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第二十五話:サボリの代償

 誰が、何を、いつ、どこで、何故したのか、どのようにしたのか。物事には理由があって結果をもたらすものだ。冬治の携帯電話の中にある運命の輪のカードにも理由があるはずだ。

「いつ、撮ったんだろう」

 覚えの無い画像に対してのコメントに、他の三名はそれぞれ別の反応をする。

「忘れてんだろ」

 薺の言葉には納得しかねた。無論、審判のカードを使用した際、変なことが起こっていたのは確かだ。その時と関わりがあるのかもしれない。

「誰かが代わりに撮った」

 そちらも充分考えられた。いつかはわからない。

「も、もしくは誰かが入れ込んだとか」

 実行者ではない四人では答えが導けない。昼休みの時間も迫っているため、三人は音色に別れを告げることにする。

「ま、またね」

「え? うん。またね」

 部屋を出ようとした際、音色は軽く手を振った。冬治もそれに合わせて手を振る。

「友達、ね」

「ああ、いいもんだ」

 菖蒲と薺はその光景に目を細めていた。普段怖い表情の……こほん、きつい表情の薺もこの時ばかりは優しい。

「薺先輩もそんな顔、するんです……うわっ」

「口のきき方に気をつけろよ」

 右拳が危うく顔に刺さるところだった。避けられた自分を褒めまくっておいた。

「薺も人の子だから」

「おい、菖蒲、何当たり前の事を言ってるんだ」

「さ、さぁ先輩方、学園に向かいましょう」

 適当にごまかし、睦月邸を後にするのであった。

 どこまでも続いていそうなアスファルトを歩く。やはり会話にあがるのは運命の輪のカードのことだった。もう昼食を採っても問題ない時間帯なのだが、冬治のお腹はおとなしくしている。

「運命の輪、見つけたらどうしてやろうか」

 その目はぎらつく獣だった。手なんてばきばき言っている。

「え? 何故ですか」

 何と無く、想像はついて居る。それでも、やはり口にして確認するのは大切なことだ。

「四月一日に閉じ込められているんだ。見つけたらすぐさま、解除してやる」

 今日解除されると非常にまずいことになる。玄関は柴乃に叩ききられており、学園はサボったままなのだ。

「そうねぇ、そろそろ四月一日にも飽きたし」

 前を向いて歩いて居る人達のお手伝いをしたいのは確かだ。しかし、タイミングと言うの非常の大切である。

「あ、あの、それより柴乃さんのことをどうにかしないと。またカードを使って暴れたら大変ですよ」

 ごまかすにはやはり、別の何かに視線を向けさせることである。

「それなら心配いらねぇよ」

 薺は悪魔のカードを取り出して冬治に渡す。

「お前がもっとけ。そうすりゃ、大丈夫だろう」

 これ、俺が所持していたら悪魔になるのは俺じゃないんですかね。そんな視線を受けてか、菖蒲のほうは首をすくめる。

「大丈夫でしょ」

「こ、根拠は?」

「そんなもんに頼っていると、理詰め人間になって思わぬところで足元掬われるぞ」

 納得できそうな理由ではある。菖蒲の方を見るとそっちも頷いて居た。

「大事なのは直観力と空間認識力、引き際をわきまえる能力に物事に当たる際の応用力だから」

「結構、必要な能力ってあるんすね」

 三人で一度、冬治の部屋まで戻ってくると崩壊した玄関の扉をしげしげと眺めている人物がいた。

「あ、柚子先輩」

「ああ、これはこれは。凄いことになっていますねぇ」

 口元を歪め、鳩のように喉を鳴らして笑う化け狐、信田柚子。どこか小馬鹿にした態度が様になっていた。

「何だ、信田か」

 何の感慨も沸いてないと言わんばかりの態度を見せたが、柚子のほうは違ったらしい。すすすっと薺に近づき、その手を握って笑っている。

「薺さんお久しぶりでぇ」

「にぎにぎすんな」

 手をはじかれ、あぁん、ご無体と言うやり取りをしている。

「あの、薺先輩って柚子先輩と面識があるんですか。仲、良さそうですね」

 菖蒲に訊ねると彼女は首を立てに動かした。どこか愉快そうだ。

「なんというか、ライバル? どちらかがそれでこそ私のライバルだって言った言ってないの論争を……ほら、下の相手からそういわれたら自分の品位が下がるって怒る人もいるでしょ」

