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屋敷にて

「さて、日本茶と紅茶とコーヒー、どれがいいかな?といっても、日本茶はあまり仕入れる機会がなくてね、あまり期待しないでくれ」



「じゃあ、僕はコーヒーで」


「かしこまりました。砂糖とミルクは申し訳ありませんが、義経様のほうでお願いいたします」


「ああ、構わないよ。それで沖田君はどうするの?」


「日本茶で。それより伯爵! 『来い』とだけの手紙を寄こすのはまだいいとしよう!だが、出迎えもなしとはどういうことだ!? 貴様が呼びつけたのであろうに!」


「はは、すまないね。到着予定日には少し手が離せなくてね。さて沖田君、君を呼んだのは少しお願いがあってね。私の研究に付き合ってくれないかな?」


 一瞬、状況が飲み込めない沖田、返答を待っている伯爵、コーヒーを飲む義経、それをただ見守る執事が沈黙を奏でた。やっと要件が飲み込めた沖田は口を開いた。


「研究......。いったい何を研究している?」


 伯爵はそれを待っていたかのようにクスリと笑い、執事に指示を出した。


「まあ口で説明するより、見たほうが早いかな? 私が研究しているものは『錬金術』というものなんだ」


 そういい、テーブルの上で手を動かし始めた。するとその下で青白い光を放ち、その光源を中心に風が吹き始めた。最初はそよ風程度だったものがみるみるうちに強くなり、急に風が止んだ。


「これが『錬金術』だよ」


 さっきまで青白い光を放っていた場所には黄金色に輝く塊があった。


「本当は価値の低い金属を金のような価値の高い金属に変えるものなんだけど、さっき見せたのは本来物質ではないものを物質に変える最近の手法、結構最近発見されたものだから、目新しいと思ってね」


 状況に追いつけない沖田をよそに義経は険しい顔を浮かべた。


(非物質錬成......。確か、触媒には『賢者の石』のほかにも、かなり珍しい『ミスリル』が必要になってくるはず。だが、非物質錬成で最も重要になってくるものは……)


 魂、 それも人間のものである。この手法自体は伯爵が言った通りここ数年以内に発見されたものであり、詳しいメカニズムはわかってはいないが、 従来の錬金術を根本から揺るがしたものだ。


「沖田君にはまだ難しかったようだね。まあ無理もないけどね」


 古来より『錬金術』という学問が存在しており、現在までに多数の学派が存在している。数ある学問の中でも、最も多様複雑な学問と捉える学者もおり、そのため錬金術の基礎が出来るようになるには20~30年、マスターするためには一生を費やしても足りないとも言われている。


「これがどう関係するか説明しても分からないと思うからあえてしないけど、この刀を貸したいと思う」


 そう言って、あらかじめ執事が用意していた刀を沖田に差し出した。と言っても、刀と言うには小ぶりでさしずめ『小刀』と言ったところだろうか。鞘から出して刃を確認してみたが特に変わったところは無い。


「自由に使っていいけど壊さないでくれよ? この刀は持ち主を選ぶ。もし選ばれなかったら斬ることは不可能。気をつけてくれよ」


 またあのときの感覚が沖田を襲った。それ以上詳しい話を伯爵はせず、沖田も何か引っかかったことはあったが、それを口にすることは無かった。



「あ、そうだった。沖田くん、先に帰ってくれるかな? 彼への要件を忘れていたよ」


 屋敷を出ようとした時、思い出したように言いだした。そして、沖田の返事を聞かず道を戻った。


「俺、帰り道分からないぞ......」



 立派な屋敷の門の前で沖田は途方にくれた表情を浮べた。


「おや、もう帰ったものかとばかり思ったよ、義経くん」


「そんなわけないだろ? 伯爵。お前には聞きたいことがいくつかあるんでな」


 張り詰め出した空気の中、義経は口を開いた。


「あの刀、そしてハーフホムンクルスの件について、聞かせてもらおうか?」

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