ほんとうのともだち
あなたがいますんでいるおうちから、ちょっとみなとまででかけていって、そこからふねにのってみなみのほうへずんずんゆくと、おおきなおおきなしまがあります。
そこはまるで、らくえんのようなしまです。いちねんじゅういつもよいおてんきで、おひさまはきらきらかがやき、そらにはくもがほとんどないのでした。
ぶあつくておおきな、こいみどりいろのはっぱをつけた木がたくさんはえていて、ふしぎなほどにあざやかな花がたくさんさいています。おいしいくだものがあちらこちらにみのっていて、しまのどうぶつたちは、おなかがすいたらいつでもすきなだけとってたべることができました。
このうつくしいしまには、たくさんのとりたちがくらしています。そのなかに、にわのことりがおりました。
ひとりは「パロット」、もうひとりは「クッカバラ」というなまえです。
パロットとクッカバラは、だいのなかよしでした。
ふたりはいつもいっしょにもりのなかをとびまわってあそび、いっしょにごはんをたべ、いっしょにおひるねをしました。
パロットは、とてもきれいないろをしていました。
それはまるで、このしまにあるきれいないろがぜんぶパロットのからだにあつまって、そのはねになったかのようでした。
春、きのえだからめをだしたばかりのつぼみのような、きみどりいろ。ゆうやけとおなじ、オレンジいろ。しんせんな、あまいくだものそっくりのきいろ。ふかいふかいうみのような、こいあおいろ。まんげつのばんの、あかるいよぞらのような、むらさきいろ。まだまだたくさんのいろが、パロットのからだのあちこちをかざっています。
とくに、つばさのいろはほんとうにみごとでした。パロットのつばさはまるで虹のように、パロットがはばたくたびに、いろいろなちがったいろにみえるのです。もりのなかまたちはいつもくちぐちに、パロットのつばさをほめたたえました。
クッカバラは、パロットのようにきれいないろをしていませんでした。
クッカバラのつばさは、どこにでもあるつまらないちゃいろです。
それでもパロットは、クッカバラがだいすきでした。パロットがとくにすきなのは、クッカバラのわらいごえです。
クッカバラはとてもたのしそうにわらいます。クッカバラがわらうとき、からだじゅうのはねがふんわりとふくらんで、とてもおかしなようすになります。
クッカバラは、まいあさはやおきです。きょうはなにをしてあそぼうかと、ワクワクしながらめざめると、しあわせなきぶんでわらいます。そのわらいごえがきこえてくると、もりのみんなもめをさまし、やっぱりワクワクした、しあわせなきもちでいちにちをはじめるのでした。
そんなふうにみんなをげんきにするクッカバラのともだちでいることが、パロットにはとてもうれしかったのです。
クッカバラも、パロットのようなきれいなともだちがいることを、とてもうれしくおもっていました。
でもときどき、クッカバラは、
「じぶんもパロットのように、きれいないろをしていたらいいのになあ」
と、こっそりかんがえました。
そんなときクッカバラは、じぶんのつまらないちゃいろのつばさをながめ、そっとためいきをつくのでした。
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あるあさパロットがいいました。
「なんてすてきなひだろう。きょうは、ピクニックにいくのはどう?」
パロットのいうとおり、それはほんとうにすばらしいひでした。
そらにはくもひとつありませんので、きっといちにちじゅうよいおてんきになるでしょう。さわやかなかぜがふいているので、とびまわったらさぞきもちがいいことでしょう。
クッカバラも、
「そうしよう、そうしよう」
とさんせいしました。
そうしてふたりは、パタパタとつばさをはためかせてとびたちました。
ふたりはもりをぬけ、みどりのおかをこえ、ひろいそうげんのうえをとび、きらきらひかるおがわのうえをとびこえました。ふたりのはるかしたで、けわしいがけにうみのなみがうちつけるおともききました。
ほかのとりたちがゆきちがいざま、「こんにちは」といいました。
ふたりも、「こんにちは」とあいさつをしました。
ふたりは、どんどんとおくへとんでゆきました。
とうとうふたりは、これまでいちどもきたことのないばしょまでとんできました。ふたりのしたにはおおきなもりがひろがっています。
「あのもりのなかを、たんけんしてみようよ」
