番外その三 幻想郷のインフルエンサー 上
こちらは番外編になります。
内容はいわゆる北斗に関するまとめみたいなものです。
一応小説として読めるようにはしています。
また、八章まで読まないと少し分からない点やネタバレが若干含まれます。
そこまで大したものじゃないと思いますが、一応ご注意を。
そして今回は上、中、底の三部構成を予定しております。
「阿求様、輝星北斗殿がお見えになりました」
「通しなさい」
「畏まりました」
私は障子越しに話しかけてきた召使いに言葉を返す。しばらくすると、廊下から足跡が聞こえてきたので立ち上がって出迎えの用意をする。障子を開けて現れたのは北斗さんと……魔理沙だった。
「わざわざお呼び立てしてすみません……ですが、どうして魔理沙もいるんですか?」
「いや、ここに来る途中にばったり会って……」
「面白そうだったから付いて来たぜ!」
「まあ、邪魔しないならいいですけど……」
細かいことは気にしないことにしましょう。私は二人に座布団を勧めて自分の机に戻る。
目の前には書きかけの新たな幻想郷縁起を置いていた。女中が緑茶と御茶請けの最中を出したところで、私は北斗さんに向き直って頭を下げる。
「改めて謝辞を。今日はわざわざ足を運んでいただきありがとうございました。本来ならお話を伺う側が訪ねるのが礼儀というものなのですが……」
「場所が博麗神社じゃあ無理もないぜ……飛べない人間だと片道行くのにも命がけだ」
帽子を脱ぎながら胡坐を掻いて座る魔理沙が横から茶々を入れてくる。まったくその通りではあるのだけれど……毎日のように通ってる魔理沙がそれを言うのかしら?
内心突っ込んでいると、北斗さんが笑いながら頷いた。
「そういうことですから気にしないでください。鈴奈庵のツケを払っていただいた恩もあります。自分がわたし出来る事ならなんでも協力しますよ」
「そう言っていただけると助かります」
よかった、本人に断りもなく勝手に謝礼金の代わりとしてお金を出したので……恩着せがましいと思われていないか不安だったのだけれど。もしかしたら小鈴が上手く口添えしてくれたのかもしれないわね。あとで和菓子でも差し入れてあげましょうか。
「それでは早速……輝星北斗さん、貴方の記事を作るにあたって色々聞かせてもらいますね」
《能力について》
「最初から単刀直入ですみませんが……貴方の能力について聞きたいです。以前はざっくりとしか聞けませんでしたから、できるだけ詳しくお願いします」
「だよなぁ、やっぱり人里に住んでる身としては一番それが気になるよな」
魔理沙が頭の後ろで手を組んで呟く。正直なところ魔理沙のまったく言う通りだった。
彼の能力……『影響を与える程度の能力』は文字通り私達の生活、幻想郷に大きな影響を与えてきた。異変で言えば『宗教不信異変』、そして『無意識化異変』……どちらも記憶に新しい出来事だ。
「まあ、聞かれると思っていましたけど……すみませんが俺自身よくわかってないんです」
そう言いながら北斗さんは申し訳なさそうに頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。それを聞いて私と魔理沙は思わずガクリと来てしまう。わからないなんて……そんなことあるのかしら?
「俺自身何に影響を与えられているのかわからなかったりするし、意図的に影響を与えたりもあんまりしてたことないんです」
「曖昧ですね……調べようとしないんですか?」
「実験して大事になったら里の方々に迷惑が掛かりますから」
ふむ、能力自体は本人も分かっていないことが多いと……北斗さんがこの常識のある性格だからこそ、この程度の被害で済んでるのかもしれませんね。これが自分勝手な妖怪に渡っていたらと考えるとゾッとするわ……
「あんま危なくない影響を与えればいいじゃないか。例えば何かを流行らしたりとか」
何がなく魔理沙が提案するけれど、北斗さんはそれに渋い顔で首を振った。
「うーん、実は一回やったことがあるんだよ。霊夢や紫さんに許可を取って」
「えっ、そうなんですか!?いったい何を流行らせたんですか?」
「料理です。イメージしやすいものの方がいいとアドバイスされたので、一応それなりにやっていますから」
北斗さんは珍しく自信あり気に言う。そういえば一時期女中の食事が凝っていた時があったけれど……まさか、北斗さんの仕業だったのかしら。あの時は女中が勢い任せに作り過ぎで吐きそうになったわ。今でも思い出したら胸焼けが……
「まあ、実験は三日経たずに中止になりましたけど。料理がブームになったせいで、里の一日の食糧消費量が生産量を大幅に追い越してしまったらしくて……あと一週間ほどこれが続いていたら飢餓状態になりかねなかったそうです」
「へー、すげえな北斗。人知れず里を潰そうとしてたのかよ……」
「紫さんも飽きれてたよ。料理ブームで幻想郷が崩壊しかけるなんて考えたくないって」
二人とも暢気に話し過ぎだと思うんですけど……あの……里、滅びかけてましたよ!? しかも贅沢な食事による飢饉っていう前代未聞のやり方で!
