黒幕。
「私ですか。どうして私を疑われるのですか?」
「疑わしいのはレイナム侯がチラチラとあなたを見ていたこと。私が偽者の指輪をはずすとき、手をかざすようなしぐさをしたこと。ユウナ様がアンチマジックを使われたとき、あなたが耳を押さえていたこと。同時にあった何かが割れるような音があなたとレイナム侯のほうから聞こえてきたこと。あとはそんな誰も知らないような魔法道具や魔法を知っていて手に入れる事ができる、迅速に指名手配や罪状をなすりつけられる地位にいるのは宮廷魔道士筆頭、国家相談役のマイン=ジェリド。あなたしかいないんです。」
おぉ。言われてみるとこいつ超怪しい。
「私を罪人扱いする覚悟と確証はあるんでしょうね?」
マインと呼ばれた王様のそばの人がすごむ。そしてあふれ出す威圧感。
「では逆に聞きましょう。これだけの疑惑がありながら、それを実行できる人が他にいますか?」
「・・・ははっ。はははっ。はーっはっはっはっはっはっ。」
これ完全にティアさんのターンだ。
とうとうあきらめたのか、急に高笑いを始めた。三段笑いとか似合いすぎる。
「いやいやまさか、この状況をひっくり返されるとは思わなかったよ。襲撃を生き残ったことにも驚いたが、これだけ早く整えた舞台に間に合うどころか、逆転するんだからな。転生してきたヤツが協力してたとはいえ、見事なもんだ。」
なっ!!こいつまさか僕と同じ日本人!?
「まさかこの世界で魔法少女に会うとは思わなかったぞ!その格好でシリアスをするから笑いをこらえるのがきつくてかなわん。」
ぐっ!痛いところを突かれた!って僕だって好きでこんなかっこしてるんじゃない!!
「ユウナ様は異世界人だったのですか?」
「なるほど。それならその理不尽さも納得だな。」
「ばかな!そうぽんぽんと転生とかされてたまるものか!」
色々と聞こえてくるけど今は目の前に集中!
「・・・僕は転生者じゃない。お前の目的はなんだ?」
間違いじゃないよ。僕は転移者だから。
「何?その格好で魔性少女で転生者じゃないのか?詐欺だろ?」
うっさい!
「ふん。まぁいい。俺の目的はあえていうなら面白おかしく生きることだな。」
「・・・叶っているんじゃないの?君、転生者なら神様にチートをもらってるんでしょ?」
「チートは否定せんがお前に俺の夢を語っても理解できまい。」
「でもそれでこうやっていろんな人に恨みや怒りを買うのも厭わないんだ。それは夢じゃくて野望っていうんだよ。」
「言い方なんてどうでもいい。俺の夢を叶えるために邪魔なら排除するだけだ。」
まずい!
「みんな逃げろ!」
僕は飛び出した。
っくそっ、間に合わない!
「燃え尽きろ。地獄の炎、ヘルフレイム!」
呪文を唱え終わった!こうなったらダメージ覚悟でつっこむ!
・・・あれ?何もおきない?
がすっ!
ひゅーん
ぽてっ。
何もおきないまま僕が突っ込んで振ったステッキが見事わき腹に命中。そのまま吹っ飛んで壁に衝突、地面に落ちた。
・・・えーと?
あっ。よろよろと立ち上がった。
「な、なぜだ!もう一度!燃え尽きろ!地獄の炎!ヘルフレイム!!」
しかし、なにもおこらなかった!
嫌な沈黙がこの場を支配する。さっき叫んだのが恥ずかしくなってきた!
「くそっ!ならば!我に逆らう愚か者共を裁け!ジャッジメントサンダー!」
しかし、なにもおこらなかった!!
「な、なぜだ!なぜ何もおこらぬ!?」
「中二病乙(ボソッ)」
「誰だ今中二病とか言ったやつ!」
しまった、つい本音が。
「・・・えっと、ユウナ様?アンチマジックって効果時間とかありますか?」
「は?え?ええと・・・僕が解除するまで持続しますね。」
原因解明!元凶は僕でした!
いや、この場合はいい結果だったんだけど。ティアさんに言われるまで気づかなかったんだけど!
「なんだと!?さっきの魔法は魔法創造で作ったチート能力だぞ!?そんな適当な能力にキャンセルされてたまるか!」
「えっと・・・たぶん僕のアンチマジックもチート能力かも?」
「かも?ってなんだ!かも?って!自分でわからないのか!?」
「うーん。僕の場合、魔法使いの才能があったらしいから、どこまでがチートか判断できないんだよ。」
「なっ!才能もってたのか!このリア充!」
「本当にリア充に見える!?」
僕に八つ当たりするのやめてくれない!?僕だって苦労してるんだ!
「くそっ!まだだ!まだ俺には魔法道具生成の能力で作った道具がある!」
持っていた杖をかざす。
しかし、なにもおこらなかった!!!