パロットがいいました。
「そうしよう、そうしよう」
クッカバラもさんせいして、ふたりはそのもりにおりてゆきました。
そこは、ふかいふかいもりでした。
ふたりがじめんにおりてみると、せのたかい木があたりいちめんにはえていました。そのえだとはっぱがそらをほとんどおおっているので、もりのなかはくらくてまるでよるのようです。みあげれば、はるかたかいところで、わずかなはっぱのすきまからひのひかりがてんてんとさしこんでいました。それはまるで、まひるにかがやくほしのようにみえるのでした。
「ふしぎなところだね」
クッカバラはいいました。
「ふしぎですてきなところだね」
パロットもいいました。
ふたりは、もりのなかをあちこちたんけんしてあそびました。いままでにみたこともないめずらしい草や花がたくさんはえていたので、ふたりはすっかりたのしんで、とてもおなかがすきました。もりにはたべるものがいっぱいあったので、ふたりはたくさんおひるごはんをたべ、おなかがいっぱいになりました。
「おひるねをしてからかえろう」
パロットがいいました。
「そうしよう、そうしよう」
クッカバラもおなががいっぱいでしたし、たくさんあそんでちょっぴりつかれていたので、パロットにさんせいしました。
そこでふたりは、おおききなきのえだにとまりました。
そこはうまいぐあいにかぜがさえぎられていて、すずしくて、おひるねにぴったりのばしょでした。
ふたりはしずかにねむりにつきました。
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どのくらいねむったでしょうか。
クッカバラはめをさましました。となりではパロットが、きもちよさそうにねむっています。そらをみあげると、おひさまはほんのすこしだけ、にしのそらにかたむいていました。
クッカバラはのどがかわいたので、パロットをそのばしょにのこして、みずをさがしにいくことにしました。まもなくちいさないずみをみつけたので、そのふちにおり、みずのうえにからだをかがめてきれいなみずをたっぷりのみました。のどのかわきがすっかりいやされると、クッカバラはまんぞくして、ちいさなためいきをつきました。
クッカバラはめをつむり、しばらくのあいだ、もりのざわめきをききました。
だれかがどこかで、きれいなこえでうたっています。たくさんのきのえだが、かぜでゆれてかすかなおとをたてています。ちいさなどうぶつたちのちいさなあしおとが、あちらこちらからきこえます。
それは、とてもしずかでゆったりした午後でした。
クッカバラはふとめをあけると、いずみのみずをながめました。みずのひょうめんには、クッカバラがうつっています。そして、そのうしろに、なにかひかるものがみえました。
クッカバラがふりむいてみますと、それはまっかなきいちごの実でした。あたりいちめんに、たくさんたくさんはえていたのです。おひさまのひかりをあびて、まるでほうせきのようにきらめいていました。
クッカバラは、じぶんのもりでこんなにすてきないろのきいちごをみたことがありませんでした。そのきれいなあかいいろはまるで、パロットのくびのところにリボンのようにちょこんとついている、とりわけすてきなあかいはねのようでした。
しばらくのあいだ、きいちごをぼんやりとながめていたクッカバラでしたが、とつぜん、すばらしいことをおもいつたのです。
クッカバラはくちばしでいちごをつんでは、ちかくにあるたいらな石のうえにあつめました。なんどもなんどもいったりきたりして、たくさんのいちごをあつめました。おしまいには、クッカバラのからだのはんぶんほどもある、おおきないちごのやまができました。
クッカバラはそのいちごのやまのうえにぴょんととびのると、あしでいちごをふみつぶしてしまいました。なんどもよくふみつぶしているうちに、いちごのやまはなくなって、かわりにあかいいろのえのぐができました。クッカバラはそのうえによこになると、コロコロところげまわりました。すると、どうでしょう。クッカバラのからだは、きれいなあかいいろになったのです。
クッカバラはいそいでいずみのところにゆき、ドキドキしながら、そのみずのかがみをのぞいてみました。
それはいままでで、いちばんうれしかったできごとでした。クッカバラがずっと、「そうだったらいいなあ」とおもっていたことが、ほんとうのことになったのです!
