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東方影響録  作者: ナツゴレソ
十章 人である証 ~Patchy variant~
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68.0 捻くれ者達と姉妹二人組

 地底に通じる風穴は意外と下層部の方まで日が届く。特にこんな秋晴れの快晴日は地底入口まで明るいことだってある。

 そのため吸血鬼の二人は洞窟内で日傘を差すという、違和感のある行動をしなければならなかった。


「まったく……地底に来たのにまだ日傘を差さないといけないね……夜に行けばよかったかしら?」

「私はお昼でも夜でも、みんなとお出かけできるだけで楽しいよー!」


 愚痴を零す姉と対照的に妹の方は楽しそうだ。俺はそんな二人の吸血鬼姉妹の様子を微笑ましく思いながら、ゆっくりと縦穴を降りていく。

 神社から地底まで行くのにそれなりに時間が掛かるが、その大半がこの風穴を通る時間だ。


「底が見えないねぇ……ホクト、これって飛び降りた方が早いじゃ……」

「いや、それだと俺死んじゃうから……」


 自由落下で一気に下までいけば時間短縮になるのはもちろん分かっているが、地面に叩きつけられるリスクを考量すれば、時間が掛かっても普通に飛んで降るしかない。今回は咲夜さんもいないしね。

 そんな訳で降りていく時間、手持無沙汰になった俺は、レミリアさんに話しかける。


「そういえばレミリアさんって地底に行ったことないんですか?」

「旧都の観光くらいはしたわ。街のどこに行っても騒がしいから長居はしなかったけれど……そういうお前は随分頻繁に通っているようだけど?」

「あー、まあそうですね。一度行くと何かしら予定を決められてしまうんですよ」

「随分人気者なのね」


 レミリアさんに鼻で笑われるが、俺は乾いた笑いを返すことしか出来ない。同時に以前ヤマメさんに忠告された言葉を思い出す。

 俺のことを日向の人間だって言っていたが……それは地上の住人と地下の住人との違いを揶揄したもので、精々お世辞ぐらいにしか思っていなかった。だが地底に何度も行く内にヤマメさんの言わんとしたことが分かってきた。


「ま、気持ちわかるわ。面白いもの、北斗は」

「あんまり褒められてる気がしないなぁ……」

「私もホクト大好きー!」

「わっ……嬉しいけど、危ないって」


 俺は空中で抱き付いてきたフランちゃんを受け止め、バランスを取りながら頭を掻く。

 どうも地底の住人は性格が悪いというわけじゃなく、捻くれているだけのように思えてならない。素直になりきれないというか、自分を蔑んで自暴自棄になっているような感じだ。ちょっと俺と似てる。

 そのためヤマメさんのように気さくで明るいだったり、裏表のない剛毅な性格の勇儀さんが人気なのはわかるが……俺ってどっちでもないし、そもそも暗い性格だと思うんだけどどこがいいんだろうね?

 なんて考えていると、地上からの光もだいぶ薄れてきて、地底の薄暗さが目立ってきた。しかし、それでも灯りの類がいらない程度には明るい。旧都の街灯りのお陰だ。むしろ旧都は夜も朝も関係ない場所だ。


「おや、北斗君じゃないか。今日は両手に花で地底にデートかい?」


 風穴の最深部に辿り着こうとした辺りで、突然目の前に逆さまに吊られたヤマメさんが現れる。それを見て、フランちゃんは慌てて俺の背後に隠れる。まだ蜘蛛が苦手なのだろうか?

 俺は下降の速度を緩めて、ヤマメさんに向けて肩を竦めてみせる。


「地霊殿まで案内してるだけですよ。フランちゃんが、こいしと友達になりたいらしくてね」


 俺は背中にしがみ付くフランちゃんの撫でながら言う。するとヤマメさんが逆さのままフランちゃんの顔を覗き込んだ。まるで品定めするかの様に顎に手を当て、見つめると……優しい声音で問いかけた。


「そっかあの子と……どうしてそう思ったの?」

「えっ……友達になりたい、だけじゃだめ?」


 フランちゃんの、困ったような口調から飛び出した答えを聞いてヤマメさんはニッコリと笑った。


「はは、そうだね。それだけで十分か……うん、いいかもね。是非なってあげなよ」

「う、うん」


 フランちゃんがぎこちなく頷く。ほら地底の人気者のヤマメさんだって偶に意味ありげにこういことを聞いてくる。やっぱり地底は何処か捻ったような性格をしている人が多いみたいだ。ヤマメさんは逆さのままうんうんと頷き、両手を振って見送ってくれた。


