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東方影響録  作者: ナツゴレソ
第十二章 七日戦争(上) 〜Obtain morning of the eighth day〜
156/202

94.0 すれ違いと不死の願い

 それは昨日の夜からずっと考えていたことだった。現状どうやって幻想郷を時間のループから抜け出させるかを知っているのは……おそらく術を行使した魔理沙だけだろう。だからこそレミリアさんたちは紅魔館を要塞化させて魔理沙を守っているのだろう。

 紅魔館、そして永遠亭の強力なメンバーに対抗するためには同等の以上の戦力を集めて対抗するしかない。紅魔館に永遠亭の方々が合流したように、こちらも戦力の増強をはかればいい。きっとこの状況をよくないと思っている人達は沢山いるはずだ。仲間集めはそう難しくないだろう。今朝霊夢を誘ったのは協力してくれる仲間集めをしようと思ったからだった。

 だが相手の戦力がどれくらい増えたのかは分からないが、神子さんの口振りだと……少なくとも一人二人手助けしてくれるぐらいではどうかなりもしないだろう。だとしたら相当な人数を集める必要が出てくる。


「君の行おうとしている行動はこの世界の住民の多くを……場合によっては人里すら巻き込むことになるぞ。幻想郷を戦火で焼き尽くすつもりか?」


 神子さんがマントを翻しながら笏を突きつけてくる。流石聖徳太子、指摘はもっともだ。幻想郷での戦いは制空権争いになるだろう。だとしたら幻想郷の土地の広範囲に戦場の傷跡が残りかねないし、人里がそうなってしまったら幻想郷は崩壊をしてしまうかもしれない。そうなっては時のリセットも発動できるのだろうか……?

 ……なんだか初めて紅魔館に行った時を思い出すな。晩餐の最中、レミリアさんは俺が幻想郷を滅ぼす存在になるかもしれないと言っていた。あくまで未来の可能性の一つだとレミリアさんも説明していたし、俺も自分がそんなことができるとは微塵も思っていなかった。まさか自分から幻想郷崩壊の可能性の方に歩み寄っていくことになるとはね……皮肉だ。だが当然そんなことを望んでいる訳じゃない。俺は首を振ってから口を開く。


「殺し殺されの戦争をするつもりはありません。俺はレミリアさん達を含めた全員で、異変終わりの宴会をやりたいんです」

「理想を語るのは結構だが、魔理沙を守る彼女らは死物狂いで戦うだろう。死んでも勝てば生き返るのだからな。それに対して私達は手加減をして戦う……それでまともな勝負になるはずもないだろう」

「なら相手にも手を抜いてもらえばいい……そのためのスペルカードルールじゃないですか?」

「今の奴らが律儀にそれを守るとでも?」


 ……正論だ。痛いほどの、正論。確かに神子さんの言う通り今のレミリアさん達がスペルカードルールを守る理由がない。そもそも彼女らがそれに従っていたのは幻想郷のパワーバランスを維持するためだ。何をしようと時間がリセットされる現状ではそれが形骸化してしまうのは当然だ。そして……霊夢が目の当たりにした時間の俺がそれを証明している。間違いなく生死を賭けた戦いを仕掛けて来るだろう。だが、だからこそ……


「守らせます。そのためにも集めないといけないんです。レミリアさん達に対抗できるほどの戦力を」

「……確かに交渉の椅子に着かせるためには同等以上の戦力が必要なのはわかる。しかし君は本当に戦争をするつもりなのか?」

「元々この状況は魔理沙が勝手に始めたものです。そしてそれに賛同する者が集まり強行的な手段で維持しようとしている。こっちも対抗してないと……時間がリセットしてしまったら全てがご破算ですよ」

「……なるほどな。あくまで君は……君の望むの結果を得るために手段を選ばない気なのだな」


 俺は神子さんの全てを見通すような視線を受けながら、頷いてみせる。例え永遠を望む彼女らの、魔理沙の思いを踏みにじることになっても、幻想郷を滅ぼす存在と恐れられることになっても……俺はこの時のループを終わらせてみせる。俺の説得を一通り聞いた神子さんはしばらく考え込んでいたが……ややして笏でポンと手を叩いた。


「いいだろう。私達も手を貸す。君の言う通り時間はないからな。君の案に相乗りさせてもらおうか。私も出来るだけ戦力を集めてみることにしよう」

「ありがとうございます。何かあれば博麗神社に来てください」

「わかった。では……期待してるぞ」


 神子さんはそれだけ言い残すと、紅魔館の方へ飛んでいく。見送り終えると、珍しく茶々を入れることなく話を聞いていた天子が口を開いた。


「なかなか期待に応えてくれるじゃない、北斗。で、これから仲間集めに行くのかしら?」

「まあね。とりあえずは……人里の様子を見に行く予定だけどどうする?」

「さっきはああ言ったけれど、私はパスするわ。人に頭を下げるなんて真っ平御免だもの。ま、いざとなったら力は貸してあげるわよ」


 別に頭を下げるのは俺だけでいいから気にする必要はないんだが……まあ、天子らしいか。無理強いできる立場でもないし、荒事での活躍に期待するか。


「頼りにしてるよ」

「当然よ。それじゃあね」


 別れの言葉もそこそこに、天子は要石に乗ってさっさと帰ってしまった。境内に残ったのは火依と霊夢と……こころちゃんだった。てっきり神子さんに付いて行ったと思ったんだが……放っておくわけにもいかないので俺はボケーッと突っ立ってるこころちゃんに声を掛ける。


