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第四話:四枚目のカード

 冬治と柴乃、千はお昼休みに一旦集まってカードについての話をすることにした。場所は屋上に即決まった。一番静かで、誰にも邪魔されない。

 どこの学園にも不良はいるらしく、そう言う人達のたまり場だと柴乃から教えられた。

 不良が居れば場所を変える。ただ、どうやら今回は場所を変える必要が無いらしい。屋上には誰もおらず、静かだった。

「一体これで、どうしろっていうのだろう」

 天気の良い空を眺めてそんな事を呟いた。物事には理由があり、カードを渡されたと言う事は何かをしなくてはいけない。だが、本を渡されたから読むと言う行為以外にも出来ることはある。図書館に本を返す、売りに行く、枕にして寝てみる等々……どうすればいいのか教えてくれる人が必要だ。

「ただカードがあるだけじゃ、わからない」

 冬治の言葉に柴乃と千は頷いた。安直に返すことなく、考え込み始めた。

 考えたところでいい知恵は出ず、誰かのお腹が鳴った。

「こほん……まず、情報を整理してみましょう。カードを渡される時、何かを言われたと思います。それが一言だとしても、別々の事を言われていれば繋げて、何らかの情報を得られるかも。ちなみにわたしは、渡されたカードの説明と、このカードを集めるようにと言われました」

 千はそういって塔のカードを二人に見せた。不幸を呼び寄せるカードとのことで、柴乃は彼女に近づいたとしても触れようとはしなかった。冬治に対して影響はないらしいが、偶然かもしれない。お触りはやめておいた。

「私も大体同じ感じかな。悪魔のカードの効果は教えてもらえなかったけれどさ、カードはお金になるって言われたよ。だから、もっと他にもあるのは知っているし、集めて売ろうかなって」

 二人の視線が冬治に向けられるが、冬治は首をすくめた。

「このカードは俺の心臓で、一枚数百万ぐらいの価値が……って事だけかな。二人に比べるとほとんど教えてもらえてないよ」

「数百万っ」

「心臓っ」

 冬治の言葉に柴乃と千は驚いていた。予想以上の驚きに冬治は驚きを隠せなかった。

「うっそ、これそんなにするの? 一枚で、お金持ちじゃん」

「心臓……た、大切に扱わないと。破れたりしたら、大変だよっ」

 欲望にまみれた人間と、臆病風に吹かれた人間がお互いのカードを見やる。獲物を狙う肉食性の動物の目をしていた。

「二枚あれば、お金持ちから更にお金持ちにランクアップ」

「友達って信用できないもんね。やられる前にやらないと」

 友達としてやっていけそうな三人だったが、此処に来て暗雲が立ち込める。冬治も何か言ってやろうと思ったものの、いい言葉が思いつかなかった。まぁ、いざとなったら止めよう。そう思ってこの場は黙って二人の事を見ていることにした。

「塔のカード、寄こしなさいよ。悪魔のカードでどうにかするわよ」

 一体、悪魔のカードでどうするのだろうか。効果は不明で、どうやって使用するのかも冬治はわかっていない。おそらく、柴乃もそうなのだろう。

「そっちこそ、塔の不幸でカードを破いちゃいますよ」

 柴乃と違って千の方はカードの使い方を知っている。

「やれるものならやってみなさいよっ」

「言いましたねっ、後悔しますよっ」

 冬治を挟んで一触即発の空気となった。これは確実に巻き込まれる事請け合いである。とかく、間に入る者は何かに巻き込まれやすいのだ。

 まずは保身に走ってみよう。冬治は両手を広げて待ったに入る。

「まず、さ、こんなところで小競り合いしていてもしょうがないだろ。やめよう、話し合おう……損はさせないし、危害を加えたりはしないからさ」

「ふんふん、話を聞こうかな」

 あっさりと信じ込んだ柴乃は将来、誰かに騙されるだろう。

「は、はい」

 そして、これまたあっさりと信じた千も友達に裏切られるかもしれない。

 今はそんな事、どうでもいいのだ。小さな不幸や争いは必ず世界のどこかで起こっている。自分が巻き込まれなければ、それでいい。なんて、自己中心的なことを考えている余裕なんてなかったりする。