クッカバラはむちゅうになって、午後のあいだじゅうずっと、いろんないろのきのみをあつめました。そしてそのいろを、からだじゅうにぬったのです。
とうとうおしまいには、だれもみたことがないくらいきれいなとりが、みずのかがみにうつっていました。あたまのてっぺんからおっぽのさきまで、クッカバラのからだはあざやかにいろどられています。あか、あお、きいろ、みずいろ、オレンジ、みどり。かぞえきれないくらいたくさんの、パロットよりもっとたくさんのいろです。
ぜんたいでみると、クッカバラのからだはまるでにじのようでした。
クッカバラはだいまんぞくして、じぶんのもりにかえっていきました。あんまりむちゅうだったので、パロットのことなどすっかりわすれてしまったのです。
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クッカバラがもりにかえりつくと、もりのみんなは、みたこともないすてきなとりのすがたにおどろいて、ぽかんとくちをあけました。だれも、このきれいなとりが、みんなのよくしっているクッカバラだとはきがつかなかったのです。
しばらくのあいだ、みんなのうちのだれひとり、こんなみりょくてきなとりにはなしかけるゆうきがありませんでした。みんながこそこそとおたがいにささやきあうなか、クッカバラはしらんかおですましていました。でも、こころのなかでは、じぶんのことがとてもとくいでした。
とうとう、あたまのてっぺんにふさふさしたかざりのついているオウムが、クッカバラにちかづいてきました。オウムはほんとうはとてもドキドキしていたのですが、いっしょうけんめい、へいきなようにふるまいました。オウム
はからだじゅうのはねをぷぅとふくらませ、クッカバラにはなしかけました。
「こんにちは。どこからやってきたのですか」
「べつに、どこでもかまやしないよ」
クッカバラは、きどったたいどでこたえました。でもオウムははらをたてるどころか、ますますクッカバラのことを、とくべつなとりだとおもったのです。
「いっしょにおさんぽにいかない?」
オウムはおどおどといいました。
クッカバラがもったいぶったようすでオウムのさそいをうけると、とおまきにみていたほかのとりたちも、だんだんまわりにあつまってきました。
すぐに、クッカバラはたいへんなにんきものになりました。
みんな、ほかのとりをだしぬいてじぶんがクッカバラのおきにいりになるよう、めいめいがんばりました。たのしいおはなしをしたり、うたをうたったり、かっこよくつばさをパタパタさせてみせたり、
みんなが、このすてきなとりと、とくべつのともだちになりたがったのです。
そのよるだいぶおそくなってから、クッカバラはじぶんのおうちにかえりました。すると、おうちのまえでパロットがまっていました。
「どこにいっていたの。しんぱいして、ずっとさがしていたんだよ」
パロットはいいました。そして、クッカバラのすがたがいつもとちがうことにきがついて、めをぱちくりさせました。
「そのはねはいったいどうしたの」
パロットがたずねると、
「ほうっておいてよ」
クッカバラはぴしゃりといいました。
「ぼくはもう、どこにでもいるつまらないとりじゃないんだ。このもりで、いちばんすてきなとりなんだ。わるいけど、もうきみとはなかよくできないよ。だってつりあわないからね。じゃあ、さようなら」
パロットはびっくりして、かえすことばもなく、かなしそうにうなだれました。そしてしずかにとびさってゆきました。
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いくにちかがすぎました。
もりのみんなは、あいかわらずクッカバラにむちゅうです。みんなくちぐちに、すてきなことばかりクッカバラにいいます。クッカバラにたくさんのプレゼントをもってきます。
クッカバラはとてもしあわせでした。そして、じぶんがもう、どこにでもいるつまらないとりでないことを、うれしくおもうのでした。
いっぽう、パロットはとてもかなしいきもちでいました。
パロットはひとりぼっちでした。ひとりでもりのなかをとびまわり、ひとりでにごはんをたべ、ひとりでおひるねをしました。
だれも、かわいそうなパロットのことをきにかけていません。でもそれは、いちばんかなしいことではありませんでした。パロットがいちばんかなしかったのは、だいすきなクッカバラのわらいごえがきけないことでした。まえには、それをきくといつでも、しあわせなきもちになれたものでした。
でももうそのこえはきこえません。クッカバラはいまはどこにでもいるつまらないとりではないので、おおきなこえでわらったりはしないのです。もりでいちばんすてきなとりなので、すてきなとりにふさわしく、いつもつんとすましているのです。
あるばんパロットは、おつきさまをながめていました。とてもおおきな、ぎんいろのまんげつのばんです。パロットは、いつかのちょうどこんなよるに、クッカバラとふたりでまんげつをみたときのことをおもいだしました。そのときクッカバラはパロットにおはなしをしてくれました。それは月にすんでいるおてんばなおひめさまがだいぼうけんをする、とてもたのしいおはなしでした。
クッカバラは、おはなしをするのもとてもじょうずだったのです。
パロットはそのことをおもいだしながら、ずっとよるおそくまで、ひとりまんげつをみあげていました。
