事件収拾。
「お父様!」
「ティア!」
おあずけだった親子感動の対面だ。セバスさん、バスター、クロは温かい目で二人を見守ってる。
ティアさんの偽者は相変わらず焦点の合わない目でどこかを見つめてる。
王様はさっきの衝撃から立ち上がってない。
査問会にいた貴族たちは生きているのを喜ぶもの、落胆してるもの、僕を称え続けているものとさまざまだ。
・・・すっごいカオス。
そんな僕は倒れてる宮廷魔道士筆頭のマイン=ジェリドの処理について考えていた。いやね、僕を称えるのはやめて欲しいんだけど、こいつ何とかするほうが優先だから。
こいつのチートは聞いてる限りだと魔法創造と魔法道具生成。錬金術はわからないけど、こんな能力持ってたらたとえ牢に入れられても簡単に脱出される。かといって殺すのもなんかね。こんな世界だから人を殺す覚悟はできてるんだけど別にこいつじゃなくてもいいかなぁって。
じゃあどうするか。僕の能力じゃどうにも・・・って使える魔法と効果が増えてる。あぁ。ここにくるまで無双した経験値とこいつを倒した経験値でLvアップしたんだ。
変身は元の男のときでも使えるようになってるね。でもこっちは服だけだ。ステータス反映までやると変身前の僕じゃMPたりないからちょうどいいけど。
他の身体強化、空間創造、アンチマジック、召喚も性能が上がってる。でも見て憶えたヒールとリフレッシュ、ブレス(火)は変わらないみたい。この辺は魔力で性能がかわるっぽい。
・・・ちょっとまって。ヘルフレイムとジャッジメントサンダー憶えてる。これってアイツが発動できなかった魔法だけど使えるんだ?魔法として構築できたから?
でもこれ正直使うのが怖いな。まがりなりにもチートで作ったものなら僕がつかったらとんでもないことになりそう。ブレス共々封印かな。
うぅ。まともな魔法を憶えてくれないよぅ。ちょっと泣いていいかな?
僕は心の涙をぬぐって肝心の新しい能力に注目する。
「封印」
これ、戦闘とかで一時的に使えなくなるとかじゃなくて魔法や能力を完全に封印しちゃうものだった。
はっきりいってこれは完全にチートだろって思うんだけど、すごい集中力と魔力、MPと時間がかかるから戦闘中には絶対に無理。でもそれくらいの制約がないと僕だって使うのを躊躇う。
今回に限ってはありがたい。あんなの放置しておくほうが危ない。
早速僕は倒れてるマイン=ジェリド・・・めんどくさい。マインでいいや。を、中央の広い所へ引きずってきた。魔法陣をかいてそこに放り込む。
周りも僕がやってることが気になるらしく、ふたたび僕に視線が集中する。でもこのときまだ僕は気づいてない。だってこいつ何とかすることが大事だったし。
僕は自分の身体強化をかけたまま集中する。膨大な力が体の体を駆け巡る。駆け巡りながらその力は形を変え、力が増していく。その余波が僕からあふれ出す。これを十分くらい維持する。
「能力封印!!」
僕が叫ぶと僕の中で駆け巡っていた力が魔方陣に吸い込まれる。魔法陣が紫色の光を上げる。その光が収まったころ、空中に四枚のカードが浮いていた。僕はかなり息をあげながら、それを手に取り確認する。
「魔法創造」「魔法道具生成」「錬金術Lv10」「全魔法適正Lv10」
すごいなこれ。マインが「いいひと。」だったらこの国ありえない発展してたんじゃない?
とりあえずカードは空間創造で「封印カード」という項目をつくってそこにしまった。
僕はそこでやっと周りの状況に気づく。
静まり返った周囲。・・・僕、また何かやらかした?
「な、何をしたのだ・・・?」
王様が尋ねる。
「えっと、彼の能力を封印しました。今の彼は魔法などの特殊能力が使えない普通の人と変わりないはずです。」
「・・・おぬしはなんでもありなのだな。」
王様がそうぼやくと同時に
「あの強さで魔法効果をうちけして能力封印まであるだと?」
「いくらなんでも理不尽だといえるような能力が多すぎる。」
「あのようなものを放置していていいのか?」
不穏な声が聞こえる。
しまった!やりすぎた!早くアイツの能力を封じたくて動いたのがいけなかった!
