大仰な二つ名はやめて欲しい。
4/26、読みやすいように行間をあける訂正をしました。
4/26、少し訂正しました。
いっきに上空のはるかかなたまで飛んだ僕は、今度はいっきに急降下を開始しだ。
このまま勢いをつけて蹴りつける!
相変わらず魔法使いの戦い方とは思えないなんてチラッと考えながら、どんどん加速をつけていく。
ドラゴンがブレスの動作に入った!させない!
「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
気合一閃!ドラゴンの背中に蹴りが入る!今度は手ごたえがある!骨が砕けるような感触。一瞬にそんなことを感じながらドラゴンを地面に叩きつける!衝撃が僕を襲うと同時にドラゴンの断末魔が響き渡った。
砂煙が晴れていく。周りはさっき僕が弾き飛ばされたときにできたものよりも大きなクレーター。僕の足元には動かないドラゴン。死んでるん・・・だよね?
つんつんしてみる。「反応がない。ただの屍のようだ。」いや、そうじゃなくて。
念のために説明書の機能を使って確認してみる。間違いない。死んでいる。徐々に実感がわいてくる。ガッツポーズをとり、思わずジャンプ。そして右手を上げて勝利のブイサイン。ありったけの感情をのせ、「やったぁ!」と叫んだ。
倒しちゃった!ドラゴン倒しちゃったよ!
「お、おい、あれ本当に死んでるのか?」
「死んだフリじゃないよな?」
「おい、俺たち助かったのか?」
「さっき空中で戦ってたのはあの女の子か?信じられん・・・」
「あ、あの子が倒したの?」
「・・・かわいい」
「そ、空から降ってきたぞ?あんな魔法あったか!?」
「魔法使いかしら?ちょっと変わった格好もかわいいけど・・・」
・・・まずい。気がついたら人だかりができてる。しかもものすごく注目をあびている・・・
よし!こんなときは笑ってごまかそう!
「・・・えへ。」
にっこり。満面の笑顔。
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
大歓声。そのあまりの大きさにびくっとする。
「倒しちまった!倒しちまったぞ!あの黒い暴風を!」
「あのかわいい魔法使いだ!いや、そんな呼び方かわいくない!魔法少女だ!あの魔法少女がやったんだ!」
「魔法少女最高!」
「流れ星ようのうに空から一瞬で降ってきたぞ!」
「まさに流星の魔法少女だ!」
「空中で戦ってたぞ!まさに天女だ!」
「天空の聖女よ!」
ちょっとまって!なにその二つ名!?やめて!お願いだからやめて!そんなたいそうなもんじゃないから!過剰評価だから!!
あと魔法少女もやめて!この世界に魔法少女を広げないで!!
「流星の魔法少女万歳!」
「天空の聖女万歳!」
誰かとめて!
僕が困惑してると、人だかりの中からティアさんが飛び出てきて僕に抱きついた。
「ちょっ!ティアさん!?」
僕は焦る。だって女性に抱きつかれるなんて初めての経験なんだもん!おかげで二つ名や魔法少女の件は頭から完全に吹っ飛んだ。
「ありがとう!この町を救ってくれて本当にありがとう!私はあなたに感謝してもしきれません。」
ティアさんは泣いていた。そりゃそうだよね。あんなのがきたんだし。でもなんて声をかけたらいいんだろう?とりあえず背中を軽くぽんぽんってして彼女をなだめた。どうせ僕はヘタレだよ。
しばらくすると彼女も僕も落ち着いてきて、お互いゆっくりと体を離した。
「よかったね。町は無事だよ。」
「はい。ユウナ様のおかげです。」
そう言って彼女は微笑む。よかった。僕はこの町も、彼女の笑顔も守ることができたんだ。本当によかった。
万歳コールもさっきのごたごたでなくなった。さて、残る問題だけど・・・
「これ、どうしましょうか?」
そう言って僕は足元を見る。そこにはドラゴンの遺体。
「そうですね。ワイバーンはいろんなところを素材として使うことができます。しかも今回はあのアナザードラゴン、黒い暴風です。普通に売るにしても、オークションにかけるにしても、値打ちは計り知れません。もちろんご自分で素材として使ってもいいでしょう。」
「そうなんですかー。え?ワイバーン?」
処理ができることも高額で売れることもそっちのけで、一番気になったところに反応した。
「はい。通常ワイバーンは飛竜とよばれ、ドラゴンだけどドラゴンじゃない。そんな扱いなんです。でもこの突然変異のワイバーンの強さは異常で、違う進化をしたドラゴン、アナザードラゴンの異名をもってたんです。」
・・・ずっとドラゴンだと思ってた。僕もドラゴンスレイヤーだって思ってた。
ドラゴンを倒せたっていうと嬉しいのに、ワイバーンを倒せたって言ってもドラゴンほど嬉しくない。
がっかり感が半端じゃないよ。
「なぜがっかりそうな顔をされてるんですか?すごいことをされたんですよ?」
きっそうだけど!そうなんだろうけど!
