花咲く旅路
今日から第二部です。
「この静けさ、昨日の喧騒が嘘みたいだよ」
朝も早い時間、僕は町の外に向かって歩いていた。朝なら静かに町を出られると思ったのは間違いじゃなかったね。
僕は当初の計画通り、この世界を見て回ろうと思う。
昨日は懸賞金の騒ぎが大きかったので、一日お城に泊めてもらった。別れの挨拶は昨日のうちに済ませた。
さっきお城からでてきたんだけど、スプライトさんとブリットさんが見送ってくれた。
ティアさんはいなかった。朝も早いし寝てるんだろうなって思うけどちょっと寂しかったのが本音。
そのせいかブリットさんはすごく申し訳なさそうな顔をしてた。
そんな朝の静けさを楽しみながら入り口の門まで近づいた。
・・・近づくにつれてここ最近見慣れた人がみえてきた。いやいや、見間違いかも。目をこすってもう一度確認。
・・・間違いない。ティアさんだ。
「ユウナ様」
「・・・ティアさん?こんな朝早くにどうされたんですか?」
動きやすそうな格好、後ろのリュック。まさかね?
「はい。ユウナ様についていこうと思いまして」
・・・やっぱり。それでも僕は心の奥底ではすっごい喜んでる。でも旅はきっと大変だ。ティアさんは貴族のお嬢様だから、不便だろう生活に連れまわすわけにはいかない。
「ティアさんには無理ですよ」
「どうしてですか?」
「まずは体力。一日歩き通しだったり、モンスターとだって戦わないといけません」
「あぁ。実は私、体力あるんですよ。そのくらい平気ですよ」
「え?体力あるんですか?」
「はい。体力なさそうに見えるでしょ?これはそう見せてたんです。実際にはよく変装して町の中を歩き回ったり、自警団に協力して治安維持に協力してたりしたんですよ」
「そうみせてた理由ってなんです?」
「敵を油断させるためです」
「・・・なるほど」
「嘘だと思うのでしたら一度連れて行ってください。途中でへばったりしたら、おいていっても引き返して町に強制送還されても文句をいいません」
自信満々です。これきっと嘘じゃないです。でもまだだ。
「次に生活環境。野宿はあたりまえ、お風呂だってないし、食事だって安定して取れません。そういう保障はないんですよ?」
「はい。そうでしょうね。いい経験ができると思っています」
・・・だめだ。断りきれない。
「ユウナ様にとって私はいては迷惑ですか?」
上目遣いで目をうるうるさせて言ってくる。
だめだ僕!心を鬼にしろ!ティアさんが安心して暮らしてくれるほうが僕には嬉しいだろ!
「・・・正直に言うと足手まといです」
「足手まといじゃなければ連れて行ってもらえますか?」
「はい。足手まといにならない証明ができますか?」
僕のその台詞にティアさんがにっこりする。
「言質、とりましたからね?」
・・・嫌な予感がする。
ティアさんは服のポケットをごそごそしてると思ったら、グーにした手を差し出した。
握り締めた指をゆっくり開く。そこには大きめの緑色の宝石が。まさか!?
「さすがにここじゃあ使えませんけど、これの正体わかりますよね?」
意味ありげに微笑むティアさん。
「・・・本物ですか?」
「ええ。本物です」
そう言う宝石はブレスレットの形になった。
・・・本物だ。そういえば昨日寝言で不吉なことを言ってたな。
「これで私は足手まといにはなりませんよね?」
「ででででもほら、ブリットさんが許し「お父様は昨日のうちに説得、了承済みです」あぅ」
「でも領地の統治とか「お父様が戻られたので私問題ありません」あぅあぅ」
「ほら、身分もありますし「旅の間は貴族なのを隠しましょう」あぅあぅあぅ」
ブリットさんのさっきの顔ってもしかしてこれが原因?
だめだ。もうティアさんを説得する要素がない。
「最後に聞きます。他にもいろんな不安要素があります。僕だって初めての旅ですから。それについてくる覚悟ありますか?」
「はい。どうか私を一緒に連れて行ってください」
「・・・負けました。それじゃあ一緒に行きましょう。」
ティアさんここで改心の笑み。やばい。嬉しくて顔がにやける!
