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東方影響録  作者: ナツゴレソ
九章 落ち葉舞い散る季節 ~the time of preparations~
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63.0 魔法と素敵な出会い

 強くなりたい。




 それは初めて俺の中に芽生えた欲望だった。幸か不幸か、俺の周囲には俺より強い人が溢れかえっている。

 いや、知り合いの殆どが俺より何倍も強いだろう。本気で戦っても勝てる見込みのないよう人達ばかりだ。その中で研鑽出来たからこそ、俺はここまで強くなれたのだと思う。

 だが同時に、幾ら追いかけようと追い付けない途方の無さも感じてしまう時がある。霊夢にも魔理沙にも早苗にも、フランちゃんにも妖夢にも天子にも……俺が生きている内に彼女らに勝てる気がしない。

 以前ならそのことに何も思いはしなかっただろう。けれど……


 




「パチュリーさん、魔法を教えてください」


 紅魔館の大図書館、俺は本を読むパチュリーさんに頭を下げた。答えは返ってこない。代わりに本を閉じる音と深いため息が耳に届いた。


「どうしてそう思ったのかしら?」

「……強くなるために」


 パチュリーさんの言葉に俺はシンプルに一言で答える。

 『影響を与える程度の能力』は魔術のような後天的な能力をすぐさま反映させることは出来ない。あくまで他者の影響を強め、『自分も出来るかもしれない』と資質を分け与えてもらっているだけ。

 霊夢の結界術や妖夢の剣術だって二人から習い練習を繰り返して、実戦で使えるようになった。もっとも、二人の実力の一割も使えているか怪しいが。

 だからといって吸血鬼の力や心を読む力などの先天的な能力だって例外じゃない。まるでコピーできているように見えるのかもしれないが、その能力を使うためのコツというか感覚もなしに使っているから、能力に振り回されている。

 さとりさんの能力をぶっつけ本番で使って痛い目を見たからよくわかる。心を読むことの辛さを一部でも知れたのはよかったけどね。ともかく、俺が言いたいのは……


「俺が魔術を使うようになるためには、誰かに習うしかないんです。もちろん、独学でもできるかもしれませんが……」

「独学だと使えるようなるには何十年も掛かるかもしれないわね。そこは貴方の才能と努力次第」

「だからといってパチュリーさんに習えばすぐできるものだとも思ってませんけど……」


 俺はつい言葉を濁してしまう。誰かに習おうなんて、短絡的な発想に思えてきたからだった。他人から習うことを当たり前のようにしているのは、ある意味で他人任せなんじゃないか?

 その思考のせいで何を言っていいか分からなくなり黙り込む。それを見たパチュリーさんは何か思案する様に黙り込むと……小悪魔さんを呼びつけ、何やら指示をした。そして俺の方を見遣る。


「そうね、貴方は自分一人で何かするより誰かに師事したほうが飲み込みは早いと思うわ。影響はその者との距離が近いほど大きくなる。貴方が霊夢の力を他の能力より使えるのは、そのためでしょうね」

「……じゃあ?」

「私の出来ることは精々魔術に関する知識を与え、質問に答えることぐらいしか出来ないと思うわ。それでも良ければいつでもいらっしゃい」

「ありがとうございます!」


 俺は深々と頭を下げる。申し訳ない気持ちはまだ心の内に消えていなかったが、俺は応えてくれたパチュリーさんの厚意に甘えることにした。と、小悪魔さんが何やら分厚い本を幾つも持ってきた。


「とりあえず、上から順に読んでいきなさい。これを読み切ったら魔術が使える、というものではないけれど、魔術に関する基礎的な知識は揃うわ。要は魔法を練習するための下地作りね」

