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奉られる剣とそれを握る者

「っ! ここは......」


 見渡す限り岩の広がる世界、人の気配は彼女以外に感じられない。さっきまではロンドンにいたはずである。沖田は混乱していた。


「......。一応言っておくが、ここは術式で一時的に生成された『亜空間』と呼ばれ、お前の墓地になる場所だ。覚えておくといい。覚悟を決めたならさっさと剣を構えろ」


 『ジャンヌ・ダルク』を名乗る女性は剣を構え、沖田を待っている。沖田は観念したのか、清野きよの千里せんりを抜き、構えた。沖田は静かに眼を閉じ、集中した。



「おっと、それはすまなかったね」


 同時刻、伯爵邸。義経は視線を伯爵に戻し、話を戻した。


「それで、沖田くんに頼んだ『研究』とは?」


「ふふ。もちろん、『ハーフホムンクルス』についてだよ」


 伯爵が言い終える前に義経の目は鋭くなった。


「一応聞くけど、あの刀とあなたの研究、全く関連性が見えないんですよね。さらに言うならなぜ刀工、あまが作ったとされるものを」


 刀工(あま)。資料・作品こそ少ないものの、妖刀ようとうマニアの間では言わずと知れた刀工で、天が打ったとされる妖刀はもはや謎の技術(オーパーツ)といっても差し支えないほどのものだ。


「まさか、見ただけでわかるとはねぇ......」


「見たんじゃないんですよ。あなたは言ったじゃないですか? 『持ち主を選ぶ』と。天のシリーズ最大の特徴の一つですから」


「ああ、なるほど。そう言われれば、そうだね。で、なぜその刀が必要かだったね?それは」


 伯爵はそれを使い、何をしようとしているのかを義経に話した。義経は納得すると同時に自分が予想してた最悪の結末より酷くなるのではと、思ってしまった。



 あれから数分。亜空間では中段の構えから、一切の動きが無い。先に仕掛けたのはジャンヌだった。


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 掛け声とともに沖田に一直線に向かってきた。


(きたか......)


 沖田はあらかじめ清野きよの千里せんりでどのようなタイミングで仕掛けてくるかはわかっていたため、避けることは容易、しかし問題は次の手である。


(ギリギリで避ければ、隙が生まれるはず......)


 ジャンヌが剣を振り下ろす直前に後ろに下がり、沖田が切りかかった。隙が出来ている、そう感じた刹那、刀が弾かれた。


「さすがに魔剣の派生だけはあってかなりの丈夫さだな。そう簡単に折れたりしないみたいだが、お前の体ごと切ってやろう!」


(うそ......、だろ? 今、隙があったはずだ......)


 再びパニックになりかけたが、すぐに冷静さを取り戻した。距離をとりながら深く息を吐いた。そして先ほど伯爵から借り受けた小刀に手を伸ばし、いつでも鞘から抜けるようにしながらも、不安を感じていた。


(伯爵は『持ち主を選ぶ』と言っていた。現状として、受け入れられているかわからないものを使ったところで勝機が出てくるとは限らない......。ましてや、こいつは清野きよの千里せんりと同じように妖刀ようとう、どのような能力があるかも分かっていない......)



「ああ、もうどうしてこうなるわけ?」


 メアリーは頭を抱えていた。ジャンヌが勝手に亜空間を勝手に生成し、そこで沖田と決闘していることについてだ。向こうの様子は鏡にて、観察している。


「一応彼、『観察対象』なんだけど......」


「ただいま。って、まさか......?」


 義経は帰宅したと同時に亜空間の様子を映し出した鏡に目が行った。そこに写っていたのは沖田とジャンヌだった。


「多分そのまさか......」


 義経からため息がこぼれ出る。直後メアリーに荷物を渡し、廊下の中央で立ち止まり、紙切れを懐から取り出した。そして何かボソボソと何か口にし、それが終わると義経は白い光に包まれた。



「はあぁぁぁぁぁ!」


 あれから幾度と金属音が鳴り響いていた。伯爵から借り受けた小刀を鞘から出し、ジャンヌの剣を受け止めていた。小柄ながらも、ジャンヌの剣を押し返すことも出来ないことはなかった。


(『選ぶ』という意味は分からないが、清野・千里でこのままトドメを......)

 

 このまま、清野・千里の能力で先を読み、一気に決着をつけようとした時、その清野・千里が手から離された。ジャンヌの剣を払うために当てたのだが、骨格上無理な方向に回されたため、はるか前方へと飛んでいった。


「ここまでだな。これほどまでにやるとは思ってなかったが、御免!」


 ジャンヌが勝利を確信し、剣を振り下ろした。刹那、小刀がジャンヌの聖戦姫の十字架ヴァルキリー・ロザリアを弾き、その流れでジャンヌ目がけ、小刀の刃先を向かわせた。そして、聖戦姫の十字架の刃に沿って、ジャンヌの腹部目がけて、火花を散らし、彼女は避けられないと察したのか、焦りの表情を浮べた。



「はあ、結構広いね。これは骨が折れそうだね......」


 義経は亜空間に入れたはいいものの、予想以上に広く迷子になっていた。


「全く、沖田くんも沖田くんだよ。伯爵は伯爵で恐ろしいこと考えているし、これで怪我とかしたら、僕の責任問題も問われるからさ、やめて欲しいよね・・・」


 愚痴をこぼしながらも歩き続けると、どこからか金属音が聞こえてくる。あそこかと義経は走り出した。



「くっ! 外したか?」


 ジャンヌの脇腹に掠りはしたものの、決定打にはなっておらず、清野・千里との間には彼女がまだ立ち塞がっている。


(くそ!あの辻斬りの件といい、反応速度などが桁外れ......。何とかして清野・せん、り、を......)


