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戦國鬼神伝  作者: 淡路
道ノ巻
55/64

盛者必衰の理


俺が家康さん達と三河諸国から安土へ往復して既に何ヶ月かが経ち、もう十二月だ。


やっぱり公共交通機関とか車が無いと時間が経つのが早い。移動時間が月単位がほぼだからな……


色々準備をして俺達は大坂、伏見城へ向かった。冬だからか、やっぱり雪が積もってる。



「開門!」


伏見城の大きな門が開き、俺達は豊臣秀吉の居城へと足を運んだ。

中々豪華で、ちょっと目が落ち着かない。

家康さんは前髪を上げていつもより少し服装も正装って感じに整えてる。俺も怖くなって一応ブレザーのジャケットを着てみた。

因みにねねさんも一緒だ。まあ確かに秀吉の正室だし、そう何日も敵方にいちゃダメだよな。

ねねさんは女中に連れて行かれた。女中とかには結構心配されてるみたいで良かった。


それと俺の背後にはなんとも緊張感の無い長身の赤毛の男……犬千代基い、前田利家がついている。

頭の後ろで手を組んでいる。性別戻ってもこんなんかよ……そして細いのに背高すぎ。絶対180はある。イケメン過ぎ。こんなんチートだ、平成行ったら絶対モテるじゃねぇか。


「今日は樹が小さく見えるなあ!」


わははと笑う犬千代。……お、俺だって身体測定の時測って173は固い男だぞ!

お気楽な犬千代を家康さんが嗜めると、案内されたのは簾の前。人影が見える。


「誰ぞ」


その声にハッとした。何だか聞き覚えのある声だ。家康さんが胡座をかいて両膝の側に拳を置いて頭を下げた。これ時代劇とかでよく見るやつだ。


「江戸城が城主、五大老・徳川内府(だいふ)、太閤殿下直々に書状を賜り、恐悦至極に御座りまする。して、太閤殿下のご容態が優れぬご様子とお聞きし参上仕りましてごさいます」


時代劇でよく見る挨拶を家康さんがした後に犬千代も続く。


「前田越中少将。太閤殿下、お久しゅうございます。ここ最近我が領地が忙しのう御座いました為に拝顔も叶わず、申し訳ありませぬ」


家康さんと同じ姿勢になって低く頭を下げた犬千代……利家は、すげぇ頭よさそうに見えた。

俺はというと、ちょっと後ろの方で正座してた。ここは、胡座の方がいいのか?……空気を読んで⁉︎


「よい、面をあげよ。……その方、(うぬ)が七星樹であろう」


簾の後ろから声が聞こえた。突然俺の名前を呼ばれて少し驚いた。


「その身なり……まるで南蛮人のようじゃ。面白い……儂は汝に会いたかったのじゃ」


え?豊臣秀吉が、俺に?

パチン、と音がした。その途端、どこからか隙間風が吹いてきた。もう春だというのに、冷たい。


「いかん!」


家康さんが声を張り上げ、その瞬間に利家がその簾に飛びかかって引き裂いた。

俺達の体を掠めて冷たい風が室内に吹き荒れた。


その風の影から出てきた脚に利家は気付くのが遅かったらしく、腹を蹴飛ばされて俺の横に倒れた。

俺は左手に脇差を構えて右手で利家を揺さぶった。すぐに利家は咳き込み、腹をさすりながら上体を起こした。

その人物に風が集まり、パンと音を鳴らして風が止んだ時、そこにいた男に俺は驚きを隠せなかった。


そこにいたのは、いつか岐阜城で信長を攫っていったあの男だったからだ。


「クックク……ふふ、会いたかったぞ七星樹!儂が豊臣太師秀吉!汝と一度話をしてみたいた思うておった……!」


微笑む秀吉に急に怒りが込み上げてきた。歯を食いしばって、奥歯が軋む。


「俺も会いたかったぜ……豊臣秀吉……‼︎」


俺達の周りを豊臣軍の兵士が囲む。けど、家康さんと利家がバンバン薙ぎ倒していってる。俺は秀吉と対峙して、ギロリと睨んだ。


「信長はどこだ!」

「それよりも、儂と話をせぬか樹よ。少々大事な話をな」

「こんな所で、こんな状況でか⁉︎お前頭どうかしてんじゃねぇのか‼︎」


おれが怒鳴っても秀吉はケロリとしてる。くっそ……ムカつく!こうしているうちにも信長が……!


「信長様に危害は加えておらぬ。ただ今は儂の兵に任せてこの城の何処かに幽閉させておるがな」


この城のどこか⁉︎くそ、範囲が広過ぎる!兵士共もうろついてるし、ここから正面突破してしらみ潰しに探ることは無理だ!


「早うせぬと……汝等の誰かが死ぬやもしれぬぞ?ふふ……」


白地に赤の装飾が施された派手な陣羽織をはためかせ、秀吉の周りに黒く冷たい風が集まる。

秀吉の手にはいつの間にか扇があった。それを軸にして風が集まっているようだ。扇は何も描かれておらず、真っ白だった。

あれ、俺……あの扇どこかで……?


