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第二話:二日目の4/1

でででででででででで……。

 騒々しく鳴り始めたアラーム機能付きの携帯電話。今では珍しい二つ折りタイプだ。取り出すたびに彼の二つ折りを見た友達はスマホに換えないのと訊ねていた。ただ、妙に肌になじむ為、壊れるまで使い続けると決めている。

「……うるさいな」

 瞼を開け、殆ど手探り状態で携帯電話に手を伸ばすとアラームを止める。

 その後、今日は何日だったかと眠たい目をこすりながらディスプレイを確認した。少し肌寒い四月の空気だ。

「今日は四月、一日か」

 自分で呟いた後、冬治は首をかしげた。

「は? 今日は四月二日だろ」

 四月一日の思い出を手繰り寄せる。すぐに女学園に言っていることを思い出した。しかし、それは残念ながらすぐさま証明できない。

「そうだ、カード」

 近くのテーブルに置いて居た死神のタロットカードをつまみ上げ、髑髏と朝のご対面を果たす。

「これをもらったのが、四月一日だから……あれか、そろそろガラケーもお釈迦の時がやってきたという事かね」

 スマホかぁ……バイトでも始めるかね、冬治はそう呟きながら身体を起こして、朝食の準備を始めるのだった。

 七時を過ぎた時点で、テレビの内容に首をかしげる。

「……四月、一日?」

 これまた、首をかしげる。

「これはあれか。夢オチって奴か。今見ているのは全部夢か。思えば、タロットカードをもらうなんて変だもんな。しかも、一枚だけだし。死神だし」

 死神が一体、どんな道を案じているのか冬治は其処まで詳しくないのでわからない。だが、あまりいいカードではないのは容易に想像できた。

「カードはともかく、四月一日がまたやってきたっていうのは今のところ本当みたいだな……信じたくないけど」

 昨日に比べて、三十分ほど早い時間帯だ。冬治はシンクに使っていた茶碗を洗い終える。早めに寝たのが良かったらしい。

「さてと、後のことは帰って来てからだな」

 そう言うと鞄を掴んで玄関へと向かった。再度、四月一日がやってきたからといって玄関のどこかが変わっていることはない。整頓されている玄関は、きっと冬治に運気を運んできてくれることだろう。

「おはよう、ございます」

「お、おはようございます」

 106号室を出ると、声をかけられた。昨日もこんなことがあったような気がする。ただ、違うのは声だった。あからさまな女性の声だ。

「ぼうっとされているようですが、大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。絶好調です」

 その先に居たのは笑うとかわいい、白い服装の女性だった。

「今、貴方はとても困惑されている事でしょう」

「それなりに」

「おそらく、変なことに巻き込まれたなと考えていますね?」

「あ、はい」

 本当は、うわ、この姉ちゃんおっぱいでかいねぇ……と、考えていたりする。勿論、内緒だ。男なんて、顔を先に見るか、胸を先に見るかのどっちかなのだ。もしくは尻だろう。

「貴方に、カードを授けましょう。このカードはとても大切な、カードです。貴方の心臓をカードにしたもの。絶対に、無くさないで下さいね」

 伏せられた状態で冬治に一枚のカードを引かせようとする。この強引さ、デジャヴって奴だと冬治はため息をつく。

「手前、奥、好きな方から引いてください」

「え? あの、俺、昨日カードを……」

 既に引いています。そう言おうとしたところで第三者の声が聞こえてきた。

「おはようっ、交換生くんっ」

「えっと?」

 後ろを振り返る。

 ぼさぼさの髪の毛を後ろで束ねた少女が立っていた。

「朝の挨拶は基本でしょ」

「あ、うん。おはよう」

 こいつは間違いなく、低血圧じゃない。プラスかマイナスかと言われればプラスで、陰か陽かで聞かれれば間違いなく陽……そんな存在だろう。

 そういえばこういう人がいたな。というか、席がかなり近かった。右隣か左隣かそこらへんである。

「確か、七色……柴乃さん?」

「柴乃でいいよ。同級生だし、隣の席だし。一週間の短い時間だけどね」

 柴乃はそう言うと冬治の後ろにいるはずの女性をちらりと一瞥する。

「君もそうなんだねぇ」

「は? 何がですか」

 首をかしげる。先ほどの女性のことを思い出して振り向いてみたが、既にそこにいなかった。

「どういう事?」

「どういう事も何も、タロットカードでしょ。貴方の心臓をカードにしたとかいうふざけた言葉を残して去って行くんだってば。その人が言うには、カードを全部集めないといけないってさ」

