商人の正体
・・・ナ・・ウナ
なんだろう?声が聞こえてくる・・・
「ユウナ!ユウナ!」
「・・・ティア?」
「気がついたのね?」
「うん。ここどこ?なんでこんなところ・・・はっ!僕確か戦闘中に!あの男は!?」
「大丈夫。全部終わったから」
ばっと起き上がる。どうもティアに抱えられてたみたい。情けないようなもったいないような。
例の男は縛られたあの男と襲っていた連中がまとめて縛られていた。
とりあず一安心する。
「これ、ティアがやったの?」
「いいえ。これはあなたのお母様がやったんですよ。」
「え?」
母さんが?どゆこと?
「ユウナが召喚したんじゃないの?お母様は「偶然」って言ってましたけど・・・」
そういえば気を失う前に一か八か自分に召喚をかけてたっけ。賭けには勝ったんだね。
・・・え?ちょっとまって。それで偶然母さんがきたの?あの男に勝ったの?
「母さんが来たの?」
「はい。お強かったですよ。ユウナの強さはお母様譲りなんですね」
マジか!母さんが魔法少女で天才って呼ばれてたのは聞いてたけどあの強そうな男を倒せるくらい強かったんだ。
・・・想像できない!いい母さんではあったんだけど・・・
「戦闘の状況聞きます?」
「・・・いや、それはまた時間のあるときで。とりあえず現状を教えてもらっていい?」
気にはなるけど今は状況が状況だしね。
「えっと、とりあえず襲撃者はあのようにまとめてしばっちゃいました。でもお母様が意味深なことを言われてたんですよ。「あの男が目を覚ましたらちゃんと話をききなさい。自分の思い込みだけで行動してると、いつか痛い目を見るわよ。気をつけてね。」って。」
「それってこの件のことだよね?確かに襲われてるからって理由で割り込んだけど、何か事情があるのかな?」
そう言って商人を探す。いた。気絶してる・・・
その護衛っぽい人たちもまだ気絶してる。
「あの男のプレッシャーとさっきの戦闘についていけなかったんでしょう」
「・・・そんなにすごかったんだ」
どんな戦闘だったのかますます気になる。
「まずは言われたとおりあの男に話を聞いてみましょう」
「そうだね」
ティアは縛った男に近づく。
「起きている」
渋くて低い声が聞こえた。
「あ、それは失礼しました。じゃあ約束ですのでお話聞かせていただけますか?」
「あぁ。約束は守る。俺たちはある少女を追ってここまできた。その商人はその手がかりだ」
「手がかり・・・ですか?」
「そうだ。俺たちは見ての通り盗賊だ。そんな俺たちに優しくしてくれる人がいた。村があった。俺たちは返し切れないほどの恩義を受けた」
そこで男は少しだけ沈黙した。
「・・・だが、その村はある男の手によって消された。俺たちは復讐を誓った。そして村を消した男の正体と生き残りがいることを突き止めた。俺たちは必ずその男を殺す。そして彼女を助ける」
殺気は放ってないはずなのに。寒気がするような視線だ。
「手がかり・・・といいましたよね?彼らはどんな手がかりなんですか?」
「そいつはその男御用達の奴隷商人だ。もしかすると彼女が売られてる可能性があるから先に接触した」
僕は息を呑んだ。この国はまだ奴隷制度が残ってる。女奴隷っていうものに興味がないって言えば嘘になる。でもたぶん現場を見たらきっと納得できない。
ティアは何か考えてるみたいだ。
「ということは生き残りは女性で罪人か獣人ですか?」
「・・・その通り。彼女は獣人だ」
獣人に人権はない。っていう話がここでは現実味を帯びて感じる。国王が約束を守って制度の改革を進めてはくれてるだろうけど・・・
でもこんな話を聞いたら僕は助けたいって思う。なんとかならないのかな・・・
「一つ聞いてもいいでしょうか?あなた達はどうやって助ける予定ですか?それと助けた後はどうするおつもりですか?」
