閑話:それぞれの憂鬱。
閑話です。たぶん読まなくても本編はわかると思います。
いちよう、第一章の空白の穴埋めの目的もあります。
最後はあんまり憂鬱っていうお話じゃないかもしれません(^^;)
閑話その一:神様の憂鬱
「むぅ。今回もいまいち」
これで何人目だろう?今回も面白みに欠ける。
僕はこの世界で「神様」って言われる存在だ。といってもたいした事ができるわけじゃない。細かいことは省くけど、基本は個の世界の管理と運営をしている。やりがいはあるんだけど、それが何千、何万年と続くとさすがに飽きてくる。
そんな時、僕の管理している世界で異世界に転生、もしくは転移するという創作話があることを知った。
人間は面白いことを考える。僕はこれを実行できないか他の世界の管理をしてる神に持ちかけてみた。
これがみんなかなり乗り気。娯楽に飢えていたのは僕だけではなかったのでとんとん拍子に話が進んだ。
そしていくつかの世界に僕の世界の人間を送り込んでみた。結果はいまいち。
まず死亡率が高い。理由はいろいろあるが、一年も生きていたらいいほうだ。
次は壊れてしまうもの。その世界についていけなかったり、元の世界にもどれない絶望などで自暴自棄になってしまう。
そしてそんな中でも生き抜くものも少数いるが、あまり面白くない。
こんなはずじゃない。僕は改めて僕の世界の創作話を読んだ。そして気づいた。
特別な能力をあげればいい。
人間はそれをチートとかいうらしいけど、これがあればまず死亡率が減る。そして能力があれば自暴自棄になるものも減るだろう。早速僕は他の神と意見を交換し、何か特別な能力やアイテムを付けるようにした。
すると面白い行動をするものが増えた。
そうだ。僕たちが求めていたのはこれだったんだよ。
モンスターに転生したけど、それをうまく生かしてるもの。新しい恋を目指すけど、予想以上の成果に戸惑っているもの。勇者になって世界を救ったり、魔王になって世界を牛耳ったり、ハーレムを目指した魔法使いもいたね。
そして楽しくなってきた異世界への転生や転移の次のターゲットを探してるとき、ついに見つけた。
特殊な能力をあげなくてもとびっきりの才能を持っている彼を。
彼の母親は魔法少女として活躍、天才って呼ばれてた。
そしてその才能をしっかり引き継いで、なおかつ魔法使いとして能力を底上げする条件をいくつもクリア。
なにより男が魔法少女の才能とか!しかも異世界でだよ?面白くならないわけがない!
僕は早速彼を呼び出す。僕たちの大きな期待を秘めて。
閑話その二:王様の憂鬱
「またか」
ワシは重いため息を吐いた。またハズレを引いたらしい。
ここは召喚の儀式に使っている広間。そして目の前には勇者として召喚したはずの異世界人。
しかしほんのわずかの希望を託し、問いかける。
「おぬしは勇者か?」
「いいえ違います」
即答された。これに少しムッとしたワシは少々辛口な返事をする。
「やはりそのようだな。見るからに若造だし、体格もちょっとな。ステータスの鑑定もしたが特にこれといった長所や能力もない。そのようにでておる」
明らかにムッとしておるが態度の悪いおぬしが悪い。
召喚人がきょろきょろとしてるところに宮廷魔道士筆頭のマインが近づいてきた。
こやつは五年ほど前から台頭してきた天才魔法使いだ。いまだ追随を許さぬ魔力と既存の魔法、それに加えてオリジナルの強力な魔法、さらに魔法道具まで作れる錬金術にまで精通しておる。頭の回転も悪くない。そこを買って今はワシの相談役もやらせている。
「王よ。いかがなされますか?」
「マイン、やっと人が召喚できたのだ、勇者ではないのか?」
「残念ながら。ステータスを確認されますか?」
「いや、おぬしがないというのならないのだろう。そこは信用している」
「ありがとうございます」
「役に立ちそうか?」
「それも無理でしょう。ステータスが低いのです。特殊能力が一つあるようですが、あの能力値ではそれも期待できないでしょう」
「そうか」
我らは今、戦争の準備をしておる。隣国の獣人王国ジュライグを攻めるためだ。
この国では獣人に人権を認めていない。奴隷として扱っている。当然それを認める国や獣人の国からは敵対された。
十年前、その戦争で先王が亡くなり、急遽ワシが王位についた。
一時は滅亡寸前まで追い込まれたが、一人の英雄によって救われた。
国力の疲弊はひどかったが、ここでも英雄が活躍して大分国力を取り戻した。
そしてマインは国力を増やすため、今こそ獣人の国を攻めようと提案してきた。
貴族も賛成派が多数を占めたため、この案は通した。
今回の勇者召喚もこやつの助言だ。方法もやつの魔法道具でできるといっていたが失敗が続いている。人が召喚されないのだ。そしてようやく成功かと思ったが能力の低いハズレをひいた。勇者でなくても能力の高い者がでれば戦力として期待したのだが、まさかこんなことになるとは想像していなかった。
「それでどうする?」
「はい。戦力にはなりませんが、労働力として雇えば問題ないかと。ただいなくてもよいので二つの提案をしましょう。一つ目はこの城で働くこと。変わりに衣・食・住の保障はする。無論給金もだします。二つめはまとまった金を渡して城を出ること。こちらは金を渡したら今後干渉も保障もなく、己の力で生きていってもらいます。いかがでしょう?」
「ふむ。こちらも召喚した手前、悪い条件ではあるまい。それでいこう」
このあとこの男は二つ目の提案を受け入れ、城を出て行った。
後にマインの暴走を止め、英雄を冤罪から救う異世界人が現れる。この者はワシらが召喚した男の妹だといった。本来ならあの時妹のほうが召喚されてるはずだと思うのはワシの思いすごしだろうか?
