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戦國鬼神伝  作者: 淡路
道ノ巻
51/64

鬼術の連鎖

那古野城にたった1人、最早那古野城に住まう亡霊と言っていい立場になってしまった息子を、若返った信長はどう思うのだろう。


「俺はこの城でたった一人だ。だからここからは動けない」


「そんな……」


俺の小さな呟きが天守閣に響いた。


「それに……俺はまだここを離れられない」


「え?」


「……全て話そう」


信忠さんが諦めたように溜め息をして階段に足をかけ、下りていく。

付いてこいってことかな。


そして俺と家康さんは那古野城の地下まで辿り着いた。

そこ自体にはこれといって特別なものはなかったが、男1人が入れる程の小さな鉄扉があった。

信忠さんはその扉を開け、中に入った。俺達も続いて入る。


その部屋には、書類やら本やらが天井まで届く程びっしり敷き詰められていた。

それに埋もれるように脚の低い文机があるけど文机の上や下、周りも書物だらけだ。


「ここは……」


家康さんが驚きながら言う。その目は少し輝いてるようにも見える。


「全て鬼に関する書物さ」


信忠さんが近くにあった巻物を手に取り、開いて見せた。そこには蛇みたいな文字と鬼らしき絵が描かれてある。


「俺は生前から蘇生術とも言われ巷でひっそりと流行していた鬼術に関心があった。だから本能寺の変で一度死んだ後こっそりと尾張に帰ってきて鬼術について調べることにした」


信忠さんも本能寺の変で死んでいたのか。


「そういえば……本物の鬼が人間に教えたのが鬼術だって」


俺が口を開くと信忠さんはああ、と相槌を打った。


「鬼は越後の直江家始祖に術を教えた。会得すれば力が増幅し、更には一度死んでもまた蘇ることができるという有難い術を。しかしそれは禁忌だったのだ」


信忠さんは喋りながら手にした巻物を置き、文机の前にあった座布団の上に座った。そして文机の上にある1枚の紙を取った。


「人間に鬼の術を教えた鬼……名は青鬼『桔梗』という」


その名前を聞いた途端、俺は変な複雑な感情が込み上げてきた。


初めて聞いたはずなのに、何故か、懐かしく感じた。


「そして……その鬼はどうなったのですか?」


家康さんが口を開く。信忠さんは目を伏せ、静かに声を出した。


「鬼の象徴でもある角を折られ……山奥で一人絶命した、とここにある書物のどれかに書いてあった。まあ当然の報いかもしれん、人間に鬼の力を与えるという罪を犯したのであれば」


確かに。この戦国時代に来て鬼術ってのを知ってから、それを使うだけで得ばかりだと思った。

それは多分、人ではない鬼にしか与えられない力だったから。


「しかし、一度鬼術に手を出したら若返りが起こり、切腹しようが討死しようがもう一度蘇る……もう一度死ぬまで逃れられないのが運命だ」


信忠さんは淡々と話を進めていく。


「鬼術に手を出しなり損ないの『違鬼』となった後死ぬ時は魂は消滅するのみだ。砂となって」


ああ、俺がこの時代に来てすぐの頃……城下町でそんなことがあった。

生まれ変わることができないのか。

それは一体どんな意味なのか理解できなかった。

でも、それこそ死んだら何もなくなるってことかな。


「……どうだ?これで満足か、次郎三郎殿」


信忠さんは黙って聞いていた家康さんを向いた。家康さんはいつものように微笑むと一歩、信忠さんに近づく。


「それで……どうすればいいのですか?」


家康さんは笑ってるけど、その声からは真剣さが伝わってくる。


「鬼術を止めるにはどうすればいいのですか?あの生きる屍を死なせるには、どうすればいいのですか?」


家康さんが食い気味に問いかける。少し焦っているようにも見えた。

信忠さんは気付いているのかいないのか分からない、また淡々と告げた。しかし、最初は小さな声で。


「……青鬼『桔梗』の角を」


「え?」


俺は聞き取れなくて口を開く。


「全ての元凶である『桔梗』の角を見つけ出し、葬るしか……未来永劫、鬼術は止まらない、止まることはできない!」


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