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戦國鬼神伝  作者: 淡路
道ノ巻
61/64

しがらみ


「いや、心配をおかけしましたな!」


眩しいほどの笑顔で頭を掻く家康さんに、俺達は固まるしかなかった。

めちゃくちゃ無事じゃねえか!!!!

……っていうツッコミは一応口にするのは留めておいた。


「めちゃくちゃ無事じゃねえか狸ジジイーー!!!!」


あれ!?俺口にするのは留めて……!?

と、俺じゃなくて甲高い怒声で万千代が華麗な飛び蹴りを家康さんの顔面に向かって食らわす寸前だった!

万千代、徳川三傑なんだよな?家康さんの近臣ってやつなんだよな!?

しかし万千代の足は家康さんの顔面には当たらず、家康さんは笑顔のまま躱し、万千代が勢い余って顔面から地へダイブ。そこへすかさず忠勝と小平太さんが万千代を挟んで2人とも正座をして頭を下げる。万千代の頭を無理矢理下げさせる小平太さんの手の甲には青筋が見える。家康さんは何故か嬉しそうだ。


「ご無礼を致しました、殿。厳しく言いつけておきますので……」

「まだまだですね、万千代」


……どこもお家芸を持ってるのか、戦国時代は……?

半蔵といえば、家康さんの後ろでハナクソほじってる。安土から来た置いてけぼりの俺達は自然と白い目で徳川家を見始める。

その辺で気づいたのか、家康さんが我に返ったように咳払いをし、真剣な表情へ切り替わる。


「織田前右府殿。わざわざの御足労、誠に忝う存じまする」

「何、かつての同盟者の危機ならば俺もじっとしている訳には行かんと思ったまで。それに挑発されて喧嘩を買わぬ訳にも行くまい」


深々と信長に礼をしたあと、家康さんは微笑んで状況を説明してくれた。


「駿府城は現在瀬名が籠城しています。私はここへの道中、薬を盛られたのか意識が戻った時には城内に。三日程何故か天守に幽閉されていたんですが思い切って覇術を使って脱出してみました」


ハリウッド並みのダイナミック脱出の成功を喜んでいるらしく、ドッキリ大成功した子供のような笑顔の家康さん。うーん、徳川家も殿様が家臣の胃を痛めている様子……控えている4人はみんな顔面蒼白だ。


「冗談はさておき、瀬名は……あれは鬼術の力が暴走しかけているのです。私は瀬名が続けていた研究について知っているのは以前岡崎で知った結果だけ……瀬名が研究の末に何へ行き着いたのか詳しくは分かりませんが、研究中何らかの要因で力が暴走したのは確かです」

「それは、いつの岡崎だ?」


家康さんの説明に、信長が問いかける。急に質問をされたせいか家康さんは質問の意味が分かっていないようだった。信長は鋭い眼光で家康さんを一瞥したが、それを素通りして駿府城内へ向かった。織田家の人達はすぐに信長に付いて行き、徳川家の人達もお互い顔を見合わせるも歩み始めた家康さんに付いていった。蘭丸に遅いと催促されたので俺も慌てて家康さんを通り越して信長の元へ走っていったが、その瞬間、俺は家康さんの厳しい顔つきを目にした。

その表情は今見たことのない、信長とはまた違う畏れというものを俺は感じた。


駿府城内二の丸まで入ると、俺達はさすがに敵兵に囲まれた。

まず信長が愛銃『炎羅』で1発威嚇をした。一度は怯んだが敵兵は俺達に向かってくるが、今回ばかりは武勇に優れた戦国武将ばかりなので戦いは勝敗が決まるのに時間はかからなかった。俺も少し応戦したが、一度だけヘマをして左頬にかすり傷を負ってしまった。それに気づいたのか、江が布を手に持って乱暴に血を拭いてくれた。


