仲
ーーーこれは、夢か。
見る限り真っ暗で、俺一人しかいない。
『ーーー……くれ』
誰の声だ?
よく聞こえねぇ……
『……助けてくれ』
誰をだ……?
『ーーー私の、大事な友人を……』
助けてくれーーー……
*
「ーーー殿、樹殿‼︎」
「うわぁっ⁉︎」
俺を呼ぶ声に飛び起きる。
着慣れない白い浴衣。これが寝巻きだとか。
そうだ。俺戦国時代に何故かタイムスリップして、あの有名な織田信長に雇われて……
「……えっと、誰スか?」
俺を大声で起こした奴は、俺が寝てた側に正座していた。
色素の薄い真っ直ぐで長い髪の毛をポニーテールみたいに上でしばってる。
顔を見る限り俺と同じぐらいだとは思うんだが、すげー美少年。性格も真っ直ぐそうだ。
さっきから正座して礼儀正しいし、やっぱ昔と今は違うんだな。
「申し遅れました。拙者、森蘭丸と申します。織田信長公……殿の唯一の小姓として務めております」
蘭丸?蘭丸て確か……
「織田信長と……ぶっ⁉︎」
俺は森蘭丸の手で思い切り口を塞がれた。
「始めに申しておきますが、殿とは一切そのような関係は持ち合わせておりませぬので」
美少年は輝かしい笑顔で俺に言った。
その声と笑顔には殺気が混じってるのに気づき、俺は無言で首をヘッドバン並みに振って頷いた。
「小姓であり、私の父上と兄上が殿に仕えておられたおかげでそのような噂話が流れ、こちらとしても困るのですよ」
かなりストレス溜まってるっぽいな、こいつ。
「なあ、そんな堅くしなくても大丈夫だぞ?俺は敬語使わなくてもいいぜ」
笑顔を引きつらせながら、とりあえずストレスを少しでも和らげようと俺は恐る恐る言ってみる。
すると森蘭丸は驚いたような顔をして、しばらくしてぷっと吹き出して笑った。
「本当に、貴方は変わった方ですね。殿の言う通りです」
「あー……いや、お前って俺と同じぐらいの年だと思って。仲良くしたいなーって。あ、俺の事呼び捨てでいいよ」
なんか言ってみるとこういうの恥ずかしいな。俺っていつもどうやって友達作ってたか分からなくなる。
「……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ。宜しく……樹」
照れ臭そうに笑って、蘭丸が言う。
「じゃ、早速着替えて」
「え?」
「殿にお使いを頼まれたんだ。君も行かせろとのご命令もある」
たった今仲良くなったのに、なんという切り替えの早さ……
昨日会った三左さんといい利家といい、やっぱ織田信長に仕えてる奴っていろいろ変だな……
俺、こんなとこでやっていけるかな……