密会
「すみません、おまたせしました」
「いや、俺もさっききたとこだ」
待ち合わせの時間、梟亭にきた僕たちより先に男は一人できていた。飲んでる姿がすごい様になってる。
そういえばこれだけ色んな話をしたのに、この人の名前まだ聞いてなかったな。
僕は座りながら自己紹介をする。
「そういえばまだ名前も聞いてませんでしたね。僕はユウナ。佐々木ユウナ。」
いちよう変身してきた。身の安全と、男とばれたくないために。
「ケンだ。」
「私はお昼に自己紹介したからいいですね。では本題に入りましょう。」
僕とティアは簡単な食べるものを注文して本題に入った。
「まず会えるかどうかですが、会えます。ただし彼女は現在、何を言っても反応しません。行動することもできません。なので会う場合はお城にきていただくことになります。」
ケンさんの繭が少し動いた。
「もし彼女ならあんなことがあったんだ。心を閉ざしてもしかたねぇ。しかし城か・・・行くことはやぶさかじゃねぇが彼女の確認が終わったあと俺をどうする気だ?」
「正直に言いましょう。投降してください。もちろん悪くしないように手を回します」
「・・・そいつは飲めねぇな」
「やはりそうですよね」
「俺一人、そっちが条件を飲んでくれれば喜んでさしだすが」
「「え?」」
思わず僕とティアは声が揃った。まさか投降してくれる?
「まず最初に俺たちの探している彼女の保護と生活の保障だ。もし確認する子が違っても捜索に協力すると約束して欲しい。次にこの町から周辺の町までの安全確保。今は数が少ないが俺たちという枷がなくなれば賊の数もすき放題やる連中も増えるだろう。俺たちによくしてくれた商人たちも安心して通行ができるようにしてくれ。あと俺の仲間を罪に問わず、生活の面倒を見てやって欲しい。あいつらはただ俺の命令を実行しただけだ。そもそも国が戦争やマインが好き勝手しなければ今頃まともな生活をしていた連中だ。責任をとれ。最後にこれらを受け入れた場合、約束が守られているかしばらく様子を見させて欲しい。それができたら俺に心残りはない。死刑台だって立ってやろう」
・・・要求は人道的なものが多い。ただ実行できるかといわれるとこれは難しい気がする。
「最初の彼女の保護と保障、もし違っても捜索に協力する件は問題ありません。最初にお約束したとおり果たします。二つ目の王都の周辺の治安、これは国王とユウナ様のお約束の中に同じ物があったのでこれから力が入っていくでしょう。三つ目のお仲間の無罪と生活基盤の補助は正直難しいでしょう。命令に納得して行動していますので、ケン様と同じく投降していただくのが一番だと思います。もちろん私たちも罪が軽くなるように助力します。確かに国やマインの失態なのはわかりますが、同じ条件で耐えてきたものもいますし、もしあなた達だけを補助した場合、他の全員にも補助をしないと不平、不満の元になります。これは妥協案をいただけませんか?」
「ない。こちらは最初からこれがぎりぎりの妥協案だ。俺はどうなってもいいが仲間は売れねぇ。これが飲めねぇなら俺は最後まで抵抗して仲間を守る」
「・・・わかりました。たとえ罠をはっても転移者である方を捕獲する自信はありません。今回は諦めましょう」
「すまねぇとは思う。だがこれで飲めねぇって意味がわかっただろ?」
「はい。そこでもう一つ案を持ってきました」
え?僕聞いてないよ?いつの間に?