「どんな手段を使っても彼女を助け出す。助けた後は隣のファンガかその上のアイゼン帝国へ逃がすつもりだ」
「逃がした後のことは考えてませんか?」
「逃がした後?」
「はい。もし逃亡が叶ったとしても、生活をするのが大変でしょうね。逃亡生活ですし。安い賃金でこき使われるか、危険度の高い冒険者になるか、体を売るか、身売りをするか、悪に手を染めるか・・・」
男は黙る。そこにいつのまにか気がついたであろう襲撃者の一人が叫ぶ。
「奴隷よりはましだ!」
「そうでもありませんよ。今国王が奴隷制度を見直しているところです。最低限の衣食住は保障されますし、極度の暴力は罪になりました。それにもとより奴隷って身分だけで、対等にすごしている方も多いです。まぁ奴隷を推奨するわけではありませんが。」
「なんだと!?」
これに驚いたのは男だった。
「あの男がそんなこと許すはずがないだろう?」
「いいえ。本当ですよ。嘘だと思うのでしたら、グランヴェリアで確認してください」
あの男っていうのが気になるな。
「もしそれが本当だったとして、じゃあ彼女が幸せになるためには俺たちはどうしたらいい?」
「そこなんですが、私たちも協力させてください。いいですよね?ユウナ?」
「もちろん」
ティアが同じように考えてくれてることが僕は嬉しかった。
「信用できねぇ」
男は言った。当然そうだろうね。
「じゃあこのまま奴隷となるか逃亡生活となるか、ですね」
「・・・何かいい案があるのか?」
「うちでよければ引き取りましょう。今までたくさんの獣人を引き取ってきたのです。今の町の状況を考えても歓迎でしょう。彼女さえよければ・・・ですが」
ラフィンドや彼女の屋敷にたくさんの獣人さんがいたことを思い出す。確かにあそこならいい環境かも。
「あんた何モンだ?それになぜそこまでしてくれる?」
「私の名前はティア。ティア・シルヴェルト。そんな話を聞いて放っておくなんてできません」
「英雄の娘か。確かにそれなら信じられる。・・・あんたが本人ならな」
「そんな貴族様がこんなところにいるわけがないだろう」
「ちげぇねぇ」
あ。いつのまにか全員意識を取り戻してる。次々にそんなこと言ってるんだけど本人なんだよねぇ。
「彼女を助け出してからグランヴェリアでもラフィンドでもいいので確認してくれればいいですよ。それまでは信じてもらうしかないんですが」
「逆に俺からも聞こう。俺が嘘をついてるとか考えねぇのかい?」
「ユウナのお母さんに「あの男が目を覚ましたらちゃんと話をききなさい。自分の思い込みだけで行動してると、いつか痛い目を見るわよ。気をつけてね」って言われたんです。今回は助けたいって気持ちもつよいんですが、せっかくなので色々勉強させてもらうつもりです」
男はしばらく沈黙してた。そして。
「わかった。協力に感謝する。」
ティアはにっこりと笑った。
「交渉成立ですね。よろしくお願いします」
「こちらこそ。まずはこの馬車に彼女が乗っていないか確認させて欲しい」
「そうですね。じゃあ確認を・・・」
ぶちんっ!
襲撃者を縛ってたロープが切れた!?
僕と一緒にティアもびっくりしている。
「あわてねぇでくだせぇ。俺は逃げも隠れもしません」
そういって馬車の入り口に向かって歩いていった。
「だめだ。いねぇ」
そう言ってすぐ戻ってきた。
「あとはあの男に直接聞くしかなさそうだな。その商人ならあの男に会うタイミングがあるはずだ。そこを狙う」
ここでそろそろ一つ情報あわせをしたい。
「さっきからあの男あの男って言ってますが・・・だれですか?」
男に問い合わせてみた。
「宮廷魔道士筆頭。マイン=ジェリド」
元の世界のユウナの記憶はみんなから消されたはずなのになんで母親は覚えているのか?
実は母親は亡くなっていて、英雄として神様に魂が保管されているんです。
という裏設定でした。




