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東方影響録  作者: ナツゴレソ
番外編集
11/202

特別短編 一年に一度だけ使える呪文

 こちらは特別短編 幻想郷の聖夜の続きとなっております。


 今回は甘々控え目のいい話にしようと思って書きました。


 そういうのが苦手な方はご注意なさってください。

 私がクリスマスを知ったのは、香霖堂で見つけた一冊の絵本がきっかけだった。その絵本の中にあったクリスマスは星の輝きにも負けないぐらい綺麗な景色が描かれていたのを覚えている。私はその光景を自分の目で見たかった。だが……

 普段の宴会と変わらない光景を目の前に、私は思わず溜め息を吐いた。そして隅の方でチョコチョコと女々しく飲んでいた北斗に話しかける。


「なあ、北斗……これって本当にクリスマスなのか? 宴会とどこが違うんだ?」

「うーん……まぁ、料理はクリスマスらしいのを作ったんだけど……ケーキも用意したし」

「そんなもんかぁ……? なんか違うんだよなぁ……」

「……今回は準備が間に合わなかったから。来年はもっとそれらしくしてみせるよ」


 つい口から出た文句に、北斗は申し訳なさそうに呟いた。私は首を振って、縁側に出る。別に北斗が悪いだなんて思っていない。むしろ今日一方的に言い出したのにここまで用意してくれて申し訳ないと思ってるんだ。

 けれど心の内のモヤモヤは晴れることはなかった。ダメだ、興が乗らない。もう眠ってしまおうと、私は密かに宴会を抜け出した。






 その夜、私は騒がしい話し声で目が覚める。窓の外からだ。雪が降っているせいか、声だけがやけに通る。私はまだ重い目を擦りながら起き上がって、そっと耳を澄ます。


「北斗が言い出したんだから貴方が起こしなさいよ!」

「だから俺は男だから色々勘違いされるだろ? 話をややこしくしないために霊夢か火依が行ってくれよ」

「いつぞや私に言ったみたいに誤魔化せばいいじゃない。頭でも撫でればきっと許してくれるわよ」

「ちょ……俺の恥ずかしい思い出を掘り返さないでくれ! ああもう、火依! 頼むから行ってくれよ!」

「……もう必要ないみたい」


 そうだな。しっかり起きちまったし。私は寝間着の上に外套を羽織って、扉から顔を覗かす。そこには巫女服じゃない紅白の衣装にとんがり帽子を被った霊夢と、頭にトナカイの角のカチューシャを付けた北斗と火依が私を見て固まっていた。


「……何やってるんだぜ?」

「えっと……メリークリスマス?」


 北斗は粉雪降る中で謎の呪文を唱えて、強張った笑顔を浮かべた。




 いつもの服を着替えてから、私は3人を家に招き入れる。霊夢は部屋に入って一番に、さっき付けたばっかりの暖炉に当たり行く。そんな丈の短いスカート履いてたらそりゃあ寒いだろうぜ。

 二番目に入った北斗は部屋をテキパキと片付け始める。コイツ、男にしては細かいよなぁ。だが二人とも人の家に入っておいて好き勝手し過ぎだ。火依のように大人しく部屋をキョロキョロしているくらいが可愛げがあるってものだぜ。


「それで、一体何の用だよ?」

「んー、ちょっと宴会では申し訳ないことをしたから、せめてクリスマスらしいことをしようと思ってね」


 北斗は床に直置きされタワーになっていた本達を棚に戻しながら私の問いに返事を返してくる。さっきは来年頑張るみたいなことを言っていたのに、どういう風の吹き回しだ?


「北斗、届いたよ」


 私は北斗に説明を求めようとするが、窓から家の外を見ていた火依の一言に止められる。すると北斗は窓の外を指差した。何事かと火依の頭の上から覗き込むと、色々と入った巨大な白い袋が詰まれたそりが置かれていた。あれが届け物か?もしかして……


「あれ全部私へのプレゼントか!?」

「言うと思ったよ……もちろん違うから」


 なんだ違うのか。残念だぜ。私はついに拭き掃除まではじめた北斗に向かって尋ねる。


「それじゃあアレは何だぜ?」

「あれはこれからみんなに配るプレゼントだよ。紫さんに用意してもらったんだ」

「みんなに配るって……」

「サンタをやってみたいって言ってただろ?だからこれから幻想郷中回ってプレゼント配るんだよ」


 ……は? 私は理解が追い付かなくて固まってしまう。サンタしたいって言ったのはただの勢いだったんだが……私は微笑んで見つめる北斗達に向かって声を上げる。


「まさか……私にデブでヒゲのおっさんになれってことか!?」

「どうしてそうなった!?」






 私は霊夢とお揃いのサンタ服に着替えて表に出る。何かしらの魔法式が掛かっているのか、あまり寒く感じない。いいなこれ。私はそりの上に積もりかけた雪を払う。そして一跳びで乗りこみ、浮遊の魔法を掛ける。

