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戦國鬼神伝  作者: 淡路
道ノ巻
42/64

岐阜城にて

「……、い、起きるッス!いい加減起きろッス‼︎」


ん……なんか……声が……


「うぉわぁぁぁっ⁉︎誰だ、お前‼︎」


「誰だとは失礼ッスね‼︎」


俺の目の前にいたのは、茶髪のショートカットの女の子。年はきっと俺と変わらないくらい。霧隠才蔵と同じような忍装束?着てるけど黒ずくめのあいつとは正反対で、赤と白が基調になってる。

そして、目元と鼻に引かれた紅がよく目立つ。


「俺は猿飛佐助。真田源次郎幸村様だけに仕える甲賀出身の忍だ!」


胸を張って自慢気に佐助はそう言った。

そうか、俺は真田軍に捕らえられて……


「おい!ここどこだよ⁉︎」


「ここは岐阜城ッスよ。大坂城まで一気に行くことは無理ッスからね。出発するまでしばらくはここで大人しくしてもらうッスよ」


ススススうるせぇなこいつ……!腹立ってくる。


つかこいつ、猿飛佐助って言ったよな……てことは、こいつも元々は男だったり……?


「あ!今俺の事うるさいって思ったッスね⁉︎顔に出「あのさ、お前って元は男だったりする?」


佐助の言葉を遮るように俺は質問した。佐助は一瞬嫌そうに顔を歪めたけどすぐに答えてくれた。


「いや、俺のはただの変化の術ッスよ。なんなら今解いてやるッス」


そう言って佐助は九字を切った。佐助の体が煙に包まれたと思ったらすぐに晴れ、そこには女の時とあまり変わらない顔の男の猿飛佐助が現れた。

変わったといえば、忍装束がさっきよりゴツくなったくらいだ。あ、声も体つきも男に変わってるからな。


「ふふん、この猿飛佐助様にかかれば容易いことッス」


自己中な性格も変わってねぇ。


「で?もしかしてお前は俺の女姿が鬼術のせいだと思ってたんスか?ああ、そういやそちらに付いてる前田利家殿も上杉謙信公も女になってるッスからね」


あれ、バレてた。

だって、その理由が分からなくて。


「知らないんスか?あれは鬼術の副作用みたいなもんスよ」


「え?そうなのか?」


「鬼術が体に合わなくて、稀に出る人がいるって話ッスよ。他にも不老になったはなったで、体の一部が動かなくなったり病にかかったり……」


「お前、鬼術に詳しいのか⁉︎」


俺は佐助の話に飛びついた。

体は手足が縄で縛られてるから身動きが取れない。しかも実は今、人生初とも言える牢屋に入っている。


「いや……俺が知ってるのはこれと、鬼術を心得た者には家紋が体のどこかに出るということぐらいで……」


なんだ……それは、以前蘭丸に聞いたことだ。

やっぱり、兼続さんに会うしか他に方法はないみたいだ。


いや、待てよ……?


「……あのさ、その……豊臣秀吉?ってさ、鬼術に詳しかったりするのか?」


「え?ああ……少なくとも俺よりは詳しいんじゃないんスか?」


そうだよ、本人に直接聞いてやればいいんだ!

鬼術もそうだけど、どうして俺達と……信長と敵対してるのかとか、いろいろ。


「もういいッスか?明日明後日には出発だから今日は大人しくしてるッスよ」


そう言って佐助は俺が入っている牢屋の前から姿を消した。


周りはしばらく沈黙が流れる。


今頃信長達は何してるんだろう。俺……なんか足引っ張ってばっかな気するなぁ……

ああ、もう‼︎


この時代に来てから、つくづく自分の無力さが思い知られる。

こんなにも何もできねぇとは、やっぱり俺から野球を取ったらただの弱い奴だったんだな。


戦国という乱世で生きているあいつらは、俺とは全く違う。やっぱ強いんだ。

ここは、弱肉強食の世界なんだ。



「なぁに陰気臭ぇ顔してんだよ、気色悪りぃ」



は?人が考え事してる時に何なのこの腹立つ言葉。どっから?

俺が辺りを見ても誰もいねぇ。そしたら「ここだよ、間抜け」という声がした。


「誰がまっ……てめぇ!」


俺の目の前には、どこから吊り下がってんのか分からねぇけど、逆さまの服部半蔵がそこにいた。


「よう、嫌な予感がしたんで来た……と言いたいところだが、狸さんに言われて仕方なくってのが本当のことだ」


ニッと笑いながら音も立てずに俺の前に下りた。さすが忍者。


「お前……どうやってここに?」


「俺様を誰だと思ってやがる。天下に名を轟かせる伊賀忍、服部半蔵様に警護の薄い城へのお忍びなんざガキと遊ぶより容易いぜ」


ああ、佐助が誰かに似てると思ったら、こいつだ。

でも佐助は甲賀って言ってた。確か甲賀と伊賀って敵じゃなかったっけ?ああ、少年漫画の見過ぎ?