「なるほど」

 薺と柚子のやり取りが一段落するまで冬治は今後のことを考えていた。

「で、冬治さん。この扉はどうして溶解してるんですか?」

 妖怪はあなたでしょうと言おうとして冬治は首をすくめる。

「悪魔にやられました」

「ほぉ、悪魔。ははぁ、あの柴乃とか言う娘ですね」

 手帳を取り出し、ぱらぱらとめくる。カードの種類と所持者の数は二十名を超えているためにやはり何かしらでの把握が必要なのだろう。

「と、なると誰かがもう襲われているんですね。そして、口では言えないようなやらしい事が繰り広げられたと」

「まだ何も起こってねぇよ。それに、その話はもう終わった」

 薺がそういうと柚子が少し驚いた表情をみせる。

「おや、始まる前に終わっているとは残念です。なんのお力添えも出来ませんでぇ」

 にこりと柚子はほほ笑んだ。

「冬治さんには助けてもらった恩がありますからねぇ。恩は返すもの、すみませんねぇ」

「え? いえいえ、そんな。柚子先輩には助けてもらったじゃないですか。死神を抑えてくれていましたし」

「ですかねぇ、あのぐらいでは。あてでは死神さんと比べられない程……薺さんがお役に立てて、あてが役に立っていないでは、笑われますからねぇ」

 さらりと薺の事を挑発しているようだが、薺は聞こえないふりをしているようだった。

「ところで、冬治さん、カードの把握は進んでいますか」

「ええ、あとは節制と死神、審判、運命の輪です」

「なるほどなるほど。やはり、一番進んでいるのは冬治さんですか。あてが冬治さんのところにやってきたのも、死神が一体誰かなのかを探すためですよ」

「こっちは今から運命の輪を探すことになってるんだよ」

「死神の恐ろしさを知っているあてとしてはですねぇ、死神を優先したいのですが」

「そりゃま、確かにそうだがね」

 薺は黙り込んであたりを見渡し、最終的に冬治を視界に入れる。

「お前が決めろ」

「え、俺ですか」

 俺のルールは俺が決めると言いそうな人物がじろりと冬治を見ていた。

「ああ、そうだ。冬治が決めろ」

「そ、そうですか。わかりました」

 そうは言っても、やはり先輩の意見を聞いておいた方がいいだろう。

「えーと、菖蒲さんは……どうでしょう?」

 ちなみに、菖蒲が言った事を強引に引っ張るつもりである。

「私も死神にやられた口だから十三番目を探したいかな」

 仕返しをしたくてたまりません、非常にいい笑顔で菖蒲は冬治を見ていた。

「皆で運命の輪を探して……その後、死神を探すと言うのは?」

 これが冬治の立てたプランだった。

「はぁ?」

 そして、お前が決めろと言ってくれた人物は眉根を寄せていた。不機嫌そうである。

「じゃ、じゃあ俺は運命の輪を探しますので、他の人が死神を探す。それでどうでしょう」

 死神の戦闘能力はかなり秀でていることだろう。人間はもとより、化け狐の柚子を圧倒していたのだ。多すぎると言うことは無いはずである。

「つまり、冬治はおれと信田で仲良く死神を探せと?」

 十八に成ろうとする女の子二人が仲良く手をつないで死神を探す……あまりにも異質な光景だった。まぁ、悪くはないが。

「絵的には……いいと思いますけど。別行動をとってみればいいんじゃないですかね」

「なるほど、別行動か。そうだな。じゃ、俺はもう行くよ」

「あてもまた、何かありましたら冬治さんに連絡取りますから」

「私も、この子を連れて死神を探すから」

 いつの間にか菖蒲は肩に昌を担いでいた。未だにのびているのか、それともぐっすりと眠ってしまっているのか分からないが意識は無い。ともかく、そのままの状態で使うには囮か、いけにえにしか使えそうに無い。