「今度は私やキスメとも友達になりにおいでね~」


 そんな言葉を背に受けながら俺達は地霊殿へ向かった。






 地霊殿は紅魔館のように門番もいなければ、召使もいない。いるのは古明地の姉妹とそのペットだけだ。地霊殿に入ってまず出迎えてくれたのは……コモドオオトカゲだった。


「……北斗、ここに何度も来ているのでしょう?こういうときどうすればいいのかしら?」

「いや、未だに分からないですよ……」


 俺達が困惑していると、コモドオオトカゲはノソノソと奥へと行ってしまった。人並みの知能があれば、ご主人様を連れてくる筈なのだが……

 しばらく待っていると、ピンクの髪の少女が奥から現れる。どうやらお利口だったようだ。


「いらっしゃい北斗さん。貴方から尋ねて来るなんて……ようやく私のペットになる気になったかしら?」


 さとりさんは無表情でとんでもないことを聞いてくる。心を読めば違うってわかるだろうに……

 いや、というより毎回のように聞いてくるあたり、本気で狙っているのかもしれない。だが流石に俺にだって人間としてのプライドはある。なによりそうなったら文々。新聞あたりでガッツリヒモ男扱いされそうなのが一番嫌だ。


「ふふ、じっくりと考えておいてください。私は霊夢と火依さんくらいならまとめて面倒見れますから」


 さとりさんの言葉に何とも言えない気持ちになっていると、レミリアさんが俺との間に割って入る様に前に進み出る。そして胸元に両手を添えて妖しく首を傾げてみせた。


「あら、北斗は私のモノよ。久方ぶりね……貴女と妹がお礼を言いに来た時以来かしら?」

「そうですね。要件は伺いました。貴方もなかなか妹思いなのですね」

「………………」


 さとりさんの言葉にレミリアさんは固まってしまう。流石のレミリアさんでも突然心を読まれれば動揺するようだ。

 あぁ、さとりさんのいつもの悪い癖だ。心を読んで半ば自分一人だけで話を進めていく。慣れれば説明が省けたりするしそんな悪いことはないんだけど……さとりさんはかなり遠慮がないからなぁ。


「はぁ……」


 俺は思わず溜め息を吐いてしまう。

 ……いや、さとり妖怪の性なのかも知れないが、もう少し上手に人付き合いしてもらいたいものだ。ええ、説教してますよ。聞こえてるんでしょう?

 敢えて心を読ませてみせるが、さとりさんは気にした様子もなくほんのり頬を赤くしながら淡い笑みを浮かべている。聞こえているかどうかわからないが、今度は声に出してさとりさんに話しかける。


「ええ、ですからこいしを呼んでほしいんですけど……」

「こいしなら貴方の隣にいるじゃない」

「えっ!?」


 反射的に辺りを見回すと、左腕に抱き着き満面の笑顔を浮かべるこいしをようやく認識できた。本当に心臓が止まるかと思った。怪談話のオチみたいな登場をしないでもらいたい。


「こいし……いるなら一言掛けてくれって。ビックリするって毎回言ってるじゃないか」

「いーっだ!気付かない北斗が悪いんだよー!けどそろそろ会いに行こうと思ってたから、来てくれて嬉しいな!」


 こいしは猫のように俺の二の腕あたりに頬を擦りつける。サラサラな髪の感触と頬の温もりが何だかくすぐったい。

 フランちゃん達も、俺の言葉でようやくお目当ての人物に気付いたようだ。余裕な姿を見せつけようとしていたレミリアさんがさらに動揺したような表情を浮かべる。この二人に装ってみせても全く無意味なのに。

 その点、普段から素直なフランちゃんは大丈夫のようだ。ただレミリアさんとは別の緊張はしているみたいで、深呼吸してからこいしに話しかける。


「こ、コイシ!久しぶり!」

「あー!私を助けてくれた人だよね!?えっと名前は……」

「フランドール・スカーレット!フランって呼んで!」


 フランちゃんは所々声が裏返りながらも、ちゃんとこいしと会話している。つい手に汗握って、内心で応援する。こいしも興味を持ったようで、俺の腕から手を放しフランちゃんの方へ向き直った。


「ふーん、フランかぁ……それで私に何か用?」

「え、えっと、その……ぁたしと……友……だちに……」

「………………?」


 フランちゃんがぼそぼそと小さな声で呟くが、こいしには聞こえてないようで首を傾げている。ふと横目でレミリアさんとさとりさんを見ると、どちらも不安そうな表情で二人のやりとりを見守っている。二人とも姉してるなぁ……

 言葉に窮してしまったフランちゃんは、完全に俯いてしまうが……しばらくして、覚悟したような表情で顔を上げた。そして地霊殿中に響きそうなほどの大声で叫ぶ。


「コイシ、私と弾幕ごっこしようよ!」

「えっ!?」


 突然の提案に、俺とレミリアさんが声を上げて驚いた。

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