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東方影響録  作者: ナツゴレソ
八章 地底の恋心 ~Distance between the hearts~
89/202

50.0 贖罪と絆

「幾ら何でも無茶を言い過ぎだ」


 俺は両手を上げながら、首を横に振った。情けない自覚はある。が、俺は素直に思ったことを口にしてしまう。

 今の俺は空も飛べないし、お札どころか刀を使えるかすら怪しい。少し腕っぷしが強い里の人間ぐらいの存在、同じ人間とはいえ霊夢に勝てる道理なんて皆無だ。しかし目の前に立つ霊夢は構えを一切崩さなかった。


「いいから早く構えなさい。空は飛べなくてもやれることは色々あるでしょ」

「霊夢、突然どうしたんだ!? 何で突然……」

「ウジウジと五月蠅いわ。アンタが自分勝手に諦めようとしてるからよ」

「………………」


 霊夢に真っ直ぐ視線を向けられ、俺は思わずたじろいでしまう。

 諦める、か……確かに霊夢の言う通り、諦めようとしていると言われても仕方がない。霊夢からしたら、今まで積み重ねた物を勝手に捨てて、無下にしているように見えるのかもしれない。それでも、俺は何もできなかった。

 言いよどむ俺に、霊夢はさらに捲し立ててくる。


「アンタにとってそんな程度のものだったのかもしれない。けれどね、北斗を忘れたみんなのことを……アンタの自分勝手で記憶を奪われたアイツらにどう責任を取るつもりなの!?」


 珍しく霊夢が声を荒げながら、問いかけてくる。

 けど……違うよ霊夢。俺にとって幻想郷に来た時の記憶は間違いなく大切なものだった。けれど、それを捨ててしまったのも間違いなく自分だ。そんな俺が消えた記憶を書き直すようなことはしたくなかった。それこそ、俺の自己満足でしかない。だからこそ俺は……


「俺に出来るのはもう一度……能力に頼ることなく自分の力だけで、また新たに作り直すことだ」

「それがアンタの答え?」

「……あぁ、それが記憶を奪ってしまったみんなに出来る、唯一の贖罪だから」


 俺ははっきりと自分の意思を伝えるが霊夢は臨戦態勢を解かない。俺は息を一つ吐き、肩の力を抜いて霊夢に向けて構える。きっと霊夢は戦わないと納得しないのだろう。そういうことなら今の俺の全力を見せつけて諦めてもらうしかない。


「……ッ!」


 前に出たのは同時。霊夢は直線的に突っ込んできてお祓い棒で振り上げてくる。俺はギリギリまで引き付け、半身を翻して躱しながら左の裏拳を振るう。しかし、拳は宙を切り霊夢の姿を見失ってしまう。咄嗟に後ろに飛ぶ。爪先に何かが引っ掛かり体勢が崩れかける。霊夢の足払いか何かだろう。


「遅いわ!」


 よろめきながらさらに後ろに下がるが、霊夢が低い体制のまま追随してくる。俺は身を沈めながら身体の前で十字に腕を交えて防御する。左肩にお祓い棒での打撃が入る。相変わらずただの棒切れとは思えないくらい重い一撃だ。

 痛みを無視して霊夢の懐目掛けて体当たりする。が、ヒラリと蝶のように舞って距離を取られてしまう。まるで宙に舞う紙を攻撃しているかのような手ごたえのなさを感じる。


「最初の組手の時と同じことして……芸がないわね」

「芸でやってるわけじゃないからな。こんなんじゃ明日の米代も稼げやしない」

「そうね。そういう意味では今のこれは弾幕ごっこじゃないわね」


 手厳しいことを言うなぁ。しかし、俺も妖怪の山に行きたいと霊夢に言った時のこと、そして毎日のように霊夢と特訓した日々を思い出していた。

 あの時も今と同じように神社の境内で、霊夢とこんな戦いをしていた。その時俺は初めて……空を飛んだ。

 俺は霊夢に向かって真っ直ぐ走る。霊夢も察したようで、不敵な笑みを浮かべながら向かい打つ姿勢になる。俺は右足で空中の見えない足場を踏み回し蹴りを放つが、それは躱される。が、左も同様に宙を蹴って鎌のように振り下ろす。踵に確かな感触が伝わってくる。俺はそのまま蹴った反動で霊夢から離れた。


「いてて……やるじゃない、前は隙だらけだったのにねぇ……」


 霊夢はお祓い棒を持っていた左手をパタパタと振る。どうやら運よく蹴りが当たったようだ。当たってくれたのかもしれないが。


「やっといて何だけど、俺も出来るとは思っていなかったよ」

「そうかしら? 私は至って普通のことだと思うわよ」

「えっ……なんでだ?」

「……さあね、自分で考えなさい!」


 霊夢はそう言いながら空中に浮かび上がる。右手にお札を持ちそれを神楽のように舞いながら展開させていく。暗い境内を鮮やかな弾幕が照らした。


「さっきまでは余興。弾幕ごっこは今からが本番よ!『霊符「夢想封印 散」』!」


 宣言が早いか否か、空中から雨の様に弾幕が降り注いだ。これは地上に居ては避けれない。

 飛べるのか!? 迷っている間にも弾幕は迫ってきている。目の前の霊夢が飛んでいるんだ、俺はとにかく上空高く飛ぶことをイメージして地面を蹴る。すぐ目の前を光弾が掠める。しかし、それはすぐに遠くなる。気付けば俺は神社の鳥居より遥か高い所まで空を舞っていた。