「あんたが一番軽装備なんだから、気をつけなさい」

「……うっす」


江は最近大人になったというか、以前政宗と旅した時より随分強くなったというか……うまく言えないが、勝てない。だんだん信長に雰囲気が似てるような……


「瀬名!」


家康さんの声で俺達もそちらへ振り向く。目の前には禍々しい気を連れて瀬名姫がこちらへ歩んでくる姿があった。

その目は赤く光を浴びており、息苦しそうなのが遠い距離でも分かった。


「嗚呼、ごめんなさい愛する人!私は貴方よりも鬼に近くなってしまった……!」


金切り声にも聞こえる悲痛な声は瀬名姫の心の叫びだと分かる。家康さんの前に三傑と、背後に半蔵が立つ。

瀬名姫が膝を地につけた瞬間、俺達の足元は赤く染まった。俺は一瞬血だと勘違いして足がすくんだが、すぐに見覚えのある花であることに気がついた。薄緑の茎に付いた赤いいくつもの細い花弁と、その中央から空へと伸びる糸達。


「曼珠沙華……」


家康さんがぽつりと呟いた。その花の名前に聞き覚えは無かったが、現代で言う彼岸花だと、すぐに思い出した。なんで俺が花の名前なんかを覚えてるのかは、謎だけど。


「元康、元康!お前にこの曼珠沙華はどう見える?」


瀬名姫の不気味な声が頭の中に鳴り響く。いつのまにか、俺は真っ暗闇の、彼岸花畑の中で1人立っていた。徳川家の人達も、蘭丸や江、犬千代も、信長も見当たらない。

声をあげようとしたが、声が出ない事に全身の血の気が引く感じがした。


「元康、次郎三郎、次郎三郎!」


低く力強いが、凛として頭に残る声だ。声が聞こえた次の瞬間、ざあっと雲のように暗闇が晴れた。しかし空は雲が多くて重たいままだ。

正面に視線を戻すと、そこは目を疑うような景色。丸の中に『ニ』の字が描かれた家紋や足がたくさん生えたようなちょっと可愛い家紋が染め抜かれた軍旗ばかり。そこらじゅうに人、人、人。馬も多く見える。

怒号が聞こえたり、馬の嗎で声が掻き消されたり。


そこはまさに本物の戦場だった。


いや、戦場というよりはその前の陣を構えているという感じだろう。忙しさはあるものの、人はまだ余裕が見えるし、何より武器を構えてない。

あの家紋は確か……『足利二引両』だったか?今川の家紋だったはず。じゃあここは今川軍の陣……


「明日の夜にでも兵糧を大高に運ぶ。進軍の準備を進めよ」


さっき聞こえた家康さんを呼ぶ力強い声だ。咄嗟にその声の後ろの木陰に隠れたせいで顔はよく見えない。

そっと顔を出してみると、そこには見慣れた顔が。


『家康さん!?』


声が出た!あれ、もしかしてあちら側には聞こえてないのか?今結構大きな声出たから俺の存在がバレたと思ったんだが周りは見向きもしない。思わずホッとした。

そして俺の目に入ってきたのは今より少し幼い感じの家康さんだ。見た目からして俺と同じか少し上ぐらいの年齢か。てか、そんな年齢から戦場に出てるんだな……

ん?家康さんって今川軍なのか?なんで!?信長と同盟組んでるんじゃねーの!?あーくそ、ちゃんと日本史聞いていればよかったぜ!


「織田の様子は?」

「清洲から出陣の様子はありませぬ。籠城かと思われます」


情報伝えてる感じからして、完全に織田の敵じゃねえか!ていうか、今川と戦うのって織田なのか!確かに見る限りの兵数からしても今川の力が強大な事は俺でも分かる。目に入るだけでも5000人はいるんじゃないか……?


「織田の小倅は正真正銘うつけであったか。はは、我が軍としては助かるもの!それでは元康、首尾良く頼む。武運を祈るぞ、我が息子よ」

「はっ、有り難きお言葉。太守様への御恩をお返し致すべく邁進して参ります」


どうする、完全に織田の敵って感じじゃん!?織田に知らせたいけど……ここがどこかも分からねーし!ポロっと口にしてくれねーかな……


「我が軍は一度桶狭間の山に陣を構える。織田の砦はお前に任せる」

「……御意」


……桶狭間!俺はその単語が聞こえた瞬間、何も頭に入ってこなかった。

そうか、これはあの桶狭間の戦いの合戦前なのか!


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