ある青年の焦燥
父が珍しく声を荒げていた。
そして最後には了承してうなだれていた。父のそんな姿をみたのは初めてで。
電話相手は誰か謎だった。
おじさんたちやおばさん、ではきっとないだろうな、とどこかで思っていた。
夕食の時、父がおもむろに口を開いた内容は父の母、僕にとって祖母となる人物のことであった。
祖母は少しばかり旅行に行くらしく連絡はつかなくなること。長年の夢としての世界一周一人旅をするらしくいつ連絡がつくようになるかは不明だということであった。
祖母に関して覚えていることは少ない。
父や母の言葉を信じるのなら相当アクティブな人だということである。あと毎年誕生日とクリスマスにプレゼントがくる。毎年センスがいいものなのでありがたみだけでなく嬉しさもある。
かなり年の離れた妹たちは祖母に会ったことがないので本物のサンタクロースだと思っている。
僕は、小さい頃にお菓子をくれてにこにこ笑っていた祖母のイメージしかない。しわしわの手は苦労を感じさせて、それでも笑顔で接してくれていた祖母。
すごく、好きだった気がする。
というのも僕が幼い頃からどういうわけか祖母との交流がなくなったのである。
優しく温かくしっかりとした人だった気がする。
ぼんやりとしか浮かばない祖母。
顔や声は曖昧でこんな感じだっただろうか、という気持ちしかわかない。ただ、それだけが僕に確かに祖母がいたのだという自信を与えていた。
まだ幼い妹たちの面倒を見るためにある人が雇われた。僕は大学と父の会社でのバイト、これはコネだがしっかり仕事をしている、とで顔をあわせることはないだろうな、と思っていた。
妹たちがかなり懐いているその人は祖母にどこか似ていた。
知ったことがある。
祖母の消息不明という名前の世界一周一人旅は誰か影響を与えたのじゃないかと思った。
もう僕も成人しているから、調べる力くらいある。世界で使えるインターネットの検索機能に祖母の名前をいれてみると、信じられないことがあった。
一人旅なんかじゃないじゃないか。
世界一周旅行なんかじゃないじゃないか。
父は、嘘をついていたのか。
帰って父に尋ねた。
祖母は、人を殺めたのか、と。
父は項垂れた。
そして、わからない、と答えた。信じたくはない。けど、祖母はそういうのだと。
そして僕は日本に渡った。祖母の事件の関係者に話を聞いた。
名前を伏せて、あるときにはあんたと飲みに行き、あるときにはあの御曹司の話を聞いて。ってここはあんたも一緒だったな。
わからない。
祖母が殺してしまうほどの人物だったのか。僕たち家族を捨てれるほどなのか、わからない。わからないんだ。
帰らないといけない期日は迫っている。
なぁ教えてくれよ。
あんたならわかるだろ?僕にはわからないんだ。
あと二話です。
最後までお付き合いいただいたら嬉しいです。