一夜明けて
「知らない天井だ」
早朝、目が覚めたときの僕の第一声。一度言ってみたかったんだよね。
昨日は本当にいろいろあった。まさかシルヴェルト侯を助けるために城に殴りこみするなんて想像もしなかったよ。そのあと査問会をひっくり返して黒幕つぶして、神様にからまれて。
・・・これ本当に僕がやったこと?一昨日といい、自分の事ながら信じられない。
さて、今がどんな時間かわからないけどどうしようかな。
「うぅ~ん」
あれ?僕以外に誰かいる。
ちょっと起き上がってみるとそこにはベッドにもたれかかるようにティアさんが寝ていた。
もしかしてずっと僕の看病を?
「この世界の神様ですかぁ?」
うぇっ!?なにその寝言!?不安しかわかないんですけど!?夢だよね?会ってないよね!?
コンコン
ノックの音。ってことはそろそろみんなが起きだす時間かな。
「どうぞ」
ガチャ。
入ってきたのはメイドの格好をした綺麗な人だった。
「おはようございます。ユウナ様、お目覚めになられたのですね」
「はい。このたびはご迷惑をおかけしました」
「いえ、謝罪は私にじゃなく王とティア様へどうぞ。特にティア様はユウナ様が倒れられてからずっと看病されてましたので」
「そうでしたか」
ティアさんありがとう。あとでちゃんと言葉でも伝えよう。
「王様にもお礼を伝えたいのですが、会うことはできますか?」
「はい。王もユウナ様と話をしたいということでしたので、朝食の後に秘密裏で会談を行いたいのですがよろしいでしょうか?」
「わかりました。王によろしくお伝えください」
王様も僕にいろいろ話をしたいんだろうね。
「かしこまりました。朝食にはまだ少し時間がございますのでくつろいでください。朝食はどのようにとられますか?」
「どのようにとは?」
「食堂で皆と一緒にいただかれるのでしょうか?こちらでいただかれるのでしょうか?」
「じゃあここで。ティアさんの分も一緒でいいかな?」
「かしこまりました。準備ができましたらこちらへお運びいたします」
そう言って彼女は出ていった。
時間もあるならもう少し寝させてもらおう。二度寝とか前の人生でもこっちにきてからでもできないことだったから贅沢感があるね。
そうして僕は横になる。
「ふぇ?私が魔法少女ですかぁ?」
・・・ティアさんの寝言がすごい気になる。お願いだから夢であって!
そう願いながら再びシーツに包まって目を閉じた。
気がつくとティアさんに起こされていた。なんだかきらきらした雰囲気をしてるティアさんになにもなかったと思いたい。
看病してくれたことにお礼をいい、二人で朝食をとったあと、ティアさんは城に滞在中のお父さんのところへいくそうだ。僕はブリットさんともゆっくり話をしたいので、これから王様に会うことを秘密にしながらその後に会って話ができるようにティアさんにお願いした。
そして僕は今、あるお部屋で王様と対面している。
「このたびはまことにすまなかった。そして感謝している」
王様のこの一言で話は始まった。
僕はまず倒れた僕への対応に感謝と謝罪、ついでにシルヴェルト侯の無実を証明するためとはいえ、城に殴り込んだことの謝罪を伝えた。
王様は「きにするな」といってくれた。城に殴り込んだことも、被害がそう大きくなかったからいいといってくれた。ティアさんたちもお咎めなしだったのでほっとした。
むしろ建物への被害はまぁまぁあったが修復できる程度だったのと、兵士に死人はゼロだったのが不思議だといっていた。
あれで死人がでなかったんだ。それにほっとした。みんな超優秀だね。おかげで王様にまで聖女扱いされたけど。
次に僕はどうしてこうなったのかを聞いた。
前提としてこの国は思想として獣人を人と認めていないそうだ。そのために隣国の獣人を認める国家や獣人の国家に対して時々戦争を仕掛ける超危険国だった。そのために配下には強さが求められた。
前王は戦争中に戦死され、今の王様がが王になったのは十年ぐらい前。その影響で一時は国家滅亡まで追い込まれた。それを救ったのが当時伯爵だったシルヴェルト・ブリット。そしてどの国も疲弊し、七年ぐらい前に停戦条約を結ぶ。
その後国力を回復するのにここでもブリットさんが活躍する。シルヴェルトさんの統治する町が発展を続け、五年前ぐらいには人が安定して暮らせる程度に国力を回復させた。
その頃宮廷魔道士筆頭としてマイン=ジェリドが台頭してきた。実力もあったのでかなりのスピード出世らしい。マインは色々な町や村に出向いた。ある町では目覚しい発展を促し、ある村は焼き払った。しかし発展のほうがおおきく国力を回復する結果となり、王様の相談役として側仕えとなる。