「わかりました。一通り読んでみます」


 俺は頷きながら小悪魔さんから本を受け取った。それにしても重いな。霊夢に漬物石代わりにされないように気をつけないと。


「けれど、どうして魔理沙の所にはいかなかったのかしら?アレの魔法はマジックアイテムや調合を使用したものだから、貴方と相性がいいと思うのだけれど」


 パチュリーさんが再び読書に戻りながら小首を傾げる。相性云々はよく分からないが、確かに最初は魔理沙に頼もうかと考えていた。

 だが魔理沙はここ最近神社に来てない。それで頼むタイミングがなくなったというのもあるが、何より毎日のように神社に来ていた魔理沙が、来れなくなるほど忙しくしているのだ。忙しい相手に手間を掛けさせたくはない。何より……


「魔理沙は自分の努力を他人に見せたがらないですから。人に教えるなんてしたくないでしょう」

「かもしれないわね。ま、魔法使いなんて皆自分勝手な奴らばかりだから……」


 パチュリーさんはそう言いかけて、本をめくる手を止めた。そして何やら空中に紙とペンを出現させ、なにやらサラサラと書き始める。

 魔法であんなことが出来るのか……いや、きっと俺には生涯真似はできないだろう。出来ても手書きの方が楽そうだ。

 書いている内容はよく分からないが、とりあえず待っていると……パチュリーさんは書き上げた手紙らしきものを封筒に入れて俺に差し出した。


「その本を読み終えたら、これを魔法の森に行ってみなさい。素敵な出会いがあるわ」

「……まるでレミリアさんみたいな言い方ですね」


 俺はその書簡を受け取りながら、珍しく悪戯っぽく笑うパチュリーさんを茶化しかえしてみる。するとパチュリーさんは何も答えずにただ、笑みを浮かべたまま読書に戻ってしまった。






 それから読書の時間をいつもより多めに取って、パチュリーさんから借りた本を読んだ。本の分厚さから見て、秋が終わるくらいは覚悟していたのだが……一週間ほどですんなり読み切ってしまった。

 本自体が挿絵なども多く読みやすかったためか、はたまた読書の秋がそうさせたのかはわからないが……何よりの要因は、一番は分からないところをいちいち分かり易く解説してくれたパチュリーさんの存在だろう。

 そんな訳で、魔術に関する最低限の知識を手に入れた俺はパチュリーさんに言われた通り魔法の森へ向かった。確かあそこは化け物茸が多く生えていて、危険地帯だって話だけど……

 魔法の森の入口、ちょうど香霖堂の上空に差し掛かった所で突然書簡に魔法陣が浮かび上がる。それはまるでコンパスみたいに森の一か所を指していた。そこへ行けということだろうか……?


「私が見てこようか?」


 封魂刀から現れた火依がそう申し出てくれるが、俺は首を振った。


「パチュリーさんのことだし大丈夫だよ」


 そうは言っても危険な胞子が舞っていると分かっているところに入るのは多少勇気がいるが。俺は意を決して、森の空域に足を踏み入れた。

 光を辿って飛ぶと、森の中に開けた場所を見つける。そこには洋風のお洒落な家が建っていた。

 間違いなく光はそこを指している。素敵な出会いとはここに住んでいる人の事だろうか?俺は家の間に降り立った。ちなみに火依は刀の中に戻っている。

 深呼吸一つして、恐る恐るドアを叩く。


「……すみません!誰かいませんか?」


 ドア越しに声を掛けるが、返事はない。その代わりに扉が少しだけ開けられ、そこから金髪の可愛い小さな人形が顔を見せた。しばらくお互いに顔を見つめ合うが、反応がまったくない。まあ、人形なんだからある意味当然だろうが……

 えっと、どうすればいいんだろう……

 困った俺は……とりあえず、手紙を渡してみることにした。前に一度だけ開けて見てみたのだが……少なくとも日本語でも英語でもない文字で書かれていることしかわからなかった。

 人形は両手で手紙を取って、すぐさま扉を閉めてしまう。これでよかったのかと不安になりながら待っていると、唐突にドアが開かれる。


「貴方が輝星北斗ね」


 玄関に立っていたのは金髪碧眼の人形のような顔立ちのいい女性だ。女性は家の奥へと招きながら口を開く。


「初めまして、アリス・マーガトロイドよ。紅茶を用意したから、まずは上がって頂戴」

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