なんだろう。勝負に勝って試合に負けた気分?とはいえ済んだことはしょうがない。気持ちを切り替えよう。売ったりできることはわかったけど、素材にできるならとっておきたい気もする。悩むなぁ。
「別に答えはすぐじゃなくてもいいと思いますよ。」
それもそうか。
「じゃあちょっと迷わせてもらいますね。」
そういって空間創造を使ってドラゴン・・・じゃない。ワイバーンをしまった。引きずってるなぁ。
そういえば空間創造は初めて使ったなぁなんて思ってると、再び周りが騒ぎ始めた。
「な、なんだ今の?」
「普通に考えれば、アイテムボックスか収納拡大の付与があるかばんだろうけど・・・」
「え?あんな大きなのが入るの?」
「聞いたことねぇよ!」
「いや、収納拡大の付与は技術的には可能らしい。」
「それでもあれをしまうのは無理だよ!かばんの中は大きくできても入れる口は大きくできないんだ!」
「じゃあいったい・・・」
やば。またやらかしたっぽい。しかもまだ余裕なんていえない。どうしよう。
「今のはアイテムボックスですか?空を飛べることといい、その強さといい、本当に規格外の魔法使い様ですね。ユウナ様は。」
・・・神様の「よっぽど大丈夫」といってた言葉が頭をよぎる。ただ面白がってただけじゃないんだね。
おや?また人だかりから誰か出てきた。今度は五人。
筋肉隆々のいかついおっさんと、その後ろは・・・鋼の牙?
「あら、冒険者ギルドのギルドマスターに鋼の牙?どうされました?」
「おう。シルヴェルトのお嬢様。懸賞金について話をしたくてな。」
「懸賞金?」
何も知らない僕が聞く。
「あぁ。あのワイバーン、黒い暴風、アナザードラゴンには莫大な懸賞金がかけられていたんだ。」
ということはお金がいっぱいもらえる?
「それとは他にギルドからも報酬が出せる可能性がある。俺はそっちの話をしにきた。魔法少女のお前さんは冒険者ギルドに登録してるか?」
「大丈夫ですよ。確か採取の依頼の途中だとお聞きしてますから。」
「そうか。なら問題ないな。あいつはギルドとしても放置しておけなくてな。討伐依頼がでているんだ。支払いはギルドの支部だ。お前さんさえよかったらこれから取りに来ないか?」
まずい。一難去ってまた一難。登録してるのは男のほうなんだよな。絶対に怪しまれる。どうしよう。
・・・よし。実は登録してないといってごまかそう。ギルドの依頼はパーティで受けていたことにすれば、僕がまだ登録してなくてもおかしくないはず。
「わかりました。これから行きましょう。」
「決まりだ。じゃあ俺たちの後についてきてくれ。お嬢様、魔法少女は連れて行くぜ。」
「はい。あ、ユウナ様、今晩は祝勝パーティをしましょう。準備をして待っていますね。」
「そんな、いいですよ。」
「今日に限って遠慮はなしです。それだけの偉業なんですから盛大に行きましょう。」
もう決定らしい。恐縮やらもうしわけないやら。
そんな言葉をかわしつつギルドマスターたちのあとについていく。後ろから、
「みなさん、私たちは、私たちの町は救われました!ひとつの危機が去ったんです!今日はお祝いをしましょう!お祭りです!うちがバックアップします!今日を盛大に祝って、この喜びを、感謝を、みんなで分かち合いましょう!依存のあるものいますか?!」
「あるわけねぇよ!」
「大賛成だ!」
「こんな日を祝わないなんて嘘だー!」
「やるぞー!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
なんて聞こえてきた。ティアさん張り切りすぎ!それに扇動うますぎ!敵に回したくない!
この町このあとどうなっちゃうんだ!?