「タロットカードって全部で何枚あるんだ? 俺は詳しくないからわからないんだが……」

「小アルカナも含めて?」

「小、あるかな? 一体何があるんだ」

「夢川さん、おそらく……大アルカナだけだと思うので二十二枚だと思います」

「大、あるかな? なんだい、それは」

 初心者には良くわからない言葉だった。

「詳しく説明するのも面倒ですし、私自身そこまで詳しくないので……とりあえず、今回は二十二枚だと思う。つまり二十二人カードの所持者がいるでしょうね」

 あっさりと冬治に対しての説明を投げて、千は言った。

「なるほど、つまりここに三人いるから残りは十八人?」

 多そうで少なそうな感じの人間だった。一つ学級が出来そうだ。

「どんなカードの種類があるかわかるか? 俺のカードにはXIIIって書かれているんだg……何これ」

「それは番号。十三番目のカードって事」

 柴乃から教えてもらい、冬治は脳内に十三番目が死神のカードだと刻んでおいた。

「ふーん。じゃあ、カードを一番から順番に教えてくれないか? 名前と番号、教えておいてくれれば番号だけみても何のカードかわかるだろうし」

「私はちょっと順番通りには……千、言える?」

「任せてください、暗記物は得意なんです。小学生の頃なんて四十七都道府県、完璧に覚えていましたから」

 柴乃よりはある胸を叩いて、自慢げに言う。

「私だってそのくらい、言えるわよ。県庁所在地だって言えるし」

「柴乃さんがそこまで出来るのなら、名産品なんかも答えられますけど?」

「……地図の記号でこれは市役所とか、果樹園とか私、言えるもんね」

「わたしは……」

「あー、もういいから早く教えてくれっ」

 こんなんじゃまた一日を無駄にしそうだ。小学生の頃の社会科を懐かしがっている二人につきあう時間はないのだ。

「わかりました。えーと、愚者、魔術師、女教皇、女帝、皇帝、司祭、恋人、戦車、力、隠者、運命の輪、正義、刑死者、死神、節制、悪魔、塔、星、月、太陽、審判、世界……ですね。愚者は零番目、もしくはナンバー無しです」

