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正体

望まぬ再会

「さて、褒美と言われてどんなものが楽しみにしていたが、あまり美しくない骸人形むくろにんぎょうだね。理由を聞かせてもらおうか?」


 青年は燕尾服の男に向けた銃に加えて、さらに背中からもう一丁、腐敗状態の激しい『ガウェイン』と呼ばれる骸人形に銃口を向けた。


「これまでの戦闘において奥の手を隠し持っていたが、それは秘密で終わることが望ましい。しかし、私の急所ともいえる場所を一発で当てられては私自身の危機であり、君を賞賛するほかない。そのような訳だ」


「なるほど、戦力の開示って意味か......。といっても、腐敗した骸人形にやられるほどやわではなんでね!」


 青年は燕尾服の男とガウェインに向けた銃を数発撃ち、燕尾服の男は剣で受け止め、ガウェインは一心不乱に、二人とも青年との距離を詰めてきた。青年も後ろに下がりながら、乱射気味に撃ちつづけ、間隔をあけようと動き回っている。


「逃げ回っているとこ悪いが、背中がお留守だぜ? 隙あり!」


 いつの間にか青年の背後にジェフトがおり、回避行動をとろうにも間に合わないことは明白であり、死をも覚悟した。しかし、ジェフトの刀を再度メアリーが握りとめた。


「私の存在、忘れてもらっちゃ困るよね?」


「くっ! やっぱ意味が分からん! なんで刃が通らん!?」


 メアリーは力任せにジェフトから刀を引き剥がそうとしたが、そうもいかず握った手の腕へ蹴りを入れ、一瞬緩んだ隙に刀の主導権を奪い返し、再度体勢を整えた瞬間ジェフトの耳が微かな足音を捉えた。


 少し駆け足気味でこちら側に向かっているのはわかる。しかしこの足音には聞き覚えがあった。沖田のものである。メアリーとの距離を開け、緊張状態に入ったのをいいことに銃声が邪魔をするが、完全に聞き取れないことは無い。下手に攻めて、乱入されるわけにもいかず、攻めるタイミングを決めあぐねている中、目の前を銃弾が掠めた。


「あらっ? 外れたか?」


 ジェフトが目を銃弾が飛んで来た方向に目を移すと後方へ飛び、燕尾服のの男とガウェインとの間隔をあけながら、こちらへの銃撃を図っていた。


「ちょこまかとすばしっこい! 貴様はハエか!?」


「いやだって、僕接近戦からっきしだよ? わざわざ相手の領域にはいるのはバカのやることだ」


 青年に注意がいったところへメアリーが不意打ちを仕掛けるも、それを難なく避け、青年を斬るのかと思った刹那、彼を通り過ぎ、燕尾服の男もそれに理解が追いつかなかった。すると燕尾服の男に向かって、刀を構えた。メアリーも燕尾服の男も裏切りかと思ったが、次の瞬間大きい足音が響く。沖田が到着したのである。


「おいおい、三段撃ちとはえらく懐かしい技を出してくるな・・・」


「その三段撃ちも一撃目で止められては、その名に傷がつくというもの。だが、それは想定内なのでな!」


 沖田は一歩下がり、腰に帯刀してた小刀を抜刀し、再度ジェフトへの攻撃を再開する。


「何度向かって来ても、結果は同じだろよ! 例え、小刀が増えたところでな!」


 清野・千里を後方へ弾こうとジェフトは自身の刀をぶつけるがその狙いはうまくいかず、むしろジェフトの方が押さえつけられてしまっている。


「くっ! 沖田てめえ!」


「どこの誰かは知らないが、ここで散れ!」


 小刀を顔面に斬りつけ、決着を着けようと試みたが、わずかにジェフトがのけぞったために、その刃は顔を切ることなく、フードを切り裂いた。そのときのわずかな隙を見つけ、ジェフトは足をかけ、沖田の体勢が崩れた瞬間、後ろへと下がった。


「仕留め損ねたか......。次こそ仕留め......」


 フードの切れ目から除く眼光に肩の力が不意に落ちた。見覚えがあった。そもそもその声の時点で気付けるはずだった。そのジェフトと呼ばれる男の正体を知っていた。それがあり得ないことが混乱を加速させる。彼、土方歳三ひじかたとしぞう五稜郭ごりょうかくで亡くなったと伝えられていたのである。


「どうした? 仕留めるんじゃないのか? ああ、そうか。これ切れたから、顔見えたのか。なら、改めて挨拶をしよう。久しくだな、沖田。まるで俺が死んでいたかのような反応だが、俺もお前にこの地で再会するなんて思っても見なかったし、なんなら20年くらい前にくたばったって聞いていたもんだからな」


 沖田はあまりの衝撃に構えを忘れた。このような剣を向け合うような場面でなければ、兄貴分でもあった土方の生存を喜んでいただろう。だが、敵として現れている以上殺気は当然沖田に向けられたもの。未だに事実を受け入れられないでいる・


「これにはさすがに驚いたぜ。むしろ驚かないやつがいるか? いい冥土の土産が出来たんじゃないか? 向こうで近藤によろしく伝えてくれ」


 土方が一度、刀を下ろし、饒舌になったかと思えば、喋り終わった途端上段に構え、戦闘態勢に入ったのを見て、沖田はすぐさま、清野・千里を中段に構えた。しかし、動揺が収まらず、剣先に震えが見えた。


 土方が仕掛けようと後へ重心を移した瞬間、獣ともとれる、しかしそれとは一線を画すほどの轟きが沖田を始め、その場にいた全員の注意がその発生源へと向いたのである。一人を除いて。


「めあ、りぃさん?」


 メアリーがこの轟音の発生源であり、様子もどこかおかしかった。目に生気はなく、口からは白い吐息が出ていた。


「ああ、ヤバイねこれ。沖田くん! 撤退するよ!」


「あなたは......?」


「説明はあとで。今はメアリーのケアが先だ!」


 燕尾服の男がメアリーに気を取られているなか、足元になにやら陣を展開し、メアリーを取り押さえ銃口から煙幕を吹き上がらせた。


「沖田くん、はやく!」


 燕尾服の男と土方が、言われるがままに煙幕に向かって走った沖田を追いかけるが、煙を払ったそこに三人の姿はいなかった。


「くそっ! 逃げられたか......」


 険しくなる燕尾服の男の横で、土方は笑みを浮べていた。

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