黒い暴風の影響
「では、ユウナ様お願いします」
「は、はい」
兵士その一に言われて僕は空間創造でつくった空間からワイバーンの顔の部分だけを出す。
それだけで城からまっすぐに通っている広い道路の建物のぎりぎりまで幅を使った。
僕が今何をしているのかって?懸賞金をもらう準備・・・かな?
今回のワイバーン、かなりの暴れっぷりで民を恐怖のどん底に叩きいれた。そのために。クラレイト、ジオーネ、カーネリアの三国から懸賞金をかけられているので、倒した証拠を見せて民を安心させること、たくさんの証人を作ることが目的で懸賞金の授与を大々的に行うんだそうだ。
僕が結構嫌がったんだけど、国のため、民のためという国王とジベルさん、スプライトさんにブリットさんまでお願いされて結局僕が折れた。
あ、ジベルさんは僕がこの世界に来たときに王様からのお金を渡してくれた人。実は大臣だったらしい。
国王といい、ジベルさんといい、僕がこの世界に来たときと態度が違いすぎると思うんだ。
っと話がそれた。
というわけで話が決まって午後から早急に準備がされた。ワイバーンが大きいのでお城の敷地内じゃ無理ってことでお城の前にある大通りをつかってやるんだけど、王様が城の入り口の扉の上の部分にいることと、兵士が通行規制をしたこと、お城からの通達なんかもあって見学する人はバンバン増えてる。
この頃僕は緊張も胃の痛みも最高潮。
で、連絡係の兵士さんから指示をもらったので顔だけ出したのが今。
とりあえず顔だけかな。体は無理。建物つぶしちゃう。
しかたがないよね?っていう目で王様を見ると王様すっごい驚いてる。というか兵士も町民もすっごい驚いてる。声が遠くからしか聞こえない。
・・・な、何か言ってくれないとすごく不安なんですけど!
胃が痛い。これリフレッシュで治らないかな?
「こ・・・これは想像以上に大きいな」
「は、はい。これほどとは・・・」
変身によってよくなった耳が王様とジベルさんの声を拾う。
あー。そういうことか。ワイバーンって思い込んでみると予想外だよね。僕もドラゴンと間違えたくらいだし。
兵士からは
「こんなのどうやって倒したんだよ」とか「これ倒せるやつに俺らがかなうわけなかったな」とか聞こえてくる。
町民からは
「噂は本当だったんだ」とか「こんなやつが襲ってきたらと思うと気が気じゃない」とか聞こえてくる。
改めて思う。こいつすごい大変なやつだったんだ。ドラゴンじゃないって落ち込まなくてもいいくらいに。
・・・うーん。やっぱり言葉にするとインパクトに欠ける気がするのは僕の気のせいかなぁ?
徐々に現実を受け止め始めた声は、やがて歓声に代わっていった。
「もうアナザードラゴンに怯えなくてすむんだ!」
「俺たち安心して暮らせるんだ!」
そんな声を王様の声が一括する。
「静まるがよい!」
その声を聞いてみんなが一斉に静かになる。これってちゃんと声が届いてるってことだよね?僕のところにもクリアに聞こえたから魔法道具か何か使っていそうだな。
「みなのもの、聴くがよい!突然のことで戸惑いがあるだろうが今見ての通り、黒い暴風、アナザードラゴンと呼び、破壊の限りを尽くした黒き厄災は倒された!我々の生活に一つの不安が取り除かれたのだ!この危機を救ってくれた勇敢なものに約束の褒美を与える!ユウナ殿!」
うぇっ!?名晒しぃぃい!?
「は、はい!」
ここまできて逃げるわけにもいかないので返事をする。僕の周囲が一斉に僕を見る。
うぅ。恥ずかしい。
扉のほうからお金の入った袋を持ったジベルさんが近づいてくる。
「あらかわいい」
「あれ?あの子って昨日お昼頃に騒ぎを起こしてた?」
「魔法少女とか名乗っていたわね」
「見間違えないって。あんな服着てるやつまずいない」
「あんな子が倒したの?あの黒い暴風を?嘘じゃないのか?」
「彼女は昨日、我が城に討伐の報告へ来てくれたのだ!さらにその場で宮廷魔道士筆頭の不正を暴き、この国の危機を救ってくれた恩人でもある!ワシはこの褒美を与えると共に、彼女が願ったこの国の民が安心して暮らせるように!この国で悪事を働かせぬように!全力を尽くすことをここで約束しよう!」
「なんだって!?それじゃあ昨日の騒ぎの原因は?」
「その宮廷魔術師の仕業か?」
「それに彼女の願いが私たちの安全?」
「まるで聖女様だ」
「昨日の魔法少女が聖女様だって?」
「お、おれ彼女が空を飛ぶ瞬間見た」
「噂じゃあの黒い暴風と空中で戦ってたって」
「ほ、本物か?本物の聖女様なのか!?」
いろんな言葉が行きかうのが嫌でも僕の耳に入ってくる。お願いだから放っておいて!これ以上僕を持ち上げないで!