「ふむふむ、そうかい。わかった、ありがとう」

 冬治はメモ帳を取り出すと順番通りにアルカナ名を書いていき、その隣にわかっている人物の名前を書く。わかっている人数のほうが当然少ない。

「繰り返される四月一日、これは十番目のカードの所有者の力でしょうね」

「柴乃さんもそんな事言っていたな。運命の輪か」

「どうにか出来れば……もしくは、放置の方がいいかもしれない」

「ま、この運命の輪の所有者を見つければ、四月二日にいけるのはほぼ確定かな」

「どう、ですかね。とりあえずカードのことについてもっと知る必要があるでしょう」

「後、何か話しておいた方がいいことはないよな」

 既に電話番号は登録されている。今回の交換生制度で友達なんか作る予定ではなかったが計らずしも二人の友達が出来たわけだ。

「じゃ、そろそろ解散……」

 冬治がそういいかけたところで屋上と校舎をつなぐ扉が乱暴に開いた。

「冬治っ、こんなところにいたのか」

「あ?」

 其処には冬治の友達が立っていた。

「ああ、見晴か」

「みはらし?」

 変な名字だと柴乃が首をかしげて冬治を見た。

「そう、みはらしすい。すいの文字は彗星の慧だ。俺の数少ない知り合いだよ」

 冬治が説明しているうちに慧は近づいてくる。中性的な顔立ちで、学ランを着た人物は爽やかだった。事実、女子生徒からきゃーきゃー言われていたりする。

「ぼくさ、すっごいカードをもらっちゃったんだ。ねぇ、見たい?」

 すっごい、カードをもらった。その時点で三人の興味は慧本人よりもカードの方へと移行される。

「何だよ、教えてくれ」

「待った。ところでその二人は誰?」

 自分で振ったくせに話を引っ込め、別の話題を提供する。こういうところがあるから慧は面倒くさいんだと冬治は心の中でため息をつく。

「友達だよ」

「え、そうなの? 冬治の友達として釣り合わないと思うけどな」

 そして、一言余計なのだ。慧はよく裏表がないと言われている。しかし、それならまだ裏表が合ったほうがいい気がする。本音と建前、必要なことだ。

 もちろん、当の本人が冬治の気持ちなんて知るわけもない。慧は露骨に嫌そうな顔を柴乃に向けていた。

「こっちは男で遊んでそうだ」

「なっ……」

 ああ、それはちょっと思ったかもしれない。柴乃の反応を見て冬治は口に出さなくて良かったと改めて実感した。やはり、何があるか分からない場所には誰かを歩かせるに限る。

「こっちの子は幸薄そうだし」

「そうですけど、それが何ですか」

 そんなことは見なくてもわかりきっている。ただ、再確認は必要だ。三分だと思っていたインスタントラーメンが五分の物だったら少々硬かったりする。

「何こいつ、ムカツク」

「本当、何なんですか、この人はっ」

 ああ、変な小競り合いがまた始まりそうだ。冬治は心の中でため息をついた。ため息をつけば問題が解決するのならいくらだって吐くだろう。

 面倒なことが起きる前に(既に起きている気がするが)、話をカードの話題に戻す(また話を変えられるかもしれないが)。

「で、一体どんなカードをもらったんだ」

「ここじゃあれだからさ、男子トイレで一緒に見ない?」

 唐突に冬治の腕を引き始めた。まっすぐな好意を感じる事が出来る。

「また今度な」

「いっつもそうやって逃げるじゃん」

 そんな慧を見て柴乃がせせら笑う。

「何、あんたホモ野郎?」

「夢川さん、ほいほいついて行くと掘られますよ」

 若干の嫌悪を見せて柴乃が毒づいた。千の方は結構な期待を冬治のどこかへと向けている。

「む、何だよ。ぼくは別に冬治と仲良くしたいだけさ。阿婆擦れと破滅女は関係ないだろう」

 何だかまとまっていた感じがしていたのに、それらはどうやら夢だったらしい。冬治は信頼と言う字があっさりと崩れ去った気がしてならなかった。

「あ、あばっ」

「破滅……」

「お、おい、いくら何でもいいすぎだ。普段からそんなだからお前も友達が出来ないんだろ?」

 夢川さん、今、私を見て言いましたよね……言いましたよねっ。千が何かを目で訴えかけてくる。しかし、冬治は気付かないふりをする。

「それに、見晴は女だろ」

「お、女?」

「嘘……」

 二人とも、同時に見晴の胸へと手を伸ばした。

「あ、本当だ」

「ないちち?」

「さ、触んなっ。あと、さらっと馬鹿にすんなっ。冬治はちょっと大きな胸が好きなだけで、僕の胸も揉もうと思えば揉めるんだっ」

 変な言い訳を始める。

「じゃあ、揉んであげる」

「やめろ馬鹿っ。揉んでいいのは冬治だけだっ」

「よいではないですか、よいではないですかぁ」

「……悪くないな」

 たまには慧も酷い目を見たほうがいい。そう言って冬治は素知らぬ顔をしていたりする。

「はぁ、はぁ……くそ、お前らよくもっ」

 慧が両手で振りほどくと同時に、何かが屋上に落ちる。

「ん、王様の絵?」

 冬治が拾い上げたカードに、玉座と王様が描かれていた。

「皇帝のカード」

 何だか凄そうなカードだった。後ろ向きか、前向きかと言われればこの四人の中で一番前向きなカードである。ただ、悪魔に唆されて塔を建て、まっさかさまに落ちた後に死神にお世話になりそうだが。

「どう、冬治凄い?」

 慧の言葉に冬治は首をかしげる。

「凄い……のかな」

 柴乃と千を見るが、二人とも首をかしげていた。

 「どうだろ。効果がちょっとわからないなぁ……慧ちゃん、このカードの効果は聞いた?」

「慧ちゃんって慣れ慣れしく呼ぶな。呼んでいいのは冬治だけだ」

 慧はそう言うので、冬治がこれまたため息をつく。

「効果、わかるか?」

「うん、わかるよ」

「面倒な人ですねぇ」

「それ、俺も思う」

 慧は聞こえているのかいないのか、カードの効果を喋り始める。

「多くの存在に慕われるとかなんとか。これを持ってやたらと女子から声をかけられるようになったんだよねぇ。鬱陶しい」

 面倒だと呟いて慧は首をすくめる。

「冬治も、ほいほいぼくについてきてくれるかと思ったのにな。全然、そんな気配ないし」

 そういってちらりと冬治を見る。冬治は全く気付いていなかった。

「……異性をどうにかしたいのなら、女帝か女教皇、もしくは恋人が良かったでしょうね」

「え、そうなの? この中に持っている人いないかな? ぼくの皇帝と交換しない?」

 さっきまで敵対していたはずなのに、都合のいい情報を提供されただけで千に近寄っている。

「ねぇ、いないの? 今ならガムもつけるけど?」

 その言葉に二人は微妙そうな顔をして交換に首を振る。

「女の子に声をかけられる、か。いいなぁ……」

 俺は何で死神のカードなのだろう……慧が女にもてても仕方ないだろ、不公平だ。冬治の呟きが誰かに聞かれることはなかった。

「それでさ、このカードは何なのかな? タロットカードって奴だよね。ねぇ、冬治、知ってる?」

 慧の言葉に、冬治は首をすくめてみせた。

「いや、俺も良くわかってないんだ。そもそも、タロットカード自体をあまり知らない」

「ふーん。でも、集めるといい事があるって言われたけど」

 結局、誰ひとりとしてこのカードが何なのかわかっていなかった。

 しばらく考え、昼休みが終わりそうになった時、千が口を開く。

「目標が必要です。ただ無作為に日数を過ごすのは良くない気がします」

「え、この人いきなり何言いだしてるの?」

「慧、後で説明するから黙っておいてくれ」

「はーい」

 調子いいな、こいつ。柴乃が小声で言った言葉は冬治と千に届いていた。しかし、それに何も言わず千は続ける。

「まず、運命の輪、もしくは審判か世界のカードを持つ人物を探しましょう。ルールを知るためには世界か、審判が知っていると思いますし」

 そして、四人は放課後に再度集まって探してみたものの、何の収穫も得られなかったのだった。


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