依頼完了報告。そして再び事件の匂い。
冒険者ギルドの建物の影で僕は辺りに人がいないか確認していた。
なんかデジャヴ。昨日も同じようなことしてた気がする。でも結構どうでもいい。だってこれから男に戻れるんだから。
人がいないことを確認できたので魔力を乗せてキーワードを唱える。
「解除」
体から光を発するのも数秒、僕は男の姿に戻っていた。
うぉぉぉ、男の姿だ!嬉しすぎる。まだ三日しかたってなかったのにずいぶん久しぶりな気がする。
濃かったもんなぁこの三日間。
しばらく余韻に浸った後、依頼完了の報告をしにいこうかと動き出す。
・・・あれ?なんか体が重い。背中のリュックも。変身の影響?ううん。変身によって自分にかかる負担はないはずだ。じゃあなんで?こんなことでも説明書は答えてくれるかな?
(変身後は身体的にも精神的にも補助がかかります。それに慣れたことで元に戻った際、違和感を感じた可能性が高いと思われます。)
あぁなるほど。でもそう考えると普段も変身してたほうがいいのかな?いやいや、僕は男だ。あの姿のままは嫌だ。だからこれからも基本はこっちだ。
自分の中の問題が解決したところで冒険者ギルドの中に入り依頼完了の報告に行く。お昼時なのもあって食事スペースのほうはずいぶんと賑わっていた。
採取した癒し草とヨモギは質の良さに驚かれ、そして感謝された。
なんでも今黒い暴風やアナザードラゴンの異名を持つワイバーンが各地で暴れまわっていて、回復するアイテムがかなり不足しているのだそうだ。また募集をだすからよかったらぜひ!と言われた。
・・・僕の倒したやつだ。聞けば聞くほど危ないやつだったんだなぁと実感する。
ちなみに癒し草とヨモギは少しでも回復できる人を増やせるように、余分に採取してきてた分を少しだけ残して買い取ってもらうことにした。情けは人のためならずとも言うしね。とても感謝されたよ。僕もいいことをした後は気持ちがいい。
やることも済んだので冒険者ギルドを後にする。
今回は新しく依頼は受けないことにした。ティアさんをいつでも助けられるように。
とりあえずおなかもすいたので昼ごはんを食べに行こう。前に食べたお店がおいしかったのでそこにしようかな。
銀のスプーンの看板のお店ってどこだったかなぁ。ときょろきょろして歩いていると、ふと人だかりができてるのを見つけた。なんだろう、胸騒ぎがする・・・
人垣の隙間から様子をみてみると、そこにはさっき別れたティアさんの馬車と、それを取り囲む兵士、その馬車を守るようにバスターとクロ、それにセバスさんが兵士たちと交戦していた。
おぉ。セバスさん意外と強い。初めて会ったときはやられてたからどこか弱いイメージがあったかも。って一瞬現実逃避した!どうなってるの!?
「すみません!これっていったいどうなってるんですか!?」
「あ?何だお前?うわっ、ちょっと落ち着け、そんなにゆするな!」
「あ、すいません・・・」
思った以上に力が入ってたみたい。あわてるな僕!
「何でも現在指名手配されてたシルヴェルト侯爵の娘さんが強制連行を拒否して乱闘騒ぎらしい。」
ティアさんが指名手配!?いや、これたぶん指名手配されたのがシルヴェルト侯爵、その娘は強制連行を拒否してるって意味か。言い方がまぎらわしい!
「おっ?さすがに多勢に無勢か?兵が馬車の扉に手をかけたぞ?」
なっ!強制連行されたらたぶんもう何もできない!助けなきゃ!
「ありがとうございました!」
そう言って僕はしゃがみこむ。
「変身!」
光が僕を包む!それに驚いた人たちが僕を囲うように広る!
よし!道が開いた!僕はクラウチングスタートで走り出す!
「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
勢いをつけてとび蹴りを放つ!いっけぇぇぇぇ!
「なにっ!?ぐぁぁぁっ!」
「なんだ?ごうはっ!」
「ん?がふっ!」
「さぁ、おとなしくでてくゅびゃっ!」
「こ、こっちくんぶるあぁぁぁ!」
ドアを開けようとしたヤツも含めて5、6人吹っ飛ばした。
その場が一旦静まる。みんなの注目が僕に注がれる。そんな中、僕はゆっくり立ち上がった。
「貴様!何者だ!」
隊長っぽい兵士が吼える!
「ユウナ!」
「ユウナ様!ふふん。お前ら終わったな。彼女こそ流星の魔法少女、ユウナ様だ!」
誰だ今魔法少女とばらしたヤツは!お前かバスター!後で憶えてろ!
そんな僕の気持ちをよそに周りがざわつきだす。ほらみろ!「魔法少女?」とか言ってるじゃん!
「ふん。聞いたこともない・・・」
「ばかめ!ユウナ様はあの黒い暴風、アナザードラゴンをも倒したお方だぞ!?」
ぺらぺらしゃべりすぎなんだってバスター!ああもう!周りも「すごい」「まさか」とか言い出してる!
