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再開

「さて、ここまでくれば追いかけてはこないはずだな」


 人ごみの中から路地に入り、息を整える。ガラスでの怪我を少し心配していたが、見受けられず安堵した。日本にいるころも怪我は痛みこそそれなりに残るものの、すぐに動かして問題は無かった。


(さすがに死ぬかとは思ったが、思いのほか丈夫だな。この体)


 しかし、これは義経の応急処置のお陰であるが、沖田はそのことを知らない。一応沖田自身の体はあの一件以降、普通の人とは比べ丈夫にはなっているが、さすがにあの毒矢は死に至ってもおかしくないほどの強いものであった。


(それで、出てきたはいいものの、どうしようか?)


 出た理由は安静にしたくないためであり、なにか外出する用などない。かといって、あの男と遭遇しても本調子ではない、さらには協力者がいることが濃厚であるため、全くの情報なしで戦いを挑むのは得策とはいえない。


 そもそものロンドンに来た理由は『伯爵』を名乗る男に呼び出された―、それだけだった。だが、現状入手している情報は『ロンドンに住んでいる』ということだけだった。途方に暮れかけたその時だった。


「うぇーん、ママどこー!?」


 おそらく5~6歳ほどの少女が沖田の後ろにいた。見たところ、親とはぐれたと言ったところだろうか?


「どうしたの? お母さんとはぐれちゃったの?」


 少女が小さくうなずく。やはりと顔に浮かべ、大通りに慌ててる女性がいないか探した。


 その後ろで少女がどこからとりだしたのか短剣を構え、気配、足音を消し、沖田めがけ、斬りかかった。



「!」



 少女が驚きを隠せないのも無理は無い。その短剣は沖田には届かず、止められていた。しかも気配すら感じられなかった上、このことに周りは気付いていない。


「『消音』の展開、間に合ったか。それにしても、久しいね? 魔剣『血の竜(ブラッディ・ドラゴ)』。といっても、君には『はじめまして』だけどね」


 目の前にいたのは義経だった。彼の刀が少女の短剣を止めていた。どうやら魔法で周囲に気付かれないようにしていたらしい。


「普段なら魔剣の回収のため、君を殺すところだが、白昼から人を斬る趣味は無くてね。それに今彼に私の正体を知られたくはない。だから、今回は見逃してあげるよ。まあどうしても殺り合いたいなら、場所を移して、彼の血を浴びようとしたことを後悔させてもいいけど?」


 少女は眉間にしわを寄せ、沖田とは反対方向に去っていった。


「あんな小さな子が魔剣を所持しているとは......」


「ごめ......、あれ? 小さい女の子は?」


 小言をつぶやいていた義経をよそに少女の親を探していた沖田が戻って来た。義経は沖田の死角で指を動かし、魔法を解除した。


「ああ、あの子なら母親が見つかったから、そこへ行ったよ。最近の子供は自由奔放だね。ところで沖田くん、僕が何を言いたいかは分かるよね?」


 沖田が目をそらした。義経は顔こそ笑っているものの、後ろには得体のしれない鬼神が見え隠れしている。かつての新撰組『鬼の副長』と言われていた土方、そして昨晩の男より危険で、極局所的な殺気を感じていた。


(これ多分冗談半分の殺気なんだろうけど、今まで感じた中で一番ヤバい殺気って、どういうことだ?)


 普通、圧倒的な殺気を感じた場合、身動きはおろか思考さえ、強制的に止められる。しかし、『冗談半分』だと判断したのは、行動こそ蛇に睨まれた蛙のような硬直状態に襲われたが、思考を働かせれる余地があり、さらにこの先にまだ奥があるように感じたためである。


「そこらへんにしてくれたまえ。彼、沖田君は私の客人だ。少し私の屋敷に招きたいが、いいかね?」


 ふと、声がした方向を向くと、そこには見覚えのある影があった。


「伯爵......、か」


 彼をイギリスへ招いた張本人、『伯爵』だった。見た目は20年前とほとんど変わっていなかった。


「久しぶりだね、沖田君。本当に来てくれるとは思わなかったよ。まあ、屋敷でお茶でもしながら用件を話したいのだが、どうかね?」


 義経の殺気が伯爵へ注目したと同時に硬直を解除された直後、不意に沖田は身構えてしまった。あの時感じなかった、『殺気』とは違う、危険な『何か』を感じたからである。


「すいません。僕も屋敷にお邪魔してもよろしいでしょうか?あなたには少し聞きたいことがありますので」


 義経が言葉を発した瞬間、沖田は重力が強くなったような衝撃に襲われた。恐らくさっきのものより強い殺気を放っているのだろう。


「ああ、いいとも。私も君とゆっくり話して見たかったんだ」


 伯爵は笑顔で答えた。その笑みとともに不気味な何かは消えていった。

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