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東方影響録  作者: ナツゴレソ
九章 落ち葉舞い散る季節 ~the time of preparations~
111/202

64.0 ゴリアテとお約束

 魔法というの結構何でもアリのようだ。アリスさんとの弾幕ごっこは魔法への興味をさらに高めてくれた。

 魔理沙、パチュリーのものとはまた違う系統の魔法。人形を媒介にし操作する魔法に対して、俺は素直に面白いという感想を抱いた。俺も同じことが出来る、なんて考えはしないが……魔法を覚えれば俺に出来ることが増えるんじゃないか、そう前向きに思わせてくれた。


「それはともかく……これを相手にしろというのは、いくらなんでも無茶が過ぎるんじゃないかな」


 俺は引き攣った笑みで巨大な人形を見上げた。

 にしても大きい。両手に持つ剣ですら俺の背丈よりでかい。あんなので叩き切られたら真っ二つどころかすり潰されてしまうだろう。以前、怨霊の集合体を相手をしたときとは違う圧迫感だ。可愛らしい人形の見た目も怖さを助長していた。


「……流石にこれを相手にしたら死にそうなんですけど」

「大丈夫よ。試験体とは違って細やかな操作ができるから。寸止めぐらい……多分できるわ」


 アリスさんは巨大人形の肩に乗りながら言う。いや、あの大きさの剣で寸止めも何もないと思うだけど……不安をヒシヒシ感じるが、とにかくやれるだけやってみるしかないか。俺は刀を鞘に戻し、スペカを取り出す。


「『波及「スロー・ザ・ストーン」』!」


 そして、縦に振り下された右の大剣を躱しながら光弾を投げつける。俺の一石は巨大人形の顔の前で弾け、巨体の足をグラつかせた。だが怯ませ、数歩たたらを踏ませただけだ。人形には傷一つ付いていない。可愛い見た目とは裏腹に装甲は厚いようだ。


「ゴリアテに投石とは面白いことするわね、やってみなさい。ジャイアントキリング!」


 人形の肩にしがみ付ているアリスさんがノリノリの様子で巨大人形をけしかけてくる。この人形、ゴリアテと言ったか。どこかの神話で巨人を礫で倒す話があったが……アリスさんはそのことを言っているのだろう。

 このスペルを選んだのはあくまで偶々だが……空気を読んで倒れてくれればいいのに。俺は内心で毒づきながら、ゴリアテが両手に持つ大剣を躱すことに専念する。


「へぇ、なかなか上手に避けるじゃない」


 アリスさんが賞賛の言葉を送ってくるが、返す余裕はなかった。

 おそらくあのスペルは所謂耐久式だろう。向こうの魔力が尽きるまで耐えればいい。しかし、大きさからして重鈍だと決めつけてしまっていたが、意外と動きは軽快で剣撃も鋭い。油断すれば瞬く間にミンチになりそうだ。

 俺は巨大人形を中心に周囲を円を書くように回りながら光弾を放つ。ダメージこそ与えられないが、弾幕は利用して目眩ましや怯ませるのには有効だ。隙を見てアリスさんにも放ってみるが、強烈な防御障壁に阻まれてしまった。いよいよ避けきるしかなくったわけだ。


「ふむ、姿勢維持や各部稼働も問題ない。今のところ期待通りの挙動が出来るわ。さて次は負荷テストね……」


 アリスさんは何やら独り言を言いながら、ゴリアテ人形の背後に隠れるように、肩から離れる。これはアリスさんへの攻撃のチャンスかもしれない。

 俺は刀を抜刀し、地面スレスレを飛んで足元から巨大人形の背後に回ろうとする。させまいとゴリアテが地面に向かってX字を描くように切り払ってくるが、遅い。地面を蹴りあげて急上昇、人形の頭の上を越した。

 人形の背中側に隠れていたアリスさんと目が合う。その表情は……驚きでも動揺でもなく不敵な笑みだった。


「後ろ、危ないわよ」


 アリスさんの言葉に怖気を感じ、俺は咄嗟に障壁を張りながら背後を見遣る。すぐ目の前に巨大な鉄の塊が迫ってきていた。


「ぐ、はぁ!?」


 障壁を砕かれ、俺は地面に叩きつけられる。肺の空気が口から押し出され、胃酸まで吐き出しそうになる。チカチカする視界にまた大剣が振り下ろされる瞬間が映る。さっきまでとは桁違いのスピードだ。回避は、間に合わない!