「ふははははは。嘘ならもっとましな嘘を吐くんだな!災害指定にもなったようなヤツをたった一人で倒せるものか!」
「嘘かどうかは今の攻撃で多少なりとも判断できるはずだ。しかもあれでかなり手加減してるんだぞ?それすら見抜けないようではお前は隊長の器ではないな。」
クロ、お前もか。後でお仕置き決定。そしてあなたも大概アサシン失格だったよね?
そして「確かにあんな攻撃ができるなら」とか「あれで手加減してるのか!?あれで!?」とか聞こえてきた。あぁもう観戦してた人たち信じちゃったよ!盛り上がっちゃったよ!どうしてくれるのさ!
・・・ええいこうなったらもうヤケだ!
「流星の魔法少女!マジカルユウナ 降☆臨!」
びしっとポーズをとる。
「あなたたちが結託して戦争反対派最大派閥のシルヴェルト侯爵を亡き者とし、戦争することによって自分たちの名声や名誉、そして戦果でもらえるであろう莫大な利益をむさぼる!罪のない民を戦地へ送りこむこと平気でする自分勝手な行動!結託したノブレス・オブリージュの精神も忘れた貴族と共に鬼畜の所業!下種の極み!例え王が許してもこの僕が許さない!星にかわってぇぇ、裁きます!!」
知ってる限りで色々考えて、まねして、びしっと指を指す。
観戦者たちがさっきとは別のざわめきを始める。囲んでた兵も一斉に隊長を見る。
「え、ええい、うろたえるな!そいつの嘘に決まってるだろう!さっきの嘘といい、民心を惑わす悪党どもよ!覚悟せよ!全員かかれ!」
あの様子、隊長さんはたぶん知ってるみたいだな。しかも喜んで協力してるっぽい。末端の兵士たちはは知らなかったみたいだけど。
兵士たちも困惑しながらも上司の命令には逆らえず襲ってきた。僕は再びクラウチングスタートの構えをとる。兵士は左右から迫ってくる。前にいる隊長まで障害物はない!
どんっ!!
地面をおもいっきり蹴りつけて、今度は隊長めがけて飛び蹴りを放つ!
左右の兵士の間を一瞬で通り抜け、隊長に迫る!しかし隊長もさっきの攻撃で警戒したかしっかり盾で防御態勢を作っていた。
そして。隊長を盾ごと数十メートル吹っ飛ばした。
兵士はあまりの速さと威力ににフリーズしている。隊長は・・・さすが戦争強硬派の手先なだけはある。よろよろと立ち上がった。
僕は再びクラウチングスタートの構えをとった。
「今度は本気でいくよ!」
隊長、顔が青い。
「ひっ!ひぃぃぃぃいぃいぃいぃぃぃ!」
妙な悲鳴をあげると、へこんでひしゃけた盾を放り出して逃げていった。逃げた隊長あとまわし。今は・・・
僕はクラウチングスタートの構えをといて立ち上がると、フリーズがとけてない兵士の間を通ってして馬車に近づき、扉を開けた。
「ティアさん、無事?」
「はい。無事です。・・・また助けていただきましたね。」
「はい。また助けにきました。」
ティアさんはすごく優しい目で僕をみていた。
「ちょっと!まだ敵はいるっすよ?これからどうするっすか?」
「早くしないとどんどん集まってくるぞ?」
バスターとクロが馬車を守るように近づき、声をかけてくる。
「お嬢様、さきほどの兵士の話によりますとブリット様は発見、逮捕され現在謁見の間で査問会が開かれているそうです。」
同じく馬車を守るように近づいてきたセバスさんが教えてくれた。
ティアさんは即答だった。
「お城へ行きます。もう助けられる手段はそこしかありません。しかし部の悪い賭けです。ですからこの先は強制はしません。お好きなように決めてください。」
「俺ここで逃げたら隊長に殺されるっすから。」
「俺は信用を勝ち取れるチャンスだからな。断る理由がない。」
「私はシルヴェルト家の執事。共に困難を越えられることは至上の喜びです。」
そして僕は・・・
「君を助けるために。そのためにここにきたんだ。答えなんて決まってる。」
「みなさん・・・ありがとう!」
僕はその台詞を聞いて、彼女をお姫様抱っこする。
「きゃっ。え?ユウナ様?」
「みんな、時間が惜しいからティア様は僕がこのまま連れて行く!僕の全力を持ってお城へ届けると約束する!クロ、バスター、セバスさんは馬を馬車からはずして追ってきてください。ブーストのかかった二頭ならついてこれるはずです。」
「なるほど。」
「畏まりました。」
「では行動開始だ。」
僕がティアさんとが馬車から出ると観戦者たちがひときわざわついた。三人はもうロープを切り離し、城に向かって走り出している。
「ティアさん、しっかりつかまっていてくださいね!」
「はい!」
ぎゅっとされた。ちょっとどきっとしたのは秘密だ。だって女性にぎゅってされるなんて初めてだし。でもティアさんを助けたいという想いに嘘はない。
邪念を振り払うと僕は魔力をこめてキーワードを唱えた。
「フライ!」
背中のリュックの羽が動き出す。僕は地面を蹴り上げ、お城へ向けて空に飛び上がった。
さぁ、ここから大逆転だ!




