くたばれ! バレンタイン!
毎年二月十四日が近づくと、世の中はバレンタイン、バレンタイ
ンと大騒ぎになりますな。
これはもう間違いなくチョコレート業界、広くは食品業界の企み
です。
あ、最近では食品業界のみならず、もう何でもありという様相を
呈してますな。ネットで調べただけでも、チョコ以外の男性が喜ぶ
プレゼントは、五位ハンカチ、四位Tシャツ、三位キーケース、二
位でデート、一位ネクタイ、と出てきます。へえ、そうなんですね、
知りませんでしたよ。
確かに企業、会社としてはこの機を逃す手はありません。一年の
うちでもバレンタインと銘打てば関連商品がよく売れることが、ソ
レを証明していますな。うまく考えましたよ、うん。たいしたもの。
さすがエコノミックアニマルと昔言われただけのことはありますな。
日本人、商売上手だ。よっ!
しかし! この制度、催し、で、どれだけの人が心を痛めてるの
か、各々の業界人は分からないでしょうな!
そりゃ、始めは良かった。幼稚園、小学校低学年までは、近所の
幼馴染、友達とのちょっとした儀式、礼儀、で話は済んでいたもの
です。まあ、可愛いもの。
「~くん、はいこれ、バレンタインのチョコ!」
「ありがと!」
「一緒に食べよ?」
「うん!」
後ろではお母さん方が微笑みながらソレを見てたりして。
ところが小学生高学年位になると、それはまったく様相を変える
ようになりますな。そう、異性を意識して、チョコが異性からいか
にモテるかの物差しに姿を変えてしまうのです!
以降、バレンタインは、一部の人間を除いて苦々しいものとなり
ますよ。あ、一部の人間っていうのは、例えばそう、一言で言えば
恋愛リア充ですな。わたしも、こんな言葉は好きじゃありませんが、
この言葉、恋愛スペックが高く、頭の六割以上が恋愛を占める●●
を表現するのには適切だと思うんでありますな。ま、即物的、動物
的と言ってもいいかも知れません。
そんな一部の人間を除いてですが、以降、齢を経て、人生が尽き
るまで、バレンタインは物悲しい、切ないシーンを人に与えるので
すな。あ、今、人生が尽きるまでと言いましたが、本当は色欲が尽
きるまでですな、皆様方。色欲が尽きると以前の幼稚園、小学校低
学年の頃に戻るのですから、人はうまく出来ているものです。
で、その日。男子は誰もがプレゼントを期待します。表面上は関
係ないって顔をしてても、もう百パー期待してます。はい、言い切
りました。おかしい事は総て妖怪のせい……と同じ位に言い切りま
した。でも、そなんですよ。お嬢さん。
その日、いやその数日前から、好きな子がいる子もいない子も、
もうソワソワ。
またそれを女子に「意識しちゃって」とか思われるのもまた辛い
もの。
で、その日、朝からソワソワ。でも決してそんな素振りは見せな
いように気をつけて。実はそれがもう意識してるってことなんです
けどね。いや、難しい。
学生さんなら、下駄箱。これが第一関門ですな。これを開ける時
の気分ときたら。ああ、もう思い出すだけで冷や汗が出る位ですわ。
そこのお兄さんも分ってくれるでしょ? まあ、大概が何も入って
ません。当たり前です。ここで綺麗な包みのチョコが入っているの
は先ほど言った恋愛リア充だけです。
で、自分のクラスに向かう途中、急に別のクラスの女子、後輩、
センパイがやって来て「これ!」って渡されて…てな妄想は妄想だ
けで、何事も無く、クラスにつきます。で、第二関門が机の中。ま
ずは手だけで探ります。あ! って思う間も無く、何もありません
よ。ここでも何も無いのが普通ですわ。うん、無いのが普通っ
て……え?! 今手に触れたものは? もう心臓もバクバクです。
でも、よく考えりゃ、この間の給食の食べ残しの残飯だったりしま
す。掃除位しとけよ、俺!あ、いやいや、俺じゃなかった、あくま
でも一般論です。
ここまででも彼の感情は千々に乱れておりますな。でも! そん
な感情の変化を誰にも気づかれないように、自分の席に着きます。
で、耳を澄ますわけですな。男子はみんな、周りを注意深く観察し
ます。観察してるのを悟られないように。
俺以外のやつらはどうなんだろう?バレンタインのチョコをもら
っているのだろうか? 頭の中はもうこれでいっぱい。
恋愛リア充のサッカー部のチャラオは、これ見よがしに、
「ああ、今年はいつもよりちょっと多いかな? へへっ」
なんて、もらったチョコを机の上にわざと置いたりします。
ちぇっ、サッカー馬鹿のチャラオめが!こいつ、やっぱり嫌いだ
よ! 偏見に満ちてるのは分っておりますが、大抵はサッカー部な
んすよね、そうじゃないですか? ご同輩?