「えっと、こころちゃんはどうするの?」

「私はお前を手伝うぞ!」

「そ、そう。なら神社で留守番しておいてくれないかな?紅魔館で動きがあったら神子さんが教えに来てくれるだろうし……」

「ふむ……構わないが、一人でか?」


 こころちゃんは無表情で俺の顔を覗き込んでくる。顔から感情は読み取れないが……お婆さんの仮面、姥って言うんだっけ?それを付けている。どういう意味かはわからないが、少なくとも任せておけという雰囲気ではなさそうだ。一人で残すのは心許無い。本来なら霊夢に残ってもらうところなんだが……


「悪い、火依。留守番しててくれるか?」

「昼はカップ麺でいい?」

「……あー、うん何でもいいから、頼むぞ」

「うん、わかった」


 どうにも不安は残るが……まあ、レミリアさん達が博麗神社を攻撃してくることなんてないだろうし、大丈夫だろう。俺は神社へ戻っていく二人を見届けてから……霊夢に向き直る。すると霊夢はあからさまに俺から視線を逸らした。さっきの聞き逃したフリの意趣返しかもしれない。それでも俺は逸らされた顔を見つめながら口を開こうとする。


「霊夢、俺は……」

「……里に行くんでしょ。さっさと行くわよ」


 だが霊夢はそれを遮るように言うと先に飛んで行ってしまった。紅い空に浮かんでいく小さな背が遠くなっていく。霊夢には……伝えないといけないことがあった。勘のいい霊夢がそれを察してるのかどうか知らないが……俺の話を聞きたくないように見えたのは俺の考え過ぎだろうか?

 まあ、本当はいつでも言えたのに、本人以外には聞かれたくないからと言い渋った俺の自業自得ではあるんだが。自分の人付き合いの下手さが嫌になる。早苗にけなされても文句言えないな。俺は自分自身に苦笑しながら遠くで微かに見える霊夢の背を追いかけた。






 案の定というか、里は恐慌状態になっていた。住民の殆どがこの赤い霧と魔理沙の話に恐れ慄いてしまって、町中がザワザワと浮足立っている。特に中央広場に置かれた龍神像の周りには、拝みに来た人で人集りができるほどだった。

 当然寺子屋も開いておらず、俺は慧音さんを見つけられずにいた。せめて里を守る慧音さんにはこれから俺のやることを知ってもらっていたかったんだが……家にも行ってもいないとなるとお手上げだ。俺は何も言わずに俺の後ろを付いてくる霊夢に向けて……ではなく半ば独り言のつもりで呟いた。


「居ないなら仕方ないな……阿求さんのところに行こう。どのみちあの人にも説明しとかないといけないし、知恵も借りたいし」

「……人を集めるって言っておきながら真っ先に里の心配をするのね」

「えっ、まあ、何かあったらいけないし……神子さんの言う通り里を巻き込んでしまうかもしれないから……」


 が、思いもよらず反応が返ってきたもので俺は一瞬言葉が詰まってしまう。何とか返したつもりなんだが、霊夢は大した反応も示さずにまた黙りこくってしまった。どうも調子が狂う。いっそ昨日のように感情をぶちまけてくれた方がまだすっきりするし、霊夢らしく思えるんだが……ついつい俺は目の前であからさまな溜息を吐いてしまう。


「……お前達、慧音の家の前で何をしているんだ?」


 そんな俺と霊夢の様子を見ていたらしい妹紅さんが訝しげに話しかけてくる。姿にまったく気付かなかった。よっぽど霊夢に意識が行っていたのだろう。もしかしたら妹紅さんも慧音さんに用があって来たのかもしれない。俺は取り繕うように咳払いした。


「いえ、慧音さんと色々話しておきたかったんですが留守のようで……妹紅さんも用があったんですか?」

「まあ、な……本当は慧音と話してからにしたかったんだが……お前に聞いておきたいことがある」


 そう言われた瞬間、俺は背筋に悪寒にも似た何かが走っていく。昨日の、輝夜さん達と対峙した時がフラッシュバックする。輝夜さんは永遠を望んだ。なら同じ不死の妹紅さんは……


「北斗、お前は……この異変を解決するつもりなのか?」


 終焉と永遠、どちらを望むのだろうか?

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