もし妹がちゃんと召喚されていたら、この国の勇者になっていたはずだ。マインのことといい、ワシはつくづく運がないのかもしれん。
閑話その三:英雄の憂鬱
「ブリットよ。おぬしの死刑は今日の午後から執り行う。よいな」
よいわけはない。私は無実だ。だがここでそれを言うわけにはいかない。人質にされた娘の命がかかっているのだ。
私の名はシルヴェルト・ブリット。ラフィンドの町を王から任された貴族だ。六年前伯爵から侯爵になった。最近は英雄なんてもてはやされる。ただやらなければいけないことをこなしていただけの私に英雄なんて分不相応だと思っている。
そんな私がなぜ、今国王に死刑を宣告されているのか。どれもこれもあのレイナムの仕業だ。
レイナムと私は戦争反対派と戦争強硬派という二つの派閥に分かれて争っていた。
数年前、戦争でたくさんの人が死んだ。私は嘆いた。なぜこんなことになったのかと。
この国では獣人は人権が認められない。見つかり次第奴隷とされる。
当然獣人国家や獣人の自由を認める国家に睨まれた。そして長きにわたり戦争を続けてきた。
国力を疲弊しすぎた国々は停戦条約を結ぶ。
私は考えた。どうしたら戦争を起こさずにすむのかと。国が豊かなら相手から奪うようなことはしないと考えた私は自分の治める領地の収入を増やすべく考え、努力、奔走した。元々領主になってから税の軽減や治安の強化をしていたためか、ラフィンドの町はどんどん発展した。
しかし、国力を回復すると再び戦争ムードになってくる。私は愕然とした。こんなに早くに再び戦争の話が出てくるとは予想していなかったのだ。しかもあれだけひどい目にあったというのに貴族が賛成多数だというのだ。
私は再び考えた。戦争の原因は国力を増やしたいという思惑がある。だからこの国では認められない獣人の国ならば奪ってもいいという考えなのか?
そもそも私はその考え方がおかしいと思うのだ。姿は微妙に違えど同じ言葉を話し、同じようなものを食べ、同じようなところに住んでいるものをなぜ違うというのだ?
そうか。この考え方を変えればいいのだ。そう考えた私は戦争反対と共に、獣人の人権を認め、奴隷を廃止するべく行動を始めた。
敵対者も多かったが、英雄と呼ばれた私を慕ってくれる貴族や、私の話に耳を傾けてくれた貴族が徐々に私に味方をしてくれ、気がつくと戦争強硬派に迫る派閥となっていた。
当然レイナムにとって私は邪魔な存在だ。数々の嫌がらせを受けてきたのだが、最近は嫌がらせの範疇を越えた物事が増えていた。身の危険を感じた私は王都から娘をわが領地のラフィンドへと送った。これが間違いだった。
娘は移動の途中で捕まってしまったのだ。
私の元にレイナムから脅迫の手紙が届いた。半信半疑だったが、待ち伏せされて、娘の姿を見せられ、私は条件を飲むしかなかった。
私に要求されたのは、この国でクーデターを起こすために兵士を集め、反逆しようとしていたと認めることだった。
私に選択肢はなかった。
まだ何か手は残されていないか、私は必死に考えた。しかし査問会はありえない速さで行われた。
もはやこれまで。そう思ったときだ。
私を、いや、この国を救う聖女が乱入してきた。
私はこの瞬間を感謝し、一生忘れないであろう。
「異議あり!!!」
明日はマインの閑話予定です。