「みなさん!この国を救ってくれたお方がこの国に害をなすはずがないでしょう?」
声を高らかにティアさんが叫ぶ。
「彼女はきっと神がこの事態にたいして遣わしてくれた聖女。その聖女を疑うというのですか!?」
「そうだそうだ!」
「この国を守ってくれた聖女様の能力が高いのは当然じゃないか!」
ティアさんを皮切りに擁護してくれる人も多かった。ティアさんあなたこそ聖女でしょ?
「ユウナ様は後先考えずに行動することが多すぎます!少しは考えてください!」
「はい。ごめんなさい。」
小声でティアさんに説教された。反省してます。
ここで王様が口を開く。
「おぬしはこの地に何をしにきた?」
うーん。ここの答えは大事なんだろうけど、色々言い訳してぼろがでてもいけないか。正直に答えよう。
「この国にきたのは偶然です。そしてそこに困ってる人たちがいた。それを助けることに理由はいりますか?」
「人はそこに理由がつくものだ。聖女はわれわれと考え方も少し違うのか。」
日本じゃ「いいひと。」の部類だけど、わりと普通の考えじゃない?変かな?
「ともあれ、この国は救われた。感謝する。聖女殿。」
「いいえ。この国が、たくさんの人が救われたのは僕も嬉しく思います。」
そう話す王様は威厳いっぱいだった。僕にため息をしてたときよりよっぽど今のほうが王様らしい。
「よければ名前を聞いてもよいか?」
「ユウナです。ササキ ユウナ。」
「ササキ?どこかで聞いたような・・・む。おぬし、ササキ ユウキの知り合いか?」
やばっ!そういえば王様には名乗っていたっけ!どうしよう!どうしよう!!
「ユウキは兄です。兄にあったのですか?」
「なんと。兄であったか。するとおぬしも召喚された者か?」
「召喚かどうかはしりませんが、僕はきがついたらこの国の町の中にいました。」
「では儀式で本当に召喚したのはおぬしじゃないのか?おぬしなら勇者としての能力にも申し分がない。」
「どうなのでしょうね?どちらにしても僕は勇者じゃありませんよ。」
「むぅ。ならば改めてユウナ殿。この国で勇者になってもらえまいか?。」
「お断りします。僕は自由でいたいのです。」
適当に嘘を言って適当に話を流す。兄という設定はまぁ大丈夫だろう。あとの勇者は絶対に断る。
生活には困らなくなったけど、この世界の常識や情勢を知ったわけでもない。どうせなら住みやすいとこがいいから色々見て決めたいっていう希望もある。勇者なんてなったら堅苦しそうだし名前負けもいいところだし。
「残念だが、ここで無理に引き止めておぬしの不況を買うことも避けたい。今回はあきらめよう。だがいつでも歓迎するからな。」
「ありがとうございます。」
勇者はあきらめてよ。
「改めてユウナ殿。この国を救っていただいたこと、この国の代表として感謝する。礼には何がよいだろうか?」
お礼?考えてなかった。どうしようかな。
「あわてる必要もないぞ。もしこの地にとどまってくれるのであれば、その間に決めるといい。」
まぁあわてて出ることもないからお言葉に甘えよう。
「ご配慮ありがとうございます。」
「うむ。最後に一つ聞きたい。もし今回のようにこの国に危機が訪れたとき、おぬしは手を貸してくれるか?」
これは簡単な問いだね。
「国王が善政を敷く限り、僕の最大限の力をお貸ししましょう。」
国王はこれにいい笑顔で頷いた。
「聞いたか?ここにいるものたちよ。ワシが善政を敷く限り、彼女は我々に力を貸してくれると約束された!ワシは約束しよう!民が安心して暮らせる国を守れるように!この国で悪事を働かせぬように!おぬしたちの働き、期待している!」
「「「ははっ!」」」
周りの貴族たちは一斉にお辞儀、ティアさんやバスター、クロやセバスさんも畏まっている。
僕もあわててお辞儀をして顔を上げた時、緊張の糸が切れたのか、MPを使いすぎたのか、体の負担が大きかったのか、そこで急速に意識を失った。