「『鬼化「スカーレット・ブラッド」』!」


 俺は素早く片膝を突き、グングニルとレーヴァテインを交差させて受け止める。しかし、吸血鬼の力をもってしても押し返せない。足が地面にめり込んでいく。スピードアップといい、この力といい、今までは力をセーブしていたというのか。いや、それよりも言いたいことがある……


「やっぱり寸止めできてないじゃないですか!?」

「あぁ、ごめんなさい。あまりにも人間離れな戦いするから手加減を忘れてたわ。実際フル稼働状態の攻撃を受け止めてるし……貴方、本当に人間?」

「基本的に人間です!」


 今は吸血鬼状態だけど。しかし、昼間にこのスペルを使ってしまった。おかげで肌が日に当たっただけでプスプス煙を出している。熱い。

 流石に見せられる手の内は見せてしまったし、流石にもう勝ち目はない。俺は大剣を受け止めた状態でアリスさんに向かって叫んだ。


「アリスさん!ここら辺でいいんじゃないですか!?もう俺の能力は分かったでしょう!?」

「ええ、そうね。もう十分でしょう」

「よかった……なら早くこれを何とかしてください!流石に死にますって!」

「それなんだけど……」


 アリスさんは緩慢な動きで自分の腕を抱き、頬に手を当てた。そして首を傾げながらブツブツ呟き始める。


「魔力が切れれば止まるはずなんだけど……オーバーヒートの影響で自爆用の魔力まで稼動に使われてるのかしら?やっぱり不確定要素が絡むシステムは組まない方がいいかもしれないわね……」


 何やら不穏な単語が聞こえる。俺は嫌な予感がして恐る恐るアリスさんに尋ねた。


「えっと……つまりは?」

「制御不能状態ね。破壊するか魔力切れまで耐えるしかないわ」

「………………」


 本当にこの人に魔法を習って大丈夫だろうか?俺は一抹の不安を抱きながら、強張った表情でアリスさんを睨む。しかし、アリスさんはまったく悪びれない様子もなく、独り言を繰り返しているだけだった。






 結局俺とアリスさんの二人掛かりで人形が動かなくなるまで弾幕で押さえ込み続ける羽目になった。気付けば日が傾き始めている。結構な時間戦っていたみたいだ。アリスさんは魔力切れで元に戻った人形を回収してから、へたり込む俺に手を差し出した。


「大丈夫かしら?」

「何とか……もうこんなこと起きないように気をつけてくださいよ……?」

「あら、この程度アクシデントを気にしていたら魔法なんて使えないわよ。それにしても面白いわね、貴方の能力」


 面白い、かなぁ……?とりあえず、不本意ながらも戦闘に使っている俺の能力は殆ど見せてしまったことになる。まあ、元々そのつもりで戦っていたし構わない……そうなった経緯に納得いかないが。

 俺はアリスさんの手を借りて立ち上がると、一応釘を刺しておく。


「もう一度言っときますけど、異変は起こしませんよ」

「残念ね、試したいことがあったのだけれど……それはさておき、魔法の訓練だけれど、好きな時にここに来るといいわ。私もたまに神社に行くようにするから、少しずつ始めていきましょう」

「わかりました、お願いします」


 俺は小さく頭を下げて、アリス宅を後にした。これで何とか魔法を学ぶことが出来そうだ。もちろん、それ以外の修行も減らせない。これから忙しくなることに充実感を覚えた。






 日が暮れる間に神社に戻ると、相変わらず霊夢が境内の掃き掃除をしていた。集めた落ち葉を散らさないようにゆっくりと地面に降りてから、霊夢に話しかける。


「ただいま」

「おかえり。アンタに客が来てるわよ」


 霊夢が縁側の方を指して言う。ここ最近、やけに訪問者が多い。主に天子だけど。俺は気持ち急ぎ足で縁側に回る。そこにはお茶を飲みながら、くつろぐ一人の女性がいた。グラデーションの掛かった茶髪の、物腰優しそうな姿。


「……あら、お久しぶりですね。北斗さん」

「お待たせしたようですみません。それで今日はどうしました、白蓮さん?」


 俺は命蓮寺の住職、白蓮さんに尋ねた。

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