 沖田は意識を失うかのような感覚を覚えた。はっきりとは見えないが、ジャンヌの足元がふらついているかのように見えた。

(なんだ?この『亜空間』とやらの影響か? それとも、この小刀の......)

 そこで沖田の意識が途切れた。そして何か声が聞こえてきた。




『やーい、魔女の子! お前の母ちゃんは魔女なんだろ?』


 少女は男の子に囲まれて石を投げられた。ある者は彼女の母を『フランスを救った英雄』、ある者は


『魔女』と呼び、祖国フランスでも、意見の対立を呼んだ。



『祖国を救うために必死に戦ったのにそのことも忘れ去られるとは悲しいな』


『落ち着け。お前の行動は目に余るものがある。少しは控えたらどうだ?』


『ああ。わかっている。わかっているつもりだ。しかし・・・』


 少女は物陰からその会話のやり取りを聞いていた。しかし、二人の前では暗い表情など出しはしなかった。



『あのバカ! ついにやりあがったか! これからジル・ド・レの討伐に向かう。誰かリズを頼む』


『おい! リズがいないぞ!』


『たく、あいつは......。こんなときに一体どこへ......』


『おーい。あ、やっとい......』


 男は絶句した。辛くも笑顔を絶やさないようにしていた彼女がジル・ド・レの首元へ、十字架にくくり付けられた少女の彫刻がなされた剣を向けていた。


『ジャンヌ・ダルク、あなたの娘に鉄槌を下されるなら、私に悔いは無い......』


『だまれ。貴様に母の名を呼ぶ資格はない』


 そういうと、彼女は静かに目を閉じた男の首をはねた。




「よかった。起きたみたいだね」


 若干の倦怠感は残ってはいるものの、目の前に義経がいて、自分がベットで寝ていることは分かっている。それでは亜空間やあのジャンヌとやらは夢だったか、そう思い始めると同時に、こちらの思考をまる

で呼んだかのように口を開いた。


「ごめんね、身内が亜空間に連れて行ったりとか、勝手な真似して。あとでリズにもしっかり言い聞かせておくよ」


 『リズ』という義経が口にした名前になんらかのデジャヴを感じながらも、「あれは夢ではなかったか」と呟いた。


「『聖剣を歪んだ感情で握ればそれは魔剣と変わりない』、もっとよく言い聞かせておくべきだった。彼女を許して欲しい」


 まだ本格的に起きてないこともあり、状況をうまく理解できなかったが、とりあえず頷いた。直後、扉が勢いよく開き、その音で本格的に沖田は覚醒した。


「ここにいたか! さっきは何をやってくれたかは知らんが、今度こそ!」


「落ち着いて!」


 メアリーの制止を聞かず、剣を引きずって、ジャンヌが押しかけてきたのである。あわわわっとおびえる沖田の前に義経が入った。


「いい加減やめてよ、リズ? 君の後始末とか大変なんだよ。それにこの人は僕の客人、勝手なことは許さないよ?」


 突如として、思考停止に襲われた。あの時とは格段に違う殺気を義経は出していた。一瞬だったため、すぐに思考を回復させることは出来たが、その殺気に彼女は怯えていた。彼女の様子を見たとき、ふと疑問が頭を過ぎった。


「あ、あの、『リズ』って、まさか......」


「あ、もしかして、『ジャンヌ』って名乗っていた? それは彼女の母親の名前。本当の名前は『リズ・ダルク』。どういうわけか、本名じゃなくてそっちのほう名乗っているんだよ」


 義経の能天気な笑顔が、先ほどまで怯えていたジャンヌ、もといリズが狂気に満ちた笑顔を呼んでいた。


「パパ? いい加減にしないと、切り刻むよ?」


「出来るものなら、やってみなよ? いくらハンデ与えても一度も勝てたこと無いのに、どうやって切り刻むのかな?」


「へ?ジャン......、じゃ無かった。リズさんって、義経さんの娘!?」


 沖田が驚いている横で、3人はぽかんとしていた。


「ああ、私の父親だ」


「違うよ? 僕は彼女をただ育てただけ。とても親と呼べるようなことはね」


「それ、親って言うんじゃないですか?」


大きな惨事にならず、胸をなでおろすような安堵感を覚えたが、それと同時に義経の一瞬写った虚ろな目を見逃さなかった。

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