僕は顔を見られないように早足で歩き出す。
「これからよろしくお願いします。ユウナ様」
こうして僕とティアさんはこの世界を見る旅へと出発した。
「それにしてもよく僕が西に行くことがわかりましたね?」
グランヴェリアをでてから、僕たちはゆっくり西に移動していた。ちなみに町をでてしばらくしてから男に戻った。
危険度はあるけど、やっぱり僕は男でいたい。この格好でも多少戦えるだろうし。
「ユウキ様はラフィンドを見られたでしょう?ですから逆から回ってみていかれると予想したんです」
するどい。
「でももし僕が他の場所から見ようと思ってたらどうしたんです?」
「そのときは私がユウキ様を見抜くことができなかった、運や縁がなかったと思ってあきらめてました」
なんだか嬉しいような残念なような複雑な気分になった。
「しかしこうやって歩いて移動するのもいいものですね。風が気持ちいい」
ティアさんが目を細める。
「そうですね。こっちの世界に来てから本当に忙しかったから、こんなにのんびりと風を感じられる時間が贅沢に思えますね」
そんなことを話しながら花をみて楽しんだり、遠くの山を見て感動したりしながらゆっくりすぎる時間を楽しんだ。
「そうだ。ティアさん、僕のことは呼び捨てでいいですよ」
「え?いきなりどうされたんですか?」
「ほら、これから一緒に旅をするんですから、「さん」とか「様」とかつけて呼ばれるよりそのほうが親しみやすいかなぁって。あ、嫌ならいいんですよ。嫌なら」
もうちょっと親しくなれると嬉しいかなぁっていう僕の下心だ。貴族の人にそれを望むのは厳しいかな?
僕のそんな思いに対してティアさんはくすくす笑いながら答えてくれた。
「いいですよ。でもユウキ様が私をよびすてにしてくれたらです。」
「はい!?え、えっと・・・てぃ、ティア」
「はい。ユウキ」
うわぁぁぁぁぁ。これかなりはずい!恥ずかしい!ティアさんも顔が赤い。でもどこか嬉しそうだ。
「は、恥ずかしいですね」
「はい。でもちょっとづつなれていきましょう。使っているうちに自然にできるでしょうから」
お互いに笑い合う。
「たっ、助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
思わず僕もティアさん・・・っとティアも助けを呼ぶ声のほうを見た。
「ティア、今の!」
「聞こえました!行きましょう!」
僕たちは走り出す!
「ユウキ、変身していきましょう!まず間違いなく襲撃をうけているでしょうから!」
「そうだね!」
「「変身」」
僕は魔法少女に変わる。隣をみるとティアも魔法少女の格好になっていた。こうやって現実になると、もう認めざるをえない。白と青を基調とした清楚で爽やかなイメージの服だ。あれ?でもどっかでみたような・・・
あ!城に殴り込んだときに身体強化をかけたときの服だ!あの時は僕と同じピンク色だったから気づかなかった。色が変わるだけですごくイメージが違う。でもすっごい似合ってる。むしろこの色のほうがティアには似合う。
僕が見つめていたことにティアが気づいた。
「どうされました?」
「いや、こんなとき不謹慎だけどさ・・・すっげぇ似合ってる」
ティアが赤くなった。かわいすぎる。かわいさが罪だったらティアの罪は重罪だ。
「あ、ありがとうございます。ユウナもすごい似合ってますよ」
・・・あまりうれしくない。
そうこうしてるうちに馬車が見えてきた。襲ってるのは五人!二人が警戒して、一人が馬車の中に入ろうとしてる!一人は倒れた護衛を見張りながら、最後の一人がしりもちをついて震えてる商人っぽい人を剣で脅してる!
「ユウナ、切り替えていきましょう。まずはあの人たちを救います!」
「賛成。僕がひきつける。ティアは脅されてる商人を救ってあげて!」
「お気をつけて」
「お互いにね。じゃあいこう!」
そういってティアの初陣はきっておとされた。
ちょっといい雰囲気だったのに。惜しかったなぁ。
ティアは男のユウキのときはユウキ、魔法少女のユウナのときはユウナで呼んでます。