 箒と違って、質量もあるため結構魔力を使うが、操縦自体はそこまで苦じゃない。ちなみに霊夢は私の隣に座って、北斗と火依は普通に自力で飛んでいた。一応トナカイを意識してるのだろうか?いちいち細かい北斗ならそこまで気にしてそうだ。


「どっから行く!?」


 私が声を上げて北斗に聞くと、北斗は機械の板切れ……スマホって言ってたか?を取り出して何かを見つめる。そして人里を指差した。


「まずは近場から回っていこう!」

「了解だぜ! よーし、出発!」


 私は右手を突き上げ、そりを駆けさせた。しかし、やってみればこれはただの配達だな。ま、夢のある仕事ってやってみたら案外地味だったり辛かったりするもんだ。そんな達観した思いでそりを操っていると、隣の霊夢が突然立ち上がる。


「魔理沙、気を付けなさい。来るわよ」

「来る?何が?」

「夜に空を飛んでたら出るものなんて一つしかないじゃない」


 そう言うと霊夢はお札とお祓い棒を、北斗は刀とスペカを構える。すると、ほぼ同時に目の前に妖怪が現れる。目当てはプレゼントかそれとも人間の私達かは知らないが……


「相手が悪かったな」


 私は愚かにも近付いてきた妖怪達に同情する。人間は人間でも私達はその中でも指折りの実力持ちだぜ?


「『乱符「ローレンツ・バタフライ」』!」

「『霊符「夢想封印 散」』!」


 二人が同時にスペカを掲げ、弾幕を放つ。拡散された弾幕は襲い掛かろうとしていた妖怪達を悉く撃ち落していく。さらに北斗と火依が先行して、行く手を塞ごうとする妖怪達を排除して、霊夢が固定砲台としてそりから攻撃しまくっている。しかし、今夜はやけに注掛かってくる奴らが多く、次々と襲い掛かってくる。まったく、本当に楽できないな! 私は舌なめずりをしながら魔力を全開にして包囲網を突破しに掛かった。






 何とか妖怪達を退け人里に着いた私達は、子供たちにプレゼント配り始める。どうやって家に入るかがネックだったんだが、そこは火依の幽霊体質が役に立った。壁をすり抜けられる火依が窓を開け、そこからプレゼントを運び入れた。

 たまに妖怪除けの結界が張っていたりして入れない家には、霊夢が結界に一時的な穴を空けて火依を潜り込ませた。偶然なんだが、この仕事とメンバーの能力がかなりかみ合っていた。そのおかげで誰にも気づかれずにプレゼントを配り終えることが出来た。

 人里の子供達に配り終えた後は、各々袋の中身を分けて一人ずつ永遠亭、命蓮寺、紅魔館等を回った。私は紅魔館と妖怪の森周辺の掛かりだったが……まあ、楽勝だったな。勝手に入るのはいつもの事だし。

 集合場所に決めていた博麗神社に一番乗りで到着した私は、鳥居の上で三人を待っていた。まあ……大変だったが結構楽しかった。幸せを振りまいているようでもあり、悪戯してるようでもある、不思議な感覚の仕事だった。


「ふあぁ……霊夢達遅いな……」


 さっきまで寝てたし、結構な魔力を使ったこともあってついウトウトしてしまう。私は仮眠のつもりで頬杖を突いて、じっと目を閉じた。

 どれくらいそうしていただろうか? 身体が少し重い、私自身に雪が積もりかけているのかもしれない。ふと私は目蓋に光を感じて目を開ける。




 すると眼前に、幻想郷を飛び出してしまいそうなほど巨大な光の柱が立っていた。様々な光に彩られた円錐状の光の木だ。それはまさしく、絵本で見たクリスマスツリーだった。私は雪の舞う中の幻想的な光景にしばらく目を奪われる。

 しばらく見とれていると、それが大勢の人や妖怪の弾幕で描かれたものだと気付く。まさか霊夢達が遅いのは……


「はは! これが、私へのクリスマスプレゼントってか!」


 私は思わず大きな声で独りごちる。そして、耐え切れずに鳥居の上に立ち上がって、力の限り叫ぶ。北斗に教えられた、みんなの幸せを祈る、この日しか使えない魔法の呪文を。


「メリークリスマス!」

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