三日月夜に
闇夜に輝く三日月。
それを眺める若い男女がいた。
「悪かったな、20年も迷惑かけて」
「いや、いいんだ。結構楽しかったし、政務の方はほとんど小十郎殿がこなしてくれたしな」
「そうか」
女の言葉を聞いて、男は微笑む。
「本当に楽しかった。まさか、愛する夫である貴殿になれるとは」
「なんだ?もう20年寝てた方がよかったか?」
「そ、そういう事を言っているのではない!」
喉を鳴らして笑う男に、女は顔を真っ赤にして怒る。
「冗談だ。まぁ、ずっと眠っていられるのも俺としては良かったんだがな」
「藤次郎殿!」
「くくっ、そう本気にするな。昏睡状態で20年なんてあっという間だぜ?」
「それは、本人からしての意見だろう!こちら側としては、……」
そこまで言って、女ーー愛姫ーーは、俯き押し黙った。
男ーー伊達政宗ーーは愛のその様子を見て、少し距離を詰める。そして、愛の細い手に自分の手を重ねた。
すると、愛がもう片方の手を重ねてきて、政宗の手を撫でる。
「ーーーしばらく見ないうちに、随分と男前に成長したな」
「そうだろ?ここに来るまでにどれだけ女に誘われたか」
「藤次郎殿⁉︎」
ギロリと政宗を睨むと、当の本人はどこが面白いのか、笑う。
「全部断ったっての。俺にはお前しかいねぇよ」
政宗はそう言って間の艶やかな黒髪を片手に取り、口元に近づける。
「私が会った時はまだ元服して間も無い男子だったのに、随分とその手のものが上手くなったようだな」
「お前もガキだったろうが。男は成長してくにつれてこういうのを覚えるんだよ」
「そんな話聞いたことないぞ」
そう言うと愛はまだ自分の手に包まれた白く細いが、しっかりとした男の手を撫でる。
「そんなに俺の手が好きか?」
政宗は愛の細い手を握る。
「お前の手、小せぇなぁ……」
「おおおな、女子故仕方ない事だろう!」
「分かって言ってるんだよ」
笑って言うと、政宗は愛の手を握っていない方の手で愛の髪を愛おしそうに梳いた。
「もう寝ろ。どうせ明日朝一番で奥州に帰るんだろ?」
「ああ。貴殿がここに来たら、向こうが手薄になるからな」
「悪いな」
「仕方ないから許してやろう」
「はははっ、頼むぜ」
「おやすみ、藤次郎殿」
「ああ。ゆっくり休めよ」
愛はそう言って、自分の部屋に入っていった。
政宗は一人で三日月を眺めていた。
「ーーー……それで?夫婦水入らずの時にもお前は空気読めねぇ奴だなぁ」
空を眺めたまま、政宗は柱に潜んでいたーーー……
俺に話しかけてきた。
バレてたーーーーっっ‼︎‼︎‼︎
自主練を止めて風呂入って、風呂上がりにこの縁側通ったら政宗と愛姫がいて、政宗がくっそキザな台詞吐いてリア充してて、聞いてたこっちが恥ずかしいわ‼︎
「もうお前も奥州帰れよ!」
「やだね」
腹立つちくしょーっ‼︎
「っ、……なんでお前は帰らないんだよ」
俺は呼吸を整えて政宗に言った。
政宗は袂から煙管を取り出して吸って、煙をゆっくり吐いた。
「俺はまだここでやりたいことがあるんでね」
「やりたいことってなんだよ?」
「教えねぇよ、お前みてぇなガキにはな」
「はぁあ⁉︎ふざけんなよ‼︎」
見た目は俺より2、3年上ぐらいなだけのくせに偉そうにしやがってこのキザ野郎‼︎
あああもうリア充ちくしょー俺も彼女欲しい!




