表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/40

第一話:4/1

 夢川冬治は今日から約一週間、私立羽津女学園に交換生徒として過ごす。数年後、この女学園は共学になる予定だそうだ。男子学生を受け入れる際、どう言った事が不便であるのか、どのような施設が足りないのか、テストケースとなるらしい。

 校舎の一部も老朽化が進んでいるため、新しい校舎に変わるだろう。その時は男女の生徒や、変な話の舞台として使用されるはずだ。

 交換生制度の期間は、四月一日から七日までだ。羽津学園の生徒は期間後、元の羽津学園へと戻る。彼らに対して何か特別なことが行われるわけでもない。特別、何かが得られるわけでもないと教師から話を聞かされていた。ただ、絶対に変なことをやらかすなとお達しが来ている。清く正しい、学園生活を。それが今回のスローガンだ。

 周りの男子から羨ましがられる女学園内部調査(一部男子の呼称である)。そのメンバーはどういう選考がされたのか、詳細は不明だ。ただ、冬治の知り合いは一人もいなかった。冬治以外の男子生徒は女学園側と親交のある生徒が多い。羽津女学園関係者の息子、共同行事の際に協力した品行方正な生徒とのこと。

 そこら辺と繋がりのない冬治にとって多少疎外感あふれるメンバーかもしれない。とりあえず、普通っぽい無難な生徒も入れちゃうか……そんな感じで決められたのであろう。真実は不明だが、冬治はそう考えている。

「よし……」

 学園の準備を終え、冬治は古ぼけたアパートの一室を出る。郵便受けに何かが入っているような気がした。まぁ、帰って確認すればいいだろう。何せ、茶碗もシンクにつけっぱなしで余裕が無いのだ。

 朝、余裕を持って行動する秘訣は寝る前の準備である。何かの言葉を思い出したものの、納得できても行動に移せていなかった。ま、明日から頑張ればいいよねと言うのが冬治の考えである。

 冬治は明日からの成長を願い、扉を開ける。そこには人の気配があった。

「おはようございます」

「おはよう、ございます」

 突然の挨拶に驚きながら、冬治は声を発した相手を見た。

「夢川冬治君、ちゃんと眠れたかな?」

「あ、生徒会長」

 これまで冬治が通っていた学園の生徒会長だった。クールな印象を受ける人物で、話しているところをあまり見た事が無い。基本的に副生徒会長が仕切っているため、彼が表舞台に出てくることはあまり無かった。そのため、名前も今一つ覚えていない。女子に人気はあるが、男子からは微妙である。

 それで生徒会長が務まるのかと言えば、リコールが起こっていないので問題ないのだろう。

「タロットカードを知っているかい?」

「タロットカード?」

 冬治は首をかしげた。聞いたことはあるが、どういったものかは良く知らない。ふと、頭の中に人参が現れる。自分の寒い頭へ、それはキャロットだと突っ込んだ。

「まぁ、知らなければ調べるといい。これから、僕の……いいや、君の、未来を暗示してくれる。このカードはきみ自身と言っていい。君がストップと言うまでシャッフルし続ける」

 生徒会長は束ねられたカードのシャッフルを始める。時折、前後を逆にしながらシャッフルをする。

「うーんと」

 中々見ほれるようなカード捌きであった。この人、カードをぶちまけたりはしないのかな。かすかな期待をこめて見続ける事、九分。生徒会長の我慢が限界に近付きそうだった。

 さっさと、止めろ愚図野郎っ……鋭い眼光が冬治を射抜いた。

「す、ストップ」

 慌てて静止をかける。目の前にはよく混ぜられたカードがあった。

「さ、ひきたまえ」

「わかりました」

 カードに手を伸ばす瞬間、冬治の頭の中に旅する男と、犬が見えた……ような気がした。

「どうした?」

「いえ、何でも……じゃ、引きます。俺のターン、ドロ……」

「黙って引きたまえ」

「はいっ、すみません」

 カードから、変な鼓動を感じる。まるで、自分の心臓と呼応しているかのようだった。

「あのぅ、一番下とか引いても大丈夫ですか?」

 こんな冗談にも怒るのだろうな。そう思って生徒会長を見た。

「好きなようにするといい。どこを引いても、君が引いたのだからそれが全てだ」

 意外にも穏やかだった。早速下から七番目辺りに手を伸ばそうとする。

「ただ、カードをぶちまけたら覚悟をしてもらう」

 結局、冬治は一番上のカードを引いた。

「このカードは……」

 引いたカードには髑髏が鎌を持って笑っていた。

「……死神?」

「死神の正位置か。君の役目は決まった。そのカードは君の心臓で、一枚で数百万するカードだ。無くしたり、誰かに取られたりするんじゃないぞ」

「どういう……」

 カードを見ていた冬治は更に説明を求めようとした。だが、顔をあげた先に生徒会長の姿はなかった。あるのはさびれたアパートの廊下だったりする。

「全く、何なんだろう」

 冬治は不吉そうな骸骨を眺めるとため息をついて、羽津女学園へと向かうであった。

 その日一日、冬治はあまりいい気分ではなかった。慣れない場所での勉強が原因だと思われる。今日はおとなしく家に帰って明日から頑張ろう。

 特筆することなく、たったそれだけで四月一日は終わってしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