに身体強化をかけた。
ティアが光り輝く。その光が落ち着つくと、そこには純白のドレスに白い羽を広げたティアがいた。
不謹慎かもしれないけど、心を奪われた。
「ユウナ、「魔法創造」のカードを貸してください」
「・・・」
「ユウナ?」
「あ、ごっ、ごめん、ちょっとまって」
僕は慌ててカードを取り出して渡した。
そしてティアは「全魔法適正Lv10」のカードを取り出す。
「なるほど。僕も方法がわかった。でも二枚連続でカードを使うって大丈夫?」
「わかりません。ユウナのほうが適正も高いと思います。けど回復魔法に関しては適正的にも知識的にも私のほうが適任と考えました」
「うん。僕はリザレクションを知らないからティアのほうがうまくやれると思う」
「すまん。シルクを助けてくれ」
「俺からも頼む」
ティアは領主とギルドマスターに頭を下げられた。
「さっきも言いましたが、うまくいく保障はありません。・・・それでも全力でやらせていただきます。」
カシュン
ティアはステッキを取り出すと、カードを入れる部分をあける。そこにさっきの二枚のカードを入れて閉じた。
カシュ
閉まる音とともにティアを暖かいオーラが覆う。
ティアは一生懸命に回復の力を溜めているようだ。そして両手を前に突き出す。
「リザレクション!」
ファァァァァァァァァァァァ
暖かなオーラがシルク様を包む。彼女の傷がみるみる癒えていく。
オーラはしばらくシルク様を包み続けた。
どれくらいたっただろう。オーラが途切れると共にティアの服が魔法少女に戻って、彼女が崩れ落ちた。
「ティア!」
慌てて彼女を抱きとめる。
かなり憔悴してるように見える。
「ティア、大丈夫?」
「・・・はい。ぎりぎりまで回復に費やしたのでちょっと息切れしちゃいました」
「・・・うん。がんばったね、ティア。ティア?」
ティアは僕の腕からゆっくり手を延ばし、シルク様に触れる。
「ユウナ、マジックポーションを一つください」
「ちょっとまってて」
僕が作った空間からポーションを出すと、周囲に驚かれた。とりあえずそれは無視してマジックポーションをティアに渡す。
ティアはゆっくりそれを飲み干した。
「サーチ」
魔法を唱えるとティアは目を瞑る。しばらくして、
「大丈夫です。異常は見られません。精神汚染の影響もあっても最小限でしょう」
その台詞にみんなが一斉に安堵した。
途端、ティアの延びてた手ががくんと垂れた。
「ティア?ティア!」
「落ち着いてください。たぶん気を失っただけです」
気がつくと後ろに白い服を着た男女が数名いた。
「あなた方は?」
「私たちは今回のイベントの医療班です」
「すまない。我々にもリザレクションはつかえかったのだ」
医療班の方々はそろって肩を落とした。
「いえ。それよりもティアは本当に大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。だが本来使えるはずのない魔法を無理して使ったんだ。精神的に消耗は激しいだろう」
「心配でしたらこちらで彼女をお預かりしますよ」
「・・・よろしく、お願いします」
僕はその意見を受け入れた。僕が無理やり連れて行っても、たぶん対応できない。彼女を救えない自分が悔しい。ティアもこんな気分だったんだろうか。だから力を付けたいって言い出したんだろうか。
「ノルド様、決闘のほうはどうしますか?」
「中止にしたいところだが、かかっている権利もあるしな。ただ一日、二日は一旦休止だ。シルクとティアの様子を見て再開としたいがどうだユウナ?」
「そうですね。そうしてもらえると助かります」
「決まりだな。ヨーレル、あとの説明を頼む」
「はっ。お前らよっく聞けぇ!」
そういって解説者の人は魔道具を使って説明を始めた。
「よし、彼女たちをつれていくぞ」
医療班が動こうとしたタイミングで、僕はティアを抱えて立ち上がった。
「僕が。僕が連れて行きます」
同じようにギルさんもシルク様を抱きかかえてた。
「俺が連れて行く」
「わ、わかりました。じゃあ二人とも、お願いします。こちらです」
決闘は宣言どおり、一旦休止となった。観客も今回の異常は理解をしたので、特別暴動が起きるなどはなかったらしい。
僕とギルさんはティアとシルク様を診療所に運んだ。不安は残るけど時間を置いてみないとわからない。
それでも時間ぎりぎりまで診療所で看病して宿屋に戻った。
宿に戻って食事をして、体を拭く。いつもならまだ寝るには早い時間帯だ。
「何もすることもないしな」
ぽつりとこぼす。よく考えると、今までずっとティアと一緒だったんだよな。
ふとそんなことを考えると少し寂しくなった。
特にやることもないのでそのまま寝ることにした。
普段やらないことをやったから精神的、肉体的にも疲れてるはずなのに、その日はなかなか眠りにつけなかった。




