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戦國鬼神伝  作者: 淡路
始ノ巻
30/64

出発点

出発の朝。


「うっ、馬ねぇのかよ⁉︎」


「当たり前だ。馬に乗っていて落武者狩りにでも遭ったらどうする」


俺の叫びを信長はさらりとかわす。まあ、馬があったとしても俺はまともに乗れねぇんだけどな。


襟に金色の刺繍がある黒い短ランみてぇな陣羽織に白の袴、黒の鎧と脛当てを身に付けた信長の格好は以前より動きやすそうだ。


「っていうか、その格好、散々金が無いとか言ってたくせに……どうやって買ったんだよ」


「俺のヘソクリだ」


ヘソクリなんて持ってんのかよ。

見た感じ特注品っぽいんだけど、かなり高いんじゃねぇのか?


「なっ、馬ねぇのかよ‼︎」


俺と全く同じ事を、屋敷から出てきた政宗が言った。


政宗は俺が初めて会った時と同じ、紫の陣羽織に黒の具足だ。

陣羽織が風で翻った時、腰に何本もの筒が見えた。全部政宗の銃なんだろう。

それと、右目につけている眼帯がいつもと違った。いつもは無地の黒い眼帯なんだけど、今のは帯が黒くて、目に当たってる所は灰色で、家紋っぽいのが刻まれている。多分、政宗の家紋なんだろう。


すんごく今更なんだけど、こいつ銀髪の左サイドに紫のメッシュ入れてやがる!現代にいたら絶対ヤンキーだな、こいつ……


「荷物どうすんだ!」


「自分で持っていけ」


「馬鹿!俺長刀あるんだけど!」


そう言って政宗は自分の腰程ある刀を出す。政宗の背が高いから、普通の刀よりは長い。小学生の背ぐらいはありそうだ。


「あと、兜も!」


「被っていけ!」


そこで信長がキレた。


「喧嘩すんなよ!」


俺は止めに入る。出発前から先が思いやられるんですけど。


「ちょっと!」


屋敷の方から声がしたんで振り向くと、江が出てきた。

長い銀髪をポニーテールにして、青い控えめの装飾がついた服装に、同じように短パンを履いて青い具足を付け、水色のマントを羽織ったその格好は、最初は少年かと思った。


「なんで私は男装しなくちゃいけないのよ⁉︎」


「ぶっ、はははっ!似合ってるぜ、三の姫!」


「もう普通にその格好でよくね?」


俺と政宗は、江の姿が似合いすぎて堪えきれずに笑ってしまう。

三の姫ってのは、江が三姉妹の末っ子で3人目の姫だからと、政宗が言っていた。


笑ってる俺達に江が「な、なんですってーっ⁉︎」と言って殴りかかってくる。こいつ、隠れ怪力なのか結構痛い。


「俺も、似合ってると思うがな」


そこに、信長が静かに言葉だけで割って入ってくる。


「叔父上様ぁぁっ♡」


その言葉に江は目を輝かせて、信長の元に女走りで駆け寄っていった。


何、あの変わり様。


「信長!」


そこに、お馴染みの具足を身につけた信玄と謙信が現れた。2人共笠を被って、初めて会った時と同じマントを羽織っている。

顔と具足を隠すためなんだろう。


「お前らも今から出るのか?」


「ああ。早く出た方がいいだろうからな」


謙信が答える。やっぱり男姿は稀なのか、女姿だ。俺、謙信の女姿の時の露出度高いこの格好苦手なんだけど……


「げっ!馬あるのかよ、あんたら!」


そこに、政宗が入ってくる。確かに、信玄と謙信の後ろには馬が2頭いた。


「……いや俺達さ、本当ならジジイだろ?山道はキツいかなーって……」


信玄が顔を引きつらせながら言う。


「……私達はそろそろ出るか」


「そ、そうだな!行くか!千代!」


謙信と信玄が馬に乗った瞬間、くノ一の千代女がどこからともなく、上から降りてきた。


「道案内は頼むぜ」


「御意」


一言だけ返すと、千代女は側に立つ大木の上に跳び立つ。


「んじゃ、達者でな」


「おう!信玄と謙信もな!」


安土山を降りるために、2人は千代女のいる方に馬を向ける。俺は信長達がいる方に戻ろうとする。

そこで、俺は謙信に呼び止められる。


「貴様に毘沙門天の加護があらん事を」


上田にいた時みてぇに俺の名前は呼んでくれなかったけど、心から俺達の無事を祈ってくれてるらしかった。


「ありがとな、謙信」


俺は笑って、心から礼を言った。その時、あまり表情を表に出さない謙信が少しだけ微笑んだ。び、美人め!

