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ある老婆の独白

さてどこから話そうか。



まず、あの子は可哀想な子だった。


はじめて会ったのはあの子がまだ小学校にあがる前だったかな。

その時息子たちが私の面倒を見るのが嫌だと喧嘩をして、ひとりきりになっていたときだった。


孫と近い年の女の子なのにぴくりとも動かない表情が気になってね。唇を噛み締めてなくもんか、としていたあの子に声をかけたのがはじまりだったんだ。



「金平糖いるかい?1人で食べるのはさみしくてねぇ。よかったらばぁちゃんの相手をしてくれよ」



集合場所はミチノコウエンの1番奥。

楓の木の下においてある古びた切り株みたいな椅子。



あの子はたまに来るようになった。

1ヶ月に数回。

なきそうな顔を堪えてきた。


私は毎日そこに行った。ポケットには金平糖をいれていたよ。

いつあの子がきてもいいように待っていたんだ。

なんでそこまでしたのかって?……なんでだろうね。私にもわからないよ。




あの子はほら、有名な、そうそう、あの財閥に仕えている家の子らしくてね。

不運なことに跡取りと年が近かったんだ。

他に近い年齢の子がいなかったこともあって付き人になったのはまだ4歳のころだったらしい。出会うちょっと前だね。



いったい、大人は4歳の女の子に何を求めたんだろうね。

最初笑うこともなかったんだよ。笑ったらいけないとおもっていたみたいでね。私はあまりにそれが悲しかった。



いつも何をしているんだい?


と聞いたらあの子は少し思案して


大人の男の人たちに負けないようにくんれんしてる。

ぼっちゃまになにかあったらぼっちゃまを逃がす時間をつくるんだって。


と淡々と答えたんだ。


あんたは逃げないのかい?


そのときにはわたし、しぬときだって。


まだ幼い子供がそう言ったのだ。なんと衝撃的だったろうか。わかるかい?あんたは。私なんてもうこんなに生きてあとは死ぬだけだっていうのに誰かのために命を散らしたくなんてないね。自分だけのものじゃないか、とあの子に言ったところであの子は首を傾げるだけだっただろうけどね。



小学校にあがったあの子はさらに忙しくなったようであった。

それでも少なくとも月に一回はあっていた。どうやって抜け出しているのかとかそういうことは考えていなかった私も馬鹿だなと今では思うよ。



あれは、なに。

これは。


あまり変化のない表情でも瞳には好奇心が疼いていてね。あの子は金平糖を食べながらいろんなことを聞いたよ。


基本的なことから難しいことまで。


私もあの子に会えない時間は勉強をしなおしたよ。聞ききれないまま帰してしまうのが忍びなくてね。二冊のノートを買って使うことにしたんだ。

質問ノートだね。

会えない間の疑問を書いたノートを一冊を私が預かる。その間にもう一冊のノートに疑問を書く。そんなことを繰り返したんだ。




そのノート?

あぁ、全部もうないよ。



そのうち交換日記みたいになってね。小学生にしてはやけに綺麗な字だったのを覚えているよ。



あの子が中学に上がる前にぽつりと言ったのだ。


好きってなに?


それが最初のSOSだと、気づかなかった私はバカだと思うよ。長く生きていてもそれだけなんだと思ってしまったよ。



御曹司のぼっちゃんは温室育ちの男でね。遠目から見ても苦労の知らなそうな顔をしていたんだよ。

若い人のいう、いけ、いけ。なんだっけ?いけつら?あぁ、そう、それいけめんってやつでね。

女の嫉妬は怖いね。矛先が付き人だからしょうがなく一緒にいるあの子に向かったのだよ。



まぁ、その他にもいろいろあったらしいけどね。あの子から聞いたことしか知らないよ。


え。調べなかったのかって。

そうだねぇ。調べたらすぐにわかっていただろうけどね。多分あの子はそれを望まないから調べなかったよ。知られたくなかったみたいだったから、知らないふりをしてたんだ。




それでね。

あの子が高校の時、言われたんだ。


御曹司の夜の相手をしろ、と。

あの子はそれを当たり前のように受け入れた。その中で妊娠して、中絶をしたことがあってね。その時に私はそのことを知ったよ。


その時、はじめてあの子の涙をみたんだ。


ころしてしまった、と泣くあの子が不憫でならなかった。


そして高校卒業前にね、あの子は御曹司の愛人になるように言われたんだ。拒否権?そんなのなかったろうね。

幼い頃から言われたことをこなしてきて。そこに選択の余地はなくて。すべて言いなりになっていたんだ。選択するってことがきっとわからないんだ。可哀想な子だろう?



私はそれを聞いた時、怒りでどうにかなりそうだったね。

だから言ったんだ。


逃げてみないかい?

って

そしたらあの子は首を振った。

にげれないよ

って。



ほら、あの財閥はご存知の通り日本でも屈指の財閥だ。逃げることが難しいのは当たり前のことだったんだね。それでもあの子に自由になってほしかった。


だから死のうと思うの。

そう言ったあの子。



おや、何を驚いているんだい?これが聞きたかったくせに。


1人で死ぬのは怖いから死ぬまでそばにいて。


そう言ったあの子にだめだよ、なんて言えなかった。私がかわってやりたいくらい楽しみのない人生で、きっと諦めたのだろうね。あの子の苦しみを全部私が受け止められればいいのに、と思ったよ。



でもやっぱり怖いのかなかなか死ねないあの子。


もう今日は帰って今度にしようか、と言ったんだ。

少しでも生きて欲しかったんだ。

勝手だけどね。私はあの子のことが好きだったからね。生きてほしかった。今度になればこんなことなかったことになるんじゃないかってバカみたいに期待もしてたよ。



あの子はもう2度と、帰らない、と言った。


今日の夜から付き人ではなく愛人としてだかれる。

そしてきっと妊娠と中絶を繰り返す。そんなの嫌だ。もうだかれたくなどない。



叫ぶように言うあの子に泣きたくなったんだ。


だから私が言った。


なら、ばぁちゃんがやってあげるよ

って。


私がかわりになるくらいに生きてほしかったけども。あの子はそれをのぞまなかったから。



話疲れたね。水をくれないかい?

え?続き?あとは知っての通りだよ。

これが真相だよ。

あんたはどう思う。


洗脳とまでに子どもを駒のように育てるんだ。ひどい話じゃないか。



あぁ。どうせ財閥のことを言ったところで消されるのだろう?



だからどうか死にかけの老婆の独り言として聞き流しておくれ。話したかっただけだからね。


願い?そうだね。あの子の満面の笑顔がみたかったねぇ。




きっとかわいかっただろうに。


全7話予定。


次話は御曹司の話。

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