「と、飛べた……!?」

「ほら、やっぱり飛べるじゃない」


 同じ高度まで上がってきた霊夢が、やれやれと肩を竦めた。どうしてだろう。今回の異変を起こしてから弾幕を撃つどころか、まったく飛べなかったのに……


「ま、アンタが私の能力をどうして使えるか思い出せれば答えは簡単じゃない」

「どうして使えるかって……? それは、『俺が霊夢から影響を受けていると信じている』からじゃ……」

「そうね。決して『私が信じている』わけじゃない、それが答えよ」

「………………」


 何となく霊夢が言いたいことが分かった。良く考えれば、俺の能力は……人から能力を借りているのではない。誰かから受ける影響を俺自身が信じることで、力が使えているんだ。そう、極端な話をすれば、影響を受ける相手が俺の事を忘れていても……俺が勝手に影響を受けていると信じてれば能力を使えるということだ。


「まったく、何と言うか本当に自分勝手で好き放題な能力だよ、本当に……」


 だが……これで、ようやく理解できた。空を飛んだり弾幕を放てなかったのは、俺が幻想郷で得た絆を捨てたという自覚のせいだったんだな。一方的に関わりを断って、見ないふりをしていたから、俺は何もできなくなったのか。

 そこでようやく俺は……霊夢が意固地になって勝負を吹っかけようとしていた理由がわかった。




 あぁ、そうか。そうだったのか。何で気付かなかったんだろうか?

 たとえ俺が忘れさせたとしても、償いのために新しくやり直したとしても、俺自身が今までの絆を捨てていいわけがない。俺の中にはまだ、幻想郷で生きた記憶が残っているのだから。

 そうか……霊夢はそれを気付かせようとしてくれたのか。


「……ありがとう、霊夢」

「え、何か言った?」


 霊夢が聞き返してくるが、俺は首を振る。もう一度言い直すのは流石に恥ずかしい。代わりに小さくは笑いかえす。


「何でもない」

「そ、なら続けるわよ。目的は達成したけれど、せめて決着くらいはつけないと、ね! 『夢符「二重結界」』!」


 霊夢は宣言するや否や、空中にお札を設置。二重に結界を作り出す。それと同時に霊夢が愛用しているアミュレット弾を放ってくる。なんとか軌道を読み避けようとするが……突然弾幕が消え、明後日の方向に現れる。

 弾幕の威圧感がなくなったことにより、俺は一瞬油断してしまう。そのせいで目の前に突然現れたアミュレット弾への反応が一瞬遅れてしまった。


「なっ!?」


 視認した瞬間から全速力を掛けて躱すが、さらにまた目の前に弾幕が現れる。どうして目の前から弾幕が瞬間移動して……俺は攻撃を何とかギリギリで躱しながら霊夢のスペカを観察すると、ちょうど二重に張られた結界の間で弾幕がねじれているのに気付く。いや、これは……

 俺は弾幕の隙を突き、思い切って結界内へ入る。その瞬間、目の前の光景がズレる。思った通り、この結界は……空間を歪ませているのか。それが分かれば弾幕はただの直線の単調なものだ。


「よく見抜いたわね……でも甘い! 『霊符「夢想封印 集」』!」


 霊夢はすぐさまスペカを変えて攻め手を変えてくる。こっちも応戦したいところだが、いつもの攻撃手段のお札も刀も手元にない。霊夢みたいに考えたら出て来るかもしれないが、弾幕を交わしながらそれをするのは難しい。


「なら、対抗するまで! 『乱符「ローレンツ・バタフライ」』!」


 俺は翼型の弾幕帯を形成し、展開する。だが、霊夢は俺のスペカを見るや否や、一気に距離を詰めてくる。


「そのスペカはもう対処法が確立してるから楽勝、むしろ隙だらけよ!」

「クソ、身内バレか!」


 俺は思わず悪態を吐く。霊夢は拡散しきる前の光弾を潜り抜け、俺の目の前まで近付いてくる。そしてお祓い棒で薙ぎ払う。空中での格闘戦!

 俺はその頭を超える様に宙返りしながら躱そうとするが、それを追いかける様に霊夢のサマーソルトが飛ぶ。


「くっ……!」


 両手で受け止め防御するが、振り向きざまに霊夢は陰陽玉を放ってくる。重力に引かれるように降下ながら躱そうとするが、不規則だが追尾してくる陰陽玉を振りきれない。

 当たる。俺が直撃を覚悟したその瞬間。


『ホクト! 頑張って!』


 小さな女の子の声が聞こえた気がした。聞いたことある声。それは幻聴か、走馬灯か……記憶の、残滓か。

 そういえば、あの自殺未遂をしたあの時も落下しながら走馬灯を見た覚えがある。過ぎた力持ってしまったために495年の月日をずっと閉じ籠って生きてきた、不器用だけど優しい吸血鬼の少女。

 あの子は俺のために変わると言ってくれた。一緒に頑張ろうと言ってくれた。そんな彼女に俺も誓ったはずだ。あの子に応えようと!


「……フラン!」


 俺は何かに導かれる様に左手を掲げて、力任せにぶん回す。すると視界を占拠していた陰陽玉が光と共に真っ二つに裂け、弾ける。

 身体が裂けそうなほどの強烈な衝撃が肌を打つ。だが、不思議と痛みはなかった。


「なっ、それは……」


 霊夢が俺の左手の中のものを見て唖然とする。俺も、一瞬それが何なのか理解できなかった。

 困惑する俺の手には……フランがよく使う巨大な赤の大剣、レーヴァテインが握られていた。

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