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戦國鬼神伝  作者: 淡路
道ノ巻
49/64

魔王の子

神無月。俺がいる戦国時代では10月、現代では多分新暦で11月だろう。


俺が信長と江、政宗と4人で旅に出た新暦4月、つまり旧暦3月弥生から半年以上経っていた。

俺は前とは違って制服のワイシャツの上に更に学ランを着て安土を出た。

そして一週間もしないうちに家康さんは最初の目的地に着いたと言った。


「あの……家康さん、ここってどこスか?」


「尾張国です。ここは……全ての始まりの場所とも言える場所なんです」


そういうと家康さんは目の前にある小さめの城を見据えた。

聞くと、那古野城という城らしい。

ここは信長が俺と同じくらいの時に過ごした城らしい。

俺の知ってる名古屋城とはまた違う質素な城だ。


この城に、家康さんが会いたい人がいるらしい。


「もう天守の最上階で待っておられると思いますよ」


家康さんは早速那古野城の門から入って天守閣に歩いていく。それに続いて俺も行こうとしたが、振り向いて門の横……塀の隅にある大木を見上げた。

大木の枝に、半蔵が座って幹に背中を預けてもたれている。


「お前は行かねぇのか?」


「俺はそういう表の仕事は受け付けないの」


そう言って半蔵は姿を消した。実は前に家康さんが休みをあげたらしく、家康さんが言うには今頃変装でもして街をぶらついてるだろう、とのことだ。


そして俺達は天守閣の最上階の部屋の前に着いた。

襖を開けると、そこには誰もいない。

廻縁っていう外に出られるベランダみたいな場所への戸が開いている。


薄い栗色の髪の人物がこちらに背中を向けて尾張の地を見ていた。その髪は、太陽に照らされて銀髪にも金髪にも見える。


「久しいな、次郎三郎」


男が振り向いた。癖っ毛で天パの短髪、色白な肌、赤い瞳、その顔は、俺達がよく知る奴そっくりの顔立ちをしていた。


「信長……⁉︎」


信長にそっくりなその男は微笑みながらこちらに近づいてきた。


「そいつか、お前が文で言っていた少年というのは」


「いかにも、こちらが七星樹殿です。樹殿、こちらは……」


家康さんが続けようとしたのを止め、男は上座に座った。銀色に光る西洋鎧を身につけているその姿は、以前の背の高い信長そのものだ。


「俺は現那古野城主である織田信忠。織田信長嫡男だった」


ちゃくなん……とは?


家康さんに聞いたら、つまりは信長の跡継ぎらしい。通りでそっくりな訳だ。

ていうか、今「だった」って言った?


「だった、って……」


「父上は本能寺で故人となり現在は人にあらず、俺も二条城で既に人間ではないからな。跡を継ごうに継げないのだ」


なるほど。信忠さんが言うに、今は趣味に没頭しながら生きているらしい。そんな信忠さんがなんで鬼術を使って生きているのか問おうとしたけど、やっぱりやめておいた。


「ところで……信忠さんは、ここで何を?」


「……趣味の為に使っているんだ。もう人殺しも戦に出陣することもない……こんなに嬉しく楽しいことはない」


信忠さんは間を置いてからそう言って微笑んだ。この人は戦は好きな訳ではなさそうだ。信長そっくりなのに性格は真逆なのか。


「世間話はここいらで止めて本題に入りましょうか。事態は一刻を争います」


そこで家康さんが珍しく真顔で言った。確かに、俺の失敗でこんな事になったんだから、急がなければならない。

家康さんが事情を説明すると、信忠さんは顔をしかめた。


「まさか父上が再び若返っていたとはな……しかも豊臣に捕らわれたと」


「……すいません……俺のせいでこんな事になっちまって……‼︎」


俺が頭を下げると信忠さんはしかめた顔をすぐに緩め、微笑んだらしく、声が柔らかくなった。


「顔を上げろ、七星樹。お前は俺に謝るためにここに来たのか?その答えは違うはずだ。少なくとも父上の息子である俺を頼りに来たのだろう?」


その顔はいつも自信満々な信長そっくりだった。


「俺にも策はある。だから心配するな。父上にはまだ生き延びてもらわねば」


そして信忠さんはにっと笑った。それを見て俺と家康さんの顔も明るくなった。しかしすぐに信忠さんが顔を曇らせた。


「信忠様?」


家康さんが尋ねると、信忠さんは口からはは、と乾いた笑い声を上げた。


「実は……この城、俺一人しかおらんのだ……」


その場に緊張が走った。


「お、俺だけに助けを求めても意味が……ないんだ、ははは!」



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