「あのぉ・・・アンチマジックってさっき魔法道具の魔力も打ち消してましたよね?」
「ちくしょうめぇぇぇぇぇええ!」
ティアさんがつっこみというか、とどめにはいった。
「異世界なんてだいっ嫌いだ!」
総統様・・・じゃない、宮廷魔術師筆頭が異世界のチートにお怒りのようです。
しばらくはぁはぁ言いながら息を整えてたけど、不意に懐から試験管を取り出す。
「まさかこの最後の手を使うはめになるとはな!こいつは肉体の性能を極限まであげる。人間相手なら間違いなく負けん。この上に魔法で強化すればドラゴンだって倒せる!国一つ滅ぼすのもたやすい!だがまぁ貴様ら程度ならこれで十分だ。錬金術で生み出した薬だからキャンセルはきかんぞ!さぁ、殺戮ショーの始まりだぁぁぁ!」
試験管の中身をぐいっと飲み干すと、肉体が引き締まっていくのがわかる。あれは硬化と強化かな?魔法を使わずにってことだから体の構造を変える薬だと思うんだけど・・・。
なんてのんきに観察してたらものすごい勢いで突っ込んできた!
早い!よけきれない!
バスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
入り口の壁を破壊、貫通して、さらに吹っ飛んだ。
「はっはっはっ。これが俺様の実力だぁ!さて。次は邪魔をしてくれたお前らに礼をこめてなぶり殺しにしないとなぁ!」
かなりふっとんだのにここまで声が聞こえてきた。僕を倒したと思ってずいぶん興奮してるみたい。
残念だけどぜんぜん痛くないんだよね。
僕は瓦礫に足を乗せてかがむ。いつものキックの体勢だ。
「まずは女ぁ!おとなしくしていれば俺の女にしてやったものを!己の行動を後悔しながら死ねぇぇぇ!」
「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
バスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
やつは王様の横の壁を貫通して奥に飛んでいった。たまたまだけどお返しって感じでまとまったね。
ってあぶなっ!
現状についてこれず放置気味だった王様が真っ青になって固まってる。もうちょっとずれてたら当たってた。気をつけないと・・・。
あ、這い出てきた。わりとダメージも大きそうだ。
「き、貴様、生きていたのか!?」
「いや、ぜんぜん痛くなくって。あれなら黒い暴風とかアナザードラゴンとか言われてたワイバーンの尻尾のほうがよっぽどダメージ大きかったんじゃないかな?」
「「「ア、アナザードラゴンだとぉぉぉぉぉ!?」」」
ぉぉぅ。マインも一緒と周囲の声がハモった。ティアさんとバスター、クロとセバスさんは知ってるから驚いてないけど、そういう反応するよなぁ、って顔してる。
「あ、あいつの攻撃を受けて生き延びているだと!?」
「どうなっている!?というかアナザードラゴンはどうなった!?」
「はったりだ!はったりにきまっている!」
みんなの気持ちはわからなくない。僕だっていまだにあれがワイバーンだって信じられないもん。え?そっちじゃない?
「俺の攻撃を耐えたんだ。アナザードラゴンの攻撃を受けて生きていても不思議じゃないが、俺はやつより強いぞっ!」
とたんに再び突っ込んできた。二度も同じ手はくわないって。
「身体強化。えい。」
バスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
ひゅーん。
ぼてっ。
「うん。やっぱりアイツより弱い。」
あ。まだ息がある。
ぷるぷるしながら一言。
「・・・くそっ!お、俺のハーレムの夢が・・・・」
ぱたっ。
しーん。
身体強化してステッキで吹っ飛ばしたら動かなくなった。た、倒したの?
というかこの静けさは何!?なんでみんな僕を見てるの!?なんか前にもこんなことなかった!?
嫌な予感がする。すっごい嫌な予感がするけど・・・
こんなときは笑顔でごまかそう!
「・・・えへっ。」
にっこり。満面の笑顔。
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!
びくっ!
いきなりの歓声にびっくりした。
「わが国で過去最強とよばれる宮廷魔道士をたおしてしまったぞ!」
「魔法少女だ!魔法少女が我々を、いや、この国を救ってくださったぞ!」
「さっきのキックはまるで流星・・・流星の魔法少女だ!」
「きっと神がこの国に遣わしてくれた聖女だ!」
ちょっとまって!魔法少女は百歩譲るけどなんでまた聖女!?やめて!お願いだからやめて!そんなたいそうなもんじゃないから!過剰評価だから!!
あとできれば魔法少女もやめて!これ以上この世界に魔法少女を広げないで!!
「流星の魔法少女万歳!」
「救国の聖女万歳!」
嫌な予感的中!やっぱり前にもこんなことあった!
ちょっと誰か止めて!これ以上話を大きくしないでぇぇぇぇぇぇ!!




