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戦國鬼神伝  作者: 淡路
始ノ巻
31/64

西へ

安土を出発してしばらくして、俺達は四国に入った。


入ったのはいいんだが……


「辺り一面木しかねぇ」


「ようやく四国に入ったというのに、迷ったってこと⁉︎」


迷ったらしく、俺達は森の中にいた。


「まぁ、四国など直接足を運ぶことなどなかったからな」


信長が言う。ああ、そういや身分がバレちゃいけないとか言って、今は通称の上総介って呼ばなきゃいけないんだっけか。政宗が藤次郎で、江が……


っていうか、身分なんてすぐバレそうだけどな。


「さ……新九郎、」


政宗が江を呼ぼうとすると、江はギッと政宗を睨む。


「今、三の姫って言おうとしたでしょ?今、私の名前は新九郎なの!私の父上様である浅井新九郎長政と同じ名前なんだから!」


政宗にそう言いつつ、江は誇らしげだ。


「……まずは、どこか町に出ねばなるまい。だが、どこから出るか……」


信長は2人を無視してブツブツ考えてる。相変わらずチームワーク無さ過ぎてバラバラだな、俺達。


その時、ピィーッという音が聞こえてきて、何かがはためく音がした。


「!」


俺達が空を見上げると、何かが飛んでいた。

それは、安土を出発した時に俺が見た鷹だった。


「吾妻!」


信長がその鷹の名前らしき言葉を呼ぶと、その鷹は信長の腕に降りてくる。


「ま、まさか、ここまで飛んできたのか?」


安土からここまで結構距離があるぞ⁉︎


江と喧嘩をやめてこっちに来た政宗も、その鷹を不思議そうに見る。


「おいおい、猟師にでも殺されたらどうするんだ。危ねぇな」


その言葉を聞いて信長はカチンときたのか、政宗の方に鷹の顔を向けた。すると飼い主の思いに応えるかのように鷹はいきなり大きな翼を広げる。

それに少し驚いたのか、政宗は「うおっ⁉︎」と言う声を出す。


「貴様らの様なうつけと吾妻を一緒にするな」


信長は相当その鷹がお気に入りらしい。確かにこの鷹、雰囲気とかつり目の感じとかが信長に似てるというか……ペットはやっぱり飼い主に似るんだな。


「叔父っ……じゃない、上総介様!まさかそれ、私も入ってる⁉︎」


江の悲鳴に近い声に耳を傾けようともせずに信長は吾妻を撫でる。いつもの事だからな。


「……手紙?」


信長が吾妻の足に付いていた紐を解き、丸めてある紙を取ると、一緒についていた巾着が落ちる。


「これ、もしかして……」


俺は落ちた巾着を拾い上げる。それは、俺が今付けている手袋が入っていた巾着袋と同じ緑の生地で作られたものだった。


という事は、やっぱりこれは家康さんからの手紙ということか。


「なんだ?これ」


俺がその巾着袋を開けると、銭が何枚も重なって穴に紐が通されてるものが20個も入っていた。


「二貫文も⁉︎私達四人が一年食べていける量じゃない!」


江が俺の持っていた巾着袋を覗いて驚く。そんなに凄いのか、これ。

っていうか重っ!これを安土からここまで持ってきた吾妻って鳥にしちゃ力持ちじゃねぇのか?


「吾妻、よくやったな」


信長は吾妻の嘴の下を撫でる。吾妻は心なしか嬉しそうで、ご満悦の様子である。


「手紙にはなんて書いてあるんだ?」


すっかり吾妻に嫌われた政宗が少し距離を置いて言う。


「ああ……」


「ええっと、『少しでも足しになれば嬉しいです。旅費としてお使い下さい』ですって。次郎三郎殿、あんな温厚そうなのに意外と達筆なのね……」


俺も手紙を覗いてみたけど、蛇みたいな字しか無くて全く読めなかった。


「四等分してそれぞれ同じ位持っていろ。何かあった時の為だ」


信長はそう言い、俺達はそれぞれ銭が紐で何枚も繋がった奴を5本ずつ持つことにした。


「吾妻がおそらく道を覚えている。吾妻が飛ぶ方向に歩けば瀬戸内海に出る事ができるだろう」


信長は腕を振り、吾妻は空に舞った。

吾妻は翼を広げて早くしろとでも言うように俺達の上を飛び回っている。


「行くぞ」


「……待て」


政宗がそれを止める。政宗の隻眼は俺達が進もうとする反対側、つまり後ろを睨んでいた。


「ど、どうしたんだ?政宗」


「伏せろ‼︎」


え?なんかこんな感じ、前にもあったような……⁉︎


俺達は全員、政宗の言われた通りに素早く地面に伏せた。


その時、無数の矢が俺達に向かって降ってきた。


幸い俺以外の3人は反射神経が余程いいのか当たらずに無傷だったけど、俺だけは頬に矢が掠めて切れた。そこがジワリと熱くなって、赤い血が滴って地面に垂れた。


吾妻はさっきよりも高い所に飛んでいて、射止められてはいないみたいだ。よかった。


それより、なんだ?いきなり‼︎


そこで信長が起き上がり、舌打ちをする。


「とんだ勘違いをしていたようだな、俺達は」


その信長の声には怒りが混じっている。その怒りは攻撃のせいか、それともその勘違いとやらのせいかは分からねぇけど。


「ああ。俺もここは阿州だと思ってたんだが……どうやら違うみてぇだ」


政宗もさっきと同じ方向を、さっきよりも鋭く睨みながら言う。政宗の声も、普段から低い声のせいでもっと凄味が増している。


っていうか、あしゅうって何?


「じゃあ、ここは阿波国ではないということ?」


江が這いつくばって寄ってきながら言う。

阿波ってもしかして阿波踊りの?どこだっけ?ああ、徳島県か!


でも、ここは徳島県じゃねぇのか?


「あたしの領地に無断で入ってきやがって……いい度胸してんじゃねぇか」


そこで、上の方から鈴みてぇな綺麗な声が聞こえてきた。でも口が悪い。


「ったく、いつの間に俺達は鬼の地にまで歩いて来てやがったとはな……」


政宗が笑いながら腰に下げた短筒に手をかける。


「あたしゃ自分の物を他人に汚されるのが大嫌いなんだ、覚悟しな」


俺の目に、日光で照らされた大鎌が入る。

それと、黒い薄地のマントも。


「土佐国主長宗我部元親!直々に冥土に送りに来てやったぜ……ぶち殺してやるよ、クソったれ」


縦巻きロールを一つにまとめてポニーテールにした銀髪碧眼の色白美少女が、背後に軍勢を連れて俺達を囲んでいた。


その軍旗には、丸の中に草花が描かれた七つ酢漿草の家紋があった。



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