「暗舞・『鎌鼬』!」


その時、扇から半円状の風が一陣刃となって家康さん達めがけて吹いた。

それに気づいたのか、家康さんと利家が間一髪避けたのが見えた。


「さすがは我が誇りの『五大老』……その中でも汝等は鬼術で人を超えた力を持ち合わせておる」

「貴方の目的は何です、太閤殿下‼︎」


兵士からの攻撃を避けつつ家康さんが怒鳴った。こんなに怒った家康さんを見たのは初めてかもしれない。


多分、この兵士達全員鬼術を使って不死になってる。致命傷だろって所を刺されてもすぐ治る。まるでゾンビだ。

秀吉の目的は俺だ。俺が交渉に応じれば早い話だってことだろ⁉︎


「俺と何が話してぇんだよ!何が目的だ!」

「そう急くでない。それと汝はどうやら儂の事を少し勘違いしておるようじゃ」


上座にどかりと音を立てて秀吉は座る。俺は脇差を腰に構えた。


「儂はお主の知らぬ、知りたい事を知っておるぞ、七星樹」


ニヤリと秀吉が笑った。

何だよ……じゃあこいつは俺が未来から来たことも、まさかお見通しってことか……⁉︎

なんであっちは俺を知っていて俺はあっちを知らないんだ!

くそ、未来から来たんだからもっとこう、未来予知的な感じで日本史とか使えたんだろうが……勉強不足だった‼︎日本史もっと勉強しときゃ良かったぜ‼︎こんな所で後悔する日が来るとは……

有名な戦国武将がほとんどいるし不老不死もどきのチート使ってるから今が戦国時代のいつ頃で、これから何が起こるかも分からねぇ‼︎

茜だったらきっとすぐに分かるんだろうが……


そういや、ちょっと前に家康さんが「天下分け目」がどうのこうの……

多分関ヶ原の戦いだよな!なら分かるぞ、1600年だ!今はもしかして関ヶ原の戦い直前ってことか⁉︎

いつだ、今から一体あとどれくらいで戦いが起きるんだ?

あ〜でもこんな昔じゃきっと西暦ととか使ってねぇよな⁉︎元号とかだろうな……



「西暦1598年じゃ」



え?

家康さん達が攻防を続ける中でもはっきりと聞こえた。秀吉は俺に向かって微笑んでいる。

なんでちょうど考えてた時に、しかも西暦を……!


「お前……誰だよ」


何で西暦知ってんだよ。こいつ何かがおかしい……!何で笑ってんだよ……!

いや、おかしいのはもうここ(・・)だよ、何で戦国武将が鬼になんて……


っ⁉︎」


何だ⁉︎頭が痛え!俺は咄嗟に頭を抱えた。

……何か俺は忘れてる、大事な事を。


「樹‼︎」


銃声と共に俺を呼ぶ声がした。聞き覚えのある声だ。この声は……


「のっ、信長様⁉︎」

「とのーーッ!!」


信長がいつの間にか俺の前にいた。何でここに?

どっかに幽閉されてたんじゃ……


「どこぞの忍が助けてくれおったわ。今は何処におるのか皆目知らんがな」


半蔵だ!半蔵が信長を見つけ出してくれたんだ!それを聞いた家康さんがちょっと黒い笑顔なのは気づかないふりだ。

さっきの銃声は鬼の兵士達を仕留めた音だったようだ。家康さんと利家が倒し損ねたのを狙ったようだ。

ざっと見て三百人。すげえよ、二人でこの人数相手してたのか、さすが超人。息切れと返り血と傷も中々ある。ちょっとホラーに近い。利家なんか一張羅だったのなんだの言ってて体力にはまだ余裕がありそうだ。

それを見て、俺はなんか嬉しくなった。いつの間にか頭痛を吹っ切れた。

でもさっきの感じ、何だったんだ?俺は一体何を忘れているんだ……?


「飯は美味かったぞ、猿」


信長が愛銃を抱えて秀吉に笑った。人質が逃げたというにも関わらず、未だに余裕の笑みだ。


「もったいなきお言葉……恐悦至極に御座いまする」

「まさか若者と喋っていて俺の存在を忘れていたなんて事は……お前に限ってそれは無いな」


そういえば、信長少し髪伸びたか?成長とかそういうの止まるんじゃなかったっけ?

あれ?思えば俺も髪とか身長伸びてねぇな……?


「これで良い」


秀吉が懐に手を入れ、出したのは短刀。


「信長様にも見ていただけるのなら重畳……」


何を企んでるかさっぱり分かんねえよ!

秀吉は鞘から短刀を抜き、自分に刃を向けた。


そして、笑いながら、


「やめろ、猿‼︎」


自分の腹に突き刺した。


信長が怒鳴って止めようとしたが、遅かった。

天守閣に秀吉の笑い声が響く。

俺の頬に冷たい汗が一滴流れたのを感じた。なんで笑っていられるんだよ、自分で腹刺したんだぞ⁉︎

秀吉の琥珀色の目がこちらを見て、一歩退いた。


「はははは!よぉく見ておけ七星樹!鬼術が完成した所を見た事が無いのじゃろう?儂を目に焼き付けておくが良い……そうじゃ、お主はなぁ、この世界を、変えることなど、出来ぬのじゃ……!」



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