「は、はぁ」

 さっきからわけのわからない事ばかりを言われている気がしてならない。

「それで、君は何のカードをもらったの?」

 さっきの女性からカードなんて受け取っていない。カードを引かせたのは名前も覚えていない生徒会長だ。冬治は迷った挙句、昨日もらったカードを見せる。

「これなんだけど」

「……死神。これってさ……せいいち?」

「せいいちじゃないよ。俺の名前は夢川冬治だよ」

 そう言うと冬治は何故だか睨まれた。

「あーっと……骸骨の頭はどっちを向いてた?」

「そりゃ、上を向いた状態だったよ」

「そ、そっか、まぁ、頑張りなよ」

「ということはあんたも何かカードをもらったんだろう?」

 冬治の言葉に、女子生徒はうめいた。

「ま、まぁ、そうだけどさ。死神にカードは見せたくないな。何されるか分からないし」

「自分は見たのに? 何だか不公平じゃないかな」

「う……しょうがない」

 懐からカードを取り出して冬治に渡す。

「悪魔?」

 カードに描かれていた物は剣の刃を直に持ち、羊なのに鋭利な牙や二人の人間を従えた黒い何かだった。

 理解のできない代物とでも言えばいいだろうか。子どもが怯える事間違いのない、みているだけで不安になりそうなカードだった。

「まだ、これなら俺のカードの方がましだなぁ」

 何せ、単なる骸骨が鎌を持っているカードだ。

「そういえば心臓をなんとかこうたらって言っていたけどさ、心臓をカードにしたら超危ないんじゃないの? どうにでもできるし」

 カードの始末なんてちょろい。着火。水に浸す。シュレッダーに突っ込む。尻を拭く。お尻をぬぐって水に流せば完璧だろう。まるで悪い点数のテストを消す小学生のようだが。

「そうでもないよ。そのカード、火であぶってみたけど燃えなかったし、渾身の力を込めても破れなかった。なんでも、人間がどんなに頑張ってもどうしようも出来ないカードだってさ」

「ふーん? 本当かな。試してみよっと」

 冬治は鋏をポケットから取り出すとカードを切断しようとしてみる。

「待った」

「え、何しても大丈夫なんでしょ?」

 像が踏もうと、ミサイルが直撃しようと問題ないんでしょう? そう言いたげな視線を向けるが、柴乃は困ったような表情をするだけだ。そして、言っていいかどうか悩んだ表情を柴乃は見せる。

「教えてくれないと、切っちゃうよ」

 しかし、冬治が再度、鋏でカードを切ろうとしたところを止めるため、口を開いた。

「あのね、噂と言うか、ちょっと聞いたんだけど……それに見合った力を手に入れられるんだって」

「ははぁ、特殊能力ね。中学生の頃は憧れていたよ」

 右目が疼くとか、そんな感じかねと軽く首をすくめるとため息をつかれる。

「一言で言うのなら、信じられないね。やっぱり、実際に見てみないことにはさ」

 小ばかにしている冬治とは対照的に、柴乃の表情は真剣になった。

「四月一日が二日目、理解できる? 私の事を、頭がおかしい人だと思う? あなたにとっての、四月一日は今日ですか、昨日ですか?」

「えっと……二回目、だと思う」

 冬治が認めたところでほっと胸をなでおろした。

「よかった、おかしいのは私だけじゃなかった」

「俺は別に、おかしくないよ」

 やはり、このカードが原因なのだろう。

 冬治の脳内に先ほど、胸の大きい女性が現れる。冬治にカードを渡したのは、以前の学園の生徒会長だ。ただ、既に忘れ去られていた。興味のないことやどうでもいいことは頭に残らない。そこまで冬治の脳内要領は多くないのだ。

「なんで、また四月一日なんだろう」

 既に死神のカードを引かせた男は存在を忘れ去られている。

「それはさ、おそらく、運命の輪を持っている人が能力を使ったと思うんだ」

「運命の輪?」

 冬治は首をひねった。捻った程度で、答えが出てくるわけもなかったが。

「詳しくは学園で話すよ。さ、行こう」

 悪魔のカードを柴乃に返し、冬治は柴乃と並んで歩き出す。カードのことはさておいて、昨日と違っていい日になりそうだった。


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