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そのひは、そのなつじゅうでもいちばんあついひでした。
クッカバラとなかまたちは、なにもせずにこかげでじっとしていました。あんまりあつくて、あそぶきにもならないのです。
するとひらべったいかおのふくろうが、いいことをおもいつきました。ふくろうはとてもりこうなので、いつもきまっていいことをおもいつくのです。
「みんなでかわへいって、みずあそびをしようよ」
ふくろうはいいました。
「なんていいかんがえ!」
と、クッカバラはいいました。
ふくろうはとくいになってむねをはりました。クッカバラにほめられたのが、うれしかったのです。
「いいねいいね」
ほかのとりたちもくちぐちにさんせいしたので、みんなはかわにむかってとんでゆきました。
「みてみて!」
げんきなヒバリがおおきなこえでさけび、くうちゅうからいきおいよくかわにとびこみました。みずしぶきがあがり、てりつけるおひさまのひかりにはんしゃしてきらめきます。みんなはだいかっさいをおくりました。クッカバラもみんなといっしょにはしゃぎながら、せいえんをおくりました。ヒバリはへんなかたちのくちばしをぱくぱくさせて、みんなのかんせいにこたえました。
「つぎは、ぼくのばん!」
いちわのツバメが、ヒバリよりもっとはやく、いきおいをつけてとびこみました。つばめは、はやくとぶのがとくいなのです。とうめいな、うすいガラスのようなみずしぶきがあがりました。
「ぼくだって!」
こんどは、しましまのおっぽのあるヨタカが、もっとたかいところからとびこみました。ヨタカは、ほんとうならひるまはねむっているのですが、このごろはクッカバラとあそぶためにがんばっておきているのです。
みんながあまりたのしそうにしているので、クッカバラもとびこみをやってみたくなりました。そこで、とまっていたえだからひらりととびたちました。
「みんな、みてて!」
そうさけぶと、クッカバラはいままででいちばんおおきなみずしぶきをあげ、いきおいよくとびこみました。そしてそのまま、ふかくふかくみずにもぐりました。
みずはつめたくてきもちよく、クッカバラはいいきぶんでした。
クッカバラはげんきよくみずからとびだすと、おおきくちゅうがえりをし、みんなのまえにおりたちました。そしてみんなのかっさいをまちました。
ところがだれひとり、こえをあげるものはいません。みんなだまっています。
クッカバラは、「へんだな」とおもいました。みんなぽかんとくちをあけ、ただクッカバラをみつめているのです。
「きみだったの」
やっとのことで、だれかがちいさなこえでいいました。
クッカバラは、じぶんのからだをみてみました。すると、どうでしょう。あんなにきれいだったいろが、ぜんぶすっかりあらいながされているではありませんか。クッカバラはまたもとの、どこにでもいるつまらない、ちゃいろのつばさのとりにもどっていました。
「ちっとも、きがつかなかったよ」
ほかのだれかが、するどいめつきでクッカバラをにらんでいいました。
「がっかりしたよ」
だれかはおこって、だれかはがっかりして、だれかはまた、わけがわからずこまっていました。
「みんな、もういこう」
ちいさなスズメがそういうと、みんなはつぎつぎと、とびさっていってしまいました。
あとにはクッカバラがただひとり、のこされているだけでした。
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パロットは、みんなのうわさでなにがあったかききました。パロットがいそいでクッカバラのところへゆくと、クッカバラはひとりぼっちでシクシクないていました。
「ねえ、なかないで。げんきだしてよ」
パロットはクッカバラにいいましたが、クッカバラはただないているばかりです。
「ほうっておいてよ」
クッカバラはいいました。
「だれもぼくのことなんか、すきになってくれないんだ、きみみたいにきれいないろじゃないから」
パロットは、しばらくしずかに考えていました。そして、とつぜんとびあがってさけびました。
「ねえ、これみてよ!」
クッカバラはおどろいて、かおをあげました。すると、パロットはダンスをおどっています。
クッカバラはおどろきあきれてそのダンスをながめました。そうしているうちに、だんだんと、ほっぺたからなみだのしずくがきえていきました。それは、パロットのダンスがとてもへたくそで、へんてこで、おかしかったからです。
パロットはそれでもいっしょうけんめいおどりつづけました。ステップをふむたびに、あたまのてっぺんのふさふさしたはねが、ぴょこんぴょこんとはたのようにゆれています。
クッカバラにえがおがうかびました。そしてついには、こらえきれずにふきだしてしまいました。
クッカバラのおおきなわらいごえがもりにひびきました。クッカバラは、もうないていませんでした。
「ぼくは、きみのわらうこえがすきなんだ」
パロットがいいました。
「ぼくはきみがすきだよ」
「ぼくもきみがすきだよ」
クッカバラも、ちょっとだけはずかしそうにいいました。
おしまい。
(たとえあなたがきれいでなくても、あなたのわらうこえをだいすきなひとは、きっとあなたのほんとうのともだちにちがいありません)