僕の前まできたジベルさんが袋を差し出す。僕がそれを受け取るタイミングで王様が再び語る。
「さぁ、皆で彼女の偉業を称えようではないか!」
僕の願いはあっさりかなわなかった。
「魔法少女万歳!」
「流星の魔法少女万歳!」
「天空の聖女万歳!」
「救国の聖女万歳!」
ちょっ!ラフィンドでついた名前までなんでここで聞こえるの!?おかしいでしょ!?
やめてぇぇぇ!誰か止めてえぇぇ!
そんな僕の心境しらずに、今度はスプライトさんとブリットさんが近づいてくる。
「いや、改めてみるとすげぇな」
「こんなのがラフィンドやグランヴェリアを襲っていたらと思うとぞっとする」
「二人とも僕の気持ちも知らずにのんきですね」
ちょっと恨みがましく言ってみる。
「俺はともかくブリットはわかるだろ。な?英雄?」
「こればかりは自分ではなんともできんからな。慣れるか諦めるしかないぞ?」
「うぁ。経験者の言葉は重みが違いますね。前向きにぜんしょします。そういえばお二人はどうしてここに?」
「あぁ。思った以上に反響が大きくてな。王が首を欲しいと言ってな。いちよう今回のお披露目で証拠としては十分らしいから、だめならこの場でしまってくれればいいし、いいのならこの場で切り落とす。もちろん首の分の金は別途で払うそうだ」
そういえば二人の手には立派な剣が。でも切れるのかな?
「切れますか?こいつの皮膚本気で固いですよ?」
「大丈夫だろう?私の剣はこの国で唯一金とミスリルでできている」
「俺のは王からこのために借りた魔剣だ。マインの作ったやつだが性能は保障つきだ」
なんだかすごい剣が出てきた。魔剣とかかっこいい。というかあいつそんなものまで作れたのか。
「そういうことでしたら僕はかまいませんよ。胴体だけでも残れば使い道は色々ありそうですから」
「わかった。それじゃやるぞスプライト!」
「おう!ぬかるなよ?」
そういうとスプライトさんは反対側へ跳んでいく。
「むんっ!」
ブリットさんが気合を入れると武器から黄金色のエネルギーが放出される。
なにこれかっこいい!
そしてジャンプ!向こう側ではスプライトさんがジャンプしてる!
「金剛烈刃!」
「うなれ!魔刃の刃!」
二人の攻撃が交差する。そして見事に首を切り落とした。
「よし。後は兵どもに任せてもいいだろう」
「いや、この大きさ、王はどうなされるおつもりなのだ?」
「さぁな。いざとなればマインの残した魔法道具もある。なんとかなるだろ」
「あやつ能力だけは本当に優秀なのだがな」
「違いない」
首を切り落とした二人が盛り上がって会話に混ざりにくい。とはいえなんかいいものが見れた気がした。
さて、これで僕が王都にきてやることは全部終わった。これからどうしようかなぁ・・・
さすがにこんなに盛り上がってる中を歩く勇気というか度胸は僕にはない。
「あの、お二人の話中にすいません。ワイバーンの首、少し割引するのでほとぼりが冷めるまでお城にいてもいいですか?」
ほとぼりが冷めるまでは外に出ないほうがよさそうだ。
「おう。それは王も喜ぶと思うぜ」
「うむ。それを断るほど我が王の度量は狭くないはずだ」
こうして僕はほとぼりが冷めるまでお城でお世話になることになった。
これも予想済みなのか、遠目で見る王様の満面な笑顔はちょっと黒い感じがした。
これで第一章は終わりです。
明日からは閑話をいくつか考えています。