後は、謙信は何も言わず前に向き直り、信玄が笑って手を振って2人は行ってしまった。


俺達も出発するんだ。


「いいですか、政宗様。単独行動は止めてくださいよ。大食いも控えてください、それから……」


「お前は俺の母親か。お前は過保護だから困る」


片倉さんが血相を変えて政宗に言ってるけど、当の本人はうんざりしてる。


「もしもの場合、この片倉小十郎景綱、いつでも切腹の用意はできておりますれば」


「だぁぁっ!もしもの場合なんてねぇ!お前は奥州に帰っとけ!」


「いい?お江。知らない人にはついて行ってはダメよ?」


「叔母上様、私は大丈夫ですよ」


「貴女は上総介様そっくりだもの。何かしないかと心配で……いい?人様に迷惑をかけてはダメよ?」


濃姫も江に詰め寄って必死に言ってる。ここには過保護な人しかいないのか……いや、皆それぞれを心配してくれてるんだよな、うん。


1番酷いのが、信長だった。

もう、犬千代と蘭丸がしがみついてる。

それを忠勝と三左さんが必死に剥がそうとしてる。


「とのーっ!俺、殿と離れたくないぃぃ」


「信長様がいなくなったら、安土が安土では無くなりますぅぅ」


「いいから、剥がれろ!この犬!」


「無礼だろ、蘭!やめろ、やめてくれ!」


それぞれの保護者が必死に頑張っている。それを物ともせず信長はいつもの事だとでも言うように普通に家康さんと話してた。


「お前にはまた迷惑をかけるだろうが」


「信長様が仰るなら仕方ないです。貴方は昔から考えたらすぐ行動して、考えを曲げない御方ですから」


「すまないな。安土を頼む」


「お任せください」


信長が言うと、笑顔で家康さんは応えた。


「それと、樹殿」


家康さんが俺を呼んで、近くに来ると、袂を探る。


「これを」


そう言って、家康さんが俺に緑の巾着袋を手渡す。

俺は訳が分からなくて家康さんを見ると、家康さんは笑う。


「開けてみてください」


言われる通りに巾着を開けると、その中には一組の、薄い革で作られた黒の手袋が入っていた。


「本当はもっと早くお渡しするつもりだったんですが……完成に手間取ってしまって」


「これ……俺に?」


「古代から明に伝わると言われる内丹術を利用して作ったんです。樹殿の『気』を使って力を増幅させるようになってます」


よ、よく分からねぇけど、とりあえず凄い事は分かった!


「あ、あざっす!家康さん!」


「あ、あざ?」


あ。つい、いつものくせで言ってしまった。

俺はちゃんと家康さんに丁寧にお礼を言った。


「行くぞ」


いつの間に剥がしたのか、信長に犬千代と蘭丸がへばりついてなかった。


俺は、バットケースにバットが入ってるのを確認して肩にかける。

あ、刀も忘れないようにしねぇとな。


旅するなら竹光じゃ命取りだと散々言われたから、俺は渋々真剣を持つことにした。まぁバットは金属製だし余程の事が無けりゃ壊れる事はねぇと思って、太刀じゃなくて脇差を持つ事にした。

しかも、この脇差バットケースに入る。


脇差のせいでまた重くなったバットケースを肩にかけ、3人の元に駆け寄る。


「上総介様!」


俺達が屋敷の方を振り返ると、何かが信長の方に飛んでくる。

信長がそれをキャッチして見ると、よく駅弁で売ってそうな、包装紙と紐で包まれたおにぎりらしかった。


「昼餉として、分けてお食べになって!」


濃姫が俺達に精一杯の声を出して言う。


「必ず……必ず、ご無事でお帰りくださいませ!」


濃姫の声は震えていた。

それを聞いた信長はにっと笑って応えた。


「当たり前だ、たわけ!」


若返ってるけど、やっぱ夫婦なんだな。

くそ、羨ましい……


「行くぞ、まずは四国だ!」



俺達は安土の山を降りるべく、その場を後にした。


青空には、一羽の鷹が俺達を守るように天高く飛んでいた。


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