マインは国力が回復したから獣人国家や獣人を認める国家を再び攻め込むべきと主張。裏でかなりの貴族を取り込んで国を戦争ムードへ持ち込んだ。それにブレーキをかけたのがブリットさんだ。
ブリットさんはこの獣人を認めない思想を反対、獣人に人権を与え、同じ人としてこれから生きようと主張。奴隷解放にも積極的に働きかけていた。
この頃には「英雄」といわれたブリットさんの影響力は大きく、貴族は戦争強硬派と戦争反対派の派閥に分かれて意見を争うようになった。
このあとマインは戦力増強を理由に勇者召喚を提案。何度か失敗を繰り返していたそうだ。それと平行してブリットさんを貶めようと色々画策していたらしい。
そしてその結果が今に至る・・・と。
・・・僕はこの召喚に巻き込まれたのか。変身のことがあの場でばれなくてよかった。
王様に保留していた僕の願いは決まった。シルヴェルト侯と同じで奴隷制度の撤廃と獣人に人権を認めて欲しい。
王様は難しい顔をして、すぐには無理だけど徐々に制度を改変してくれると約束してくれた。
まずは今までの扱いから、衣、食、住の義務付けと、過度の暴力の禁止を法で定めてくれることになった。
僕は他にアナザードラゴンのワイバーンの懸賞金について聞いてみた。
これは昨日も僕がチラッとしゃべったけど、ことがことだけに半信半疑だったらしい。
実物を持ってることを話したら、午後からお披露目、懸賞金を渡してくれる運びとなった。
これには昨日の出来事を平民に伝えることも含めることになった。
王様も僕にこれからどうするかを聞いてきた。これが一番聞きたかったらしい。
それもそうか。あれだけのことをする問題児の僕が何をするかなんてひやひや物だよね。
僕は自分が世間知らずだから、旅をして世の中を知りたいと話した。
半分は少しでも住みやすい土地を探すことなんだけどそれは秘密だ。
王様はしばらくここを拠点として色々見てはどうかと提案してくれた。そのためにこの町に住める場所を用意してくれるといってくれたけど、さすがに遠慮した。
でもここをしばらく拠点に色々見て回ることはいいかもしれない。ある程度の勝手はわかってるからね。
王様は最後に、いつでも寄って欲しいのと、困ってるときは力になってくれること、この国で勇者になってくれるときはいつでも大歓迎だから、といって話は終了した。
次はブリットさんだ。
メイドさんに案内された先は城のブリットさんの執務室。入り口ではティアさんが迎えてくれた。
「娘を救ってくれたこと、私を救ってくれたこと、感謝している。ありがとう」
「いいえ。僕も色々助けていただきました。ティアさんには感謝しています」
僕たちはソファに座ってセバスさんが入れてくれたお茶を飲みながら話し始めた。
ブリットさんは僕に対しても礼儀正しかった。さすがというか。
無実が証明されたブリットさんは晴れて町にもどれるらしい。他に近くの村もいくつか新しい管轄として増えたと教えてくれた。
「私は今の町だけで手一杯なのだがな。ラフィンドの近くの村はマインが好き勝手やっていたあおりをまともにうけたところだ。できれば救ってやりたい」
やっぱりティアさんのお父さんだけあっていい人だなぁ。
そういえば気になってたことが一つ。
「そういえばティアさんの偽者ってどうなったんですか?」
ティアさんとブリットさんは目を見合わせてから少し視線を落とした。
「彼女にはいくつも魔法道具をみにつけていた。ティアの姿に変わるものだけでも三つ。他に自爆する魔法道具まであった。まったくどうしたらここまで非道になれる?」
「それだけではありません。彼女、何をしても反応をしないんです。私の魔法でもだめでした。心を閉ざしているのか、壊れているのか。なんとかしてあげたいのですがあの状態では・・・」
やっぱりか。彼女の目を見たときにそんなんじゃないかって思ってた。なんとかしてあげたいけど今の僕にも無理だ。
「このまま彼女を生かすことはできますか?」
「難しいな。食事だけは何とかなっているが、それでももって数ヶ月だろう」
僕に新しい目標が一つ増えた。
「お願いできますか?僕は旅に出て世の中を見ようと思っています。そのときに解決できる方法を探してみます。」
「それは私にとっても願ってもないことだ。よろしく頼む」
この後はブリットさんは僕がティアさんを救い、ここまできた話を聞きたがり、僕はブリットさんに町の話やこの国の話をしながら時間はゆっくりとすぎていった。
午後は懸賞金をうけとります。というか王様の話だと派手になりそうで不安・・・