「ともかく、外に出るぞ!奴さん援軍を呼びやがった‼︎」


「は⁉︎どういうことだよ⁉︎」


「しっ、いいから俺について来い!」


半蔵は俺の縄を解くと牢屋の中から外に手を出して鍵を開け、辺りを見回してから俺に出てこいと合図を送ってきた。

その合図で俺は半蔵の後ろについていった。

やっぱ忍者なんだな、ここぞという時は頼りになる奴なんだ。


「まさか岐阜城に地下牢があるとはな……大方お猿さんが作ったんだろうが、何考えてんだか」


「なんでこういうことになってんだよ!信長達は⁉︎」


「たった今着いた俺に言うな‼︎」


俺がここにいる間に何があったんだよ!


必死に半蔵の後ろを走ってると、光が見えて城の後ろの方に出たようだ。


「……は⁉︎」



俺が見たのは、この城の周りを埋め尽くす兵だった。



赤備えじゃない。

黒い鎧を身に付けた兵だった。


「樹‼︎」


江の声だ!

大軍の前に、兵達数人に捕らえられた江と政宗がいる。


どうなってんだ⁉︎


「樹!叔父上様が‼︎」


今にも泣きそうな声で江が叫んでくる。

信長が?



江の後ろに、軍を掻き分けながら奥に入っていく金の装飾が施された黒い陣羽織の男の姿。



「信長‼︎」



一瞬、信長の歩みが止まった。


「お前、何のつもりだ!それは……敵の軍なんだろ⁉︎」


「ーーー……俺は、急用ができたのだ」


「急用って……俺達のことを旅に連れ出した張本人が何してんだ‼︎」


俺が信長を追いかけようとした時、敵の兵に捕まえられた。

必死に抵抗しても、力が強くて逃げられない。


「信長‼︎おい、戻っ……」


その瞬間、俺の全身に悪寒が走った気がした。嫌な予感がした。

こんな感じ、生まれて初めてだ。




「源次郎よ、あれが噂の」




黒い兵達とは対照的な、白地に赤の装飾がついた陣羽織を羽織り馬に乗ってくる男がいた。

その馬の側に、幸村が歩きで付き従っている。どうやら幸村より身分が上のようだ。


「……は、」


幸村は昨日と同じ雰囲気だった。


「お前!誰だ‼︎」


俺が怒鳴ると、その男は俺に微笑む。

でもその微笑みに何故か俺は違和感を覚えた。それがその男の第一印象だった。


「……今はまだ、汝に名乗るような時ではない。さあ信長様、こちらへ……」


「ふざけんな‼︎なんで信長を連れて行くんだよ‼︎」


信長はその男の元に何も言わずに歩み寄って行く。


「なんでだ‼︎なんでお前そんな奴の言うことなんか聞いて……‼︎」


「叔父上様!」


江の叫びも聞こえてくる。でも、白い陣羽織の男はそれを見て何が面白おかしいのか、笑っている。


ていうかあいつ、ずっと笑いを顔に浮かべてるよな……


「ははっ、阿呆じゃのう」


はぁ?


「見知らぬ汝の言葉なぞに耳を傾けても無駄じゃて、信長様もよう分かっておられる」


「てんめぇ……」


俺もさすがに怒りが込み上げてきた。さっきから聞いてりゃこいつは……‼︎


「信長‼︎」


また同じように戻ってこいと言おうとした時、信長が振り向いた。


「勘違いするな。俺はこの男に聞きたいことがある、だからこうするしかないのだ」


「何言ってんだ!そいつは、敵だろ⁉︎なんでいきなり……」



「七星樹」



信長が俺の名前を呼んだ。まともに呼んでくれたのって……初めてじゃなかったか?



「俺が不甲斐ないばかりに……悪かった。その代わりに……あとは、頼んだぞ」


「なっ……おい!」



兵に止められてるせいで、男について行く信長を見ていることしかできなかった。

軍勢の中に信長が消えて見えなくなった頃、俺も江も政宗も兵から放されて、俺達3人と、立ち尽くしたままの半蔵しかいなかった。


視界の端に映った大木に黒い忍が見えた。幸村達もあの男の率いる軍について行ってしまったのだろうか。

江は肩を震わせながら項垂れていた。

政宗も座ったまま俯いている。

半蔵は、そっぽを向いていた。

俺は……悔しさのあまり、顔を上げられなかった。


「くっそ……くっそぉぉっ……‼︎」






俺は、また何もできなかった。


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