ま、まぁ……何はともあれあまり新たな情報は得られなかったけれど……とにかく、本人が穏健派だとしても危険な能力には間違いない。これからも注視しないといけないわね。
《実力について》
「能力と言えば、北斗さんは実力もかなりのものだと聞いたんですけど……」
「それは過大評価し過ぎですよ。確かに一般人よりは戦えますが、幻想郷の中では下から数えた方が早いぐらいですよ」
私の言葉に北斗さんはやんわりと謙遜する。うーん、そうなのかしら?まあ、確かに私が彼の戦っているところを直接見たのは数えるほどしかない。『無意識化異変』の時の霊夢との戦い、そして陰陽玉を通じて見た地底での戦いぐらいだろうだけど……
少なくとも博麗の巫女と善戦出来るだけで十分な実力だと思うんだけれど、違うのかしら?私は魔理沙に目配せをする。ここは戦える人間の意見を聞きたいところね。魔理沙は腕を組んで少し考えると、ニヤリと笑みを浮かべる。
「少なくとも弾幕ごっこじゃ負ける気がしないな」
「えっと、霊夢に勝ったのに北斗さんは魔理沙に勝てないんですか?」
私が素直な疑問を投げかける。すると、北斗さんは緑茶を飲んでから肩を竦める。
「霊夢とは毎日特訓してる分手の内が分かるから、避けれるところはありますよ。それに……あの時の霊夢はまだまだ全力を出してないと思いますよ」
平然と言い放った北斗さんの言葉に一瞬絶句してしまった。たまに思うけれど、幻想郷の強さの天井が分からなくなる時があるわ。幻想郷自体きわどいパワーバランスで維持しているのかもしれない、と改めて思い知らされたわ……
「……そういえば、元外来人の北斗さんがどうやって空を飛んだり弾幕を放ってるんですか?」
「話せば長くなるんだけど……簡単に言えば、他人からの影響を強めて、自分の力にしてるんですよ」
「……えっと、意味が分かりません」
それってどの能力も真似できるってことになりませんか? 流石に非常識が常識の幻想郷でもどうかと思うわよ……? 北斗さんの能力の異常さについに頭痛すら覚えてきていると、最中を食べ終えた魔理沙が口をはさむ。
「北斗、ちょっと言葉が足りないぜ」
「あー、うん、これだけ聞くと何でも真似し放題って聞こえますけど……自分の中で出来ると納得出来たり、そもそも認識できる能力じゃないと使えないんですよ。例えば咲夜さんの時間停止とかは真似できませんね」
「……静止した時間を認識できないから、その能力を使えないってことですか?」
「そんな感じです」
北斗さんがフォローを入れるけれど、正直それでもとんでもない能力だと思うわ。対霊夢戦の時、吸血鬼の力を使ったとき周りが驚いていたのはこういうことだったのね……
「他にも私やパチュリーの様に魔術も使えないんだよな」
「えっ……ある意味一番簡単に使えそうですけど、使えないんですか?」
魔理沙の意外な言葉に私は驚く。僅かにだが、人里にも魔術や呪術に精通する者だっている。魔理沙だって里出身の普通の人間だ。ある意味人である北斗さんが能力として使うなら一番自然だと思うのだけど……
「使えなくはないんですけどね……魔術や呪術に関しては、まだ勉強や修行が出来てないんですよ」
「修行って……どういうことですか?」
「俺の能力はあくまでその人の能力の資質を分けてもらう、みたいな感じなんで。『魔理沙の影響を受けて』も『魔理沙の魔法がすぐに使えるわけじゃない』んです。あくまで才能や素質を貰うというか……『魔法を使える可能性だけ』を貰ってるんですよ。なので、魔法を使うにはちゃんと勉強しないといけないんです」
「なら吸血鬼の能力や、覚り妖怪の力は……」
「あれは生まれついた力なんで、ある程度最初から力を使えますが……ただ使いこなすのには練習がいります。きっとレミリアさんやさとりさんと同じぐらいの力を得るには……二人と同じかそれ以上の時間が掛かるでしょう。人間の寿命じゃ無理ですよ」
北斗さんは皮肉めいた口調で最後に付け足した。
……つまり能力をコピーしているのではなくて、才能や資質だけを借りているだけということでしょうか? 北斗さんがよくお札を使ったり霊夢に似た弾幕を使うのは、『霊夢の持つ資質の修行』を多くしているからなのかしら。
けれど……本人はこう言っているけれど、北斗さんの能力の見境なさを鑑みると、本当は言葉以上に使えるんじゃないかと思わされてしまう。ワザと自分の中にルールを作って、制限しているんじゃないかしら……? 真意は覚り妖怪でもないと知り得ない話だけれど。
「さて、まだまだ聞きたいことがあるんですが……」
「ちょっと待った!」
私がさらに質問を重ねようとしたとき、それを魔理沙の声が遮る。せっかく筆が乗って来たところなのに……
「私も北斗に聞きたいことが結構あるんだぜ」
「……魔理沙は阿求さんみたいに本も書いてないのに何を聞きたいんだ?」
身を乗り出して詰め寄る魔理沙を押し退けながら、北斗さんは問いかける。それに魔理沙は不敵な笑いを返す。そして帽子の中から薄汚れた本を取り出した。
「ふふふ……それが書いてるんだぜ!私だけの魔導書、名付けて……『グリモワールオブマリサ』だ!」