「気をつけて」

 結局、別行動となってしまったことに気づいた冬治はため息をついた。

「もし、各個撃破で死神が動いていたらまずいんじゃないだろうか」

 それにしては、死神の動きは全くといっていいほどなかった。まだ記憶を取り戻していないのなら、今がチャンスだ。今は自分が下した通りに動くしかない。

「まずは連絡だな。運命の輪のカードを持っている人、誰か見てないかな」

 携帯電話を取り出したところで冬治の電話が鳴り始める。

「芽衣子先生?」

「もしもし? 夢川くん?」

 その声はどこか感情を抑えているようでもあった。ちょうど協力関係にある相手から電話がかかってきたのだから都合はいい。

「はい、夢川ですけど。先生、実は頼みが……」

「今日はどうして、学校に来ていないのかな?」

 冬治が切り出すのを防ぐ形で、静かに怒りを称えていた。

「えーと、それは……」

 馬鹿である。さっさと風邪を引いた、とでも言っておけばいいのだ。

「ちょ、ちょっと寝坊しまして」

「本当に? 嘘だったら承知しないよ」

「う、すみません。えーとですね、カード絡みで」

「たとえ、カード絡みだったとしても、本業は勉強でしょう? 違うの?」

「それはそう、ですけど」

 この人、教師みたいなこと言っているよと冬治はため息をついた。

「今日休んでいる面子、全員カード保持者でしょう?」

「そうかもしれないです。俺には誰が休んでいるのかわからないので」

 ああ、そういえば106号室に昌と柴乃を放置していた。そんな事をようやく思い出した。片方は囮に使用される事だろう。

「ところで芽衣子先生」

「なぁに? お説教なら放課後してあげるからちゃんと家で待っていなさい」

「いえ、説教はいいので。運命の輪って見たことありませんか」

 探すのを手伝ってもらえなくても、見た事があるのなら有益である。

「運命の輪ぁ? 全く、カードの事ばっかりっ。今からそっちに行くから待っていなさい」

 そして、冬治の目論見は外れた。日に油を注ぐ結果となったのだ。

 電話は切られ、冬治はすぐさま逃げる準備を始める。着の身着のまま想ひ出置いて、逃ぐる逃ぐるは際の果て。

「……逃げよう」

「待ちなさい」

「め、芽衣子先生っ」

 逃亡の第一歩を踏みしめたところで小さな巨人が現れた。背後には炎が揺らいでいるようにも見える。

「夢川君? どこに行くつもりかしら?」

「ど、どこにもっ行ってませんっ、お待ちしていただけですっ」

 いつもの少しふざけた調子が消えただけで、芽衣子の姿は教師に見えた。傍から見たら年下から怒られている駄目なお兄さんにしか見えないが。

「タロットカードと、お勉強っ。どっちが大切だと思っているのっ」

 そりゃあ、もちろん、このおかしなタロットカードのほうが今は大切だと思いますけど。忘れているとお思いですが、このカードって俺らの心臓ですよ。何かあったりしたら大変なことになるんじゃないんですかね。それに、ずっと四月一日を繰り返しているわけですから、そろそろどうにかしたいんです。みんなと明日を、迎えたいんです。

 二秒の間にこれだけの言葉が振って沸いた。

 しかし、実際に口に出せるかと聞かれれば答えはノーだ。油を注いだ火には何をかけても燃えあがりそうだった。

「お、お勉強です」

「じゃあ、何故学園にこなかったの?」

「あの、柴乃さんが、悪魔のカードで、その、見た目的に成長してしまいまして」

「え、何それ」

 ころっと悪魔のカードに食いついてくる。

「ちょっと貸して」

 そして、あろう事か冬治が手にしていた悪魔のカードを奪うのだった。

「あ、それは危険なんですってばっ。欲望を吸ってですねっ」

「ふふん、先生を誰だと思っているの。我慢は得意なほうよ」

 そうですよね、体も成長を我慢していますもんね。

 毒づこうとして言葉を飲み込み、冬治は事の成り行きを見守ることにした。先生なら、大丈夫だろう……多分。

「う、ううっ、ああっ」

 切なげな声を出しながら、スーツが破れていく。見ていてなかなか悪くはなかった。

「せ、先生?」

 そして、角と尻尾、柴乃のときよりも立派な翼を持った悪魔がアパートの駐車場に現れた。

「どう? 夢川君。生まれ変わった先生の姿、思わず押し倒したくなるでしょう?」

「あの、俺、芽衣子先生のことを勘違いしていました。我慢、うまく出来ていますね。体、全然成長していませんよ」

「え」

 自身の体を見下ろせばすぐに気づくだろうに。きわどい衣装の割に体は成長を我慢していた。

「ええっ、何これっ」

「柴乃のときと違ってムラムラっともしませんし、凄いです。そんなに露出の高い見た目なのに、ぴくりとも来ません」

 肉付き的におまわりさんがきそうだが、合法である。いや、お外でこんな恰好をしていたらおまわりさんに芽衣子が連れて行かれそうだ。

「夢川君? これさ、単なる辱め以外の何物でもないんじゃないの?」

「えーっと……おそらくは」

「いやーっ、お嫁にもういけないっ」

「ちょっ、先生っこんなところで叫ばないで下さいよっ。とりあえず、俺の部屋で着替えましょう? ね?」

 後ろから抱きかかえるようにして冬治は106号室の中へと逃げ込もうとする。

「じーっ」

「はっ。早苗先輩っ」

 刑死者のカードを持つ早苗が冬治たちのことを興味深そうに見ていた。

「み、見世物じゃないぞこらぁっ」

「ああっ、罵られた。冬治君、もっと罵って」

 縛られた状態で早苗が部屋の端から寄ってくる。扉を閉めようにも、どっかの悪魔が溶断しているので閉められない。

「到着ぅ」

「ああっ、間に合わなかったっ」

「ちょ、ちょっと夢川君っ、そんなに強く胸揉まないでよっ」

「え、これ、胸だったんですか? お腹だと思ってたんですけど……すみません」

「がーん……」

「口で言う人、久しぶりに見たかも」

 悪魔のコスプレをしているようにしか見えない女教師と、傍から見るとその人物を後ろから抱きしめている男子生徒、そして、縛られている女子生徒……変態トリオの誕生といっても過言ではない。

「ふあああっ、良く寝たー……」

「げ、柴乃さん」

「ん? 冬治君、何やって……」

「これはね、違うんだ。これはそのっ」

「さいってー」

 その後、すぐさま冬治の頬はぶたれたのであった。春だと言うのに、冬治の頬には立派な紅葉が見受けられた。冬治はこれを学園をサボった罰だと思い込む。サボりはいけないと、心に刻み込むのだった。


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