で、その他のご同輩は、まったく興味が無いフリをして、普段は
読まない本なんか読むフリをしますな。俺はバレンタインなんかま
たく興味はないんだよ、てな風を装って。
で、授業の間の休み時間、昼休み、も何事も無く、放課後になり
ます。これからが本番かな? そう思う男たち。この間も彼らの心
は乱れに乱れております。
でも、やっぱり何事も無く過ぎていくわけですな。好きな子がい
る奴は、用も無いのに、その子の近くに行ったりしますが、やっぱ
り何事もなく時は過ぎていきます。お調子者は「~ちゃん、俺にチ
ョコは無いの?」なんて聞いたりしますが、やっぱり大抵は「ば~
か!」こんな風なオチを迎えます。
その日に限って、いつもより学校にいる時間が長い男たちも、諦
めという名の手によって背中を押され、家路につきますな。後ろか
ら
「~さん、待って! はいこれ、バレンタインの!」
って事も無く、普通に野郎共と帰ります。この時、野郎共は、バレ
ンタインのことは話題にはしません。もう百パーしません。いつも
よりも明るく、好きなアニメの話題で盛上がったりします。もうミ
エミエですが、それしか手が無いんですよ。
で、家に着きますな。とりあえず、意味も無く郵便ポストの中を
探って見ます。あ、夕刊だ!あ~あ、夕刊しかねえでやんの……や
っぱりか。
で、家のドアを開けると、妹や姉が、
「アンタ、今年もダメだったんでしょ? はい、これ!」
ってしょぼい形だけのチョコをくれます。一遍位は
「ヘヘッ、見ろよ、クラスの女子からこれもらった!」
って、言ってやりたいけれど、そんなのは想像の中だけですな。
更に母親からも毎年のチョコをもらいます。小学生高学年以降は、
それもちょっとだけキツイ行事となりますのを、母親は気づいてお
りません。あ~あ、そうなんですよね、ご同輩。
こうして毎年、ホントに彼女が出来るまでは、こんなバレンタイ
ンを過ごすのでありますよ。
今思えば、青春の甘酸っぱい思い出ですが、彼女が出来て以降も、
バレンタインは楽しいだけじゃありません。彼女が居れば居るなり
に、色んな思惑もあり、平常心ではいられないのですよ。中学生の
俺、そうなんだよ!
で、これが、色が枯れるまで続くんですな。状況は人によって違
うのでしょうが、バレンタインは男の心をざわつかせる魔物なんで
ありますよ。
そしてこれは男子だけの問題ではないんです。女子だって色んな辛
い思いをします。
好きな彼の為に用意した手作りのチョコ。でも、やっぱり渡せな
かったチョコ。それをお父さんに渡したり。
または友達と同じ人を好きになって、友人が渡すのを一緒に見守
ったりして。
私はバレンタインなんて関係ないから! 強がってみても、やっ
ぱり心の中では冷たい風が吹き抜けます。
結局、チョコを用意しないのは流れに逆らってる気がして。友チ
ョコという名の慰めを、自分用という名の労りを、用意したりして。
ねえ、彼女、貴方も本当に好きな人が出来た時、本当のバレンタ
インの意味を知ることになるのは、今はまだ分らないかもしれませ
んね。でも大丈夫。その日は来ます。
マスコミに流された、形だけじゃ無い、本当のバレンタインを。
自分が望む自分のバレンタインを。まあ、それが来なくても人生、
それだけじゃありませんから大丈夫。人生色々、お千代さんも歌っ
てました。
で、結論、オチですが、本当の愛を掴むまで。長く厳しいバレン
タインという名のお試しが、私たちを襲ってきます。
食品業界を始め、様々な儲けようとする人達が貴方を試すでしょ
う。恋愛リア充、そしてその他の愛すべき人たち。そう、かつての
私やあなた。試されますよ、これからも。殆んどは報われないです
が、耐えましょう。日々これ精進。それが人生。
だからこそ! 声を大にして言ってもいいんですよ。その日が来
るまで。
「くたばれ! バレンタイン!」
さあ、もう一度!
「くたばれ! バレンタイン!」
お後がよろしいようで……
くたばれ! バレンタイン! 今年も私はこう叫ぶでしょう、くたばれ! バレンタイン!