「裏の世界の秩序をヤマダグミに作ってもらいたいのです。今回レイナムやマインによって裏の世界の脅威を知りました。このまま放置できません。しかし裏に精通する人物がこちらには少ないのです。蛇の道は蛇、裏には裏に精通する人をあてて秩序を作ってもらえれば、普通の生活を営む人たちの安全の向上にもつながります。もちろんシルヴェルトも協力いたします。いかがですか?」
「そりゃこっちも願ってもない話だ。喜んで協力させてもらおう」
「決まりですね。ゆっくりご飯を食べたら早速お城で確認しますか?準備はできてますよ」
「・・・俺の返事も予想済みか。敵に回さなくてよかったぜ」
その後僕たちは神様に会ったときの話やこの世界の常識など、色んな話をしながら楽しく食事をした。
「こちらでお待ちください」
食事をした後に僕たちはお城へ行き、この部屋に通された。
「今回のことはまだ国王にも秘密で行っています。他言無用でお願いします」
「もちろんだ」
さすがにみんなが思うことがあるんだろう。少ない言葉の中で待つ。
ガチャ。
「待たせたな」
入ってくるのはブリットさんとさっきのメイドさん、そして・・・
あの時の偽者ティア。
「ライム!」
ケンさんが飛びついた。
「ライム!おい、ライム!」
・・・当たりだね。
っ!今少し反応があった!
「今、ちょっと動いた!」
「本当ですか!?」
「ライム、戻って来い、ライム!!」
「・・・ケン、さん?」
「そうだ!俺だ!わかるか?」
「・・・うん。わかる。あれ?ここはどこ?私どうしてこんなところに・・・」
ケンさんはライムちゃんを抱きしめる。
「今は思い出すな。ゆっくりでいい。ゆっくり思い出していけ。」
「う、うん・・・」
よかった。本当によかった。彼女は壊れてなんてなかった。心を閉ざしてたんだ。そんな彼女の心をあけられる人がいて本当によかった。
僕は涙が止まらなかった。隣にいるティアも顔を伏せて震えている。
「おめぇら本当にありがとう。どれだけ感謝してもしたりねぇよ。・・・なんだ。こいつのために泣いてくれてんのか。嬉しいじゃねぇか」
ケンさんの顔はあの殺気を放った人とは思えないくらい穏やかな顔になっていた。
それをきゅっと引き締めるとブリットさんのほうを向いた。
「シルヴェルト侯。あんたにも感謝する。そして約束は必ず守る」
「あぁ。お前の活躍、期待している。今日は私の屋敷に泊まるがいい。ティアを同行させて事情を説明させる。積もる話もあるだろう。ゆっくりするといい。ティア、頼んだぞ」
ティアはハンカチで顔を拭くと今にも泣いてしまいそうな顔で返事をした。
「はい。お父様」
「ユウナ殿。三人の護衛兼見張りをお願いしたい。その後ぜひ泊まっていってくれ。私は今日は城で泊まる」
僕も手で涙をぬぐって二つ返事で了承した。
「ライムさん、目覚めてよかったですね」
「本当に」
僕の言葉にティアが相槌をうつ。
現在、シルヴェルトの屋敷へ向かってるところだ。ライムは覚醒したことに脳がついていってなかったのか、すぐに眠ってしまった。今はケンさんに背負われている。ケンさんはどこか幸せそうだ。
「ケンさん、わかっているとは思いますが、彼女の記憶を思い出させるのは注意してくださいよ。あの時の記憶がフラッシュバックしてまた心を閉ざしてします可能性もありますからね」
「あぁ。ありがたく忠告をうけとろう。さて、俺たちはこれで目的を達したんだが、お前たちはこれからどうするんだ?旅の途中だったんだろう?」
「そうですね。改めて西に向かってみようと思っています」
「悪いことは言わない。今西に行くのはやめておけ」
「え?」
「おじょ・・・ユウナの実力を考えれば大丈夫だとは思うが、今ファンガの一部の地域でなにやら怪しい動きがある。下手をすると戦争の引き金になるかもしれねぇ。その影響がこの国の最西の町のショウレンにも出る可能性がある。よほど何かの理由がないのならわざわざ厄介ごとに足を突っ込むこともないだろう」
確か数年前まで戦争してたところだしね。
「ティア、今日は遅いから明日、改めて行き先を考えよう」
「そうですね。今後の予定を立てましょう」
屋敷に着いた僕たちはティアの説明で部屋を用意してもらい、僕はひとまず色々うまくいった満足感に浸りながらベッドにダイブ。あっさりと意識を手放した。




