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戦國鬼神伝  作者: 淡路
竜ノ巻
24/64

もう1人の竜

「うっし!」


俺はいつものように制服に着替えて食糧と資金調達のために村の手伝いをしに行く準備をして部屋を出た。


今は如月って言って、多分現代じゃ3月ぐらいで、ようやく暖かい日がやってきた。

制服もブレザーの上着をしまってセーターとシャツにした。

それと、ズボンは裾を折って丈を短くする。


「今日は良介さんと清さんとこの田んぼの田植えの手伝いか」


もうすぐ戦国時代に来て1年になる。


大半は安土に住んでる人達がほとんど普通の人間じゃねぇから平和だった。

本当なら戦が起きない方がこの世は異常って言っていいぐらいなんだよな。


でも、平和な方がいい。


「あ」


俺が廊下を歩いていると、政宗と片倉さんが前を歩いてきた。


政宗は女子の格好してた。

いつもならポニーテールにしてる黒髪をおさげにして、ピンクの小袖を着てる。


「樹殿か。お早う」


「え、あ、おはよう……」


その姿で笑顔を見せられるとなんかドキドキする。

でも、後ろに控えてる片倉さんが鬼の形相でこっちを睨んでくるせいで顔が引きつる。


「今日も村の手伝いか?」


「お、おう。まぁな……」


「……小十郎、私も興味がある」


「めっーーー……政宗様!何を……」


め?


今、『め』って何か言いかけた?


片倉さんはばつが悪そうにふい、とそっぽを向いた。


片倉さんて、顔に合わず結構口悪いっていうか、性格が現代でいうヤンキーっぽいような感じするのは俺だけか……?


「良い。俺も、行くぞ!」


「……政宗様……」


片倉さんは着替えに戻るために廊下をばたばたと走っていった政宗を見てはぁ、と溜め息をついた。

どうやら政宗の破天荒ぶりに手を焼いているみたいだ。


苦労人なんだな、片倉さんも……



「良介さん!来たぞーっ‼︎」


「おお!坊主、こっちだ!裸足になって入ってこーい‼︎」

俺が少し距離がある所で既に田植えを始めている良介さんに向かって大声で叫ぶと、返事が帰ってくる。

良介さんは30代ぐらいで、清さんっていう美人の奥さんがいる。

俺はアンクレットの靴下とアップシューズを脱いで裸足で田んぼの中に入る。

裸足に冷たい泥がひやりと触れる。まるで沼に入ってるみてぇだ。


「政宗、お前も裸足になれ!」


「あ、ああ」


袴姿に着替えてきた政宗も裸足になって田んぼの中に入る。

片倉さんはというと、あの後すぐに犬千代と三左さんに捕まった。今頃稽古に付き合わされているだろう。


「良介さん」


「お、そっちの子綺麗な坊主もやるか!」


政宗は男装してるから男だと思われてるみてぇだ。


「いいか、あまり腰を落とすと尻餅つくぞ」


「「は、はい!」」



そっから、昼飯の休憩があって日暮れまで田植えを手伝った。


「終わったー!」


俺は近くの川で足を洗って、土手に寝転んだ。


「明日もあるのだろう」


政宗も草履を履き終えて土手に座りこんだ。


「明日も来るか?」


俺が言うと、政宗は笑顔で答えた。


「勿論だ!」


やっぱり、政宗は普通に可愛い女子なんだな。ちょっと恋愛フラグ立ってるんじゃね?


俺達は土手から腰を上げ、舗装されてない畦道に足を踏み入れた。


その時、俺達の目の前を塞ぐ奴らがいた。


「前は世話になったなぁ、坊主共……」


この前のゴロツキだった。


なかなかしつこいな、こいつら……!


でも、今日はマズいぞ⁉︎俺達疲れ切ってるし、政宗も刀を持っていない。

今頃政宗は後悔しているだろう。


「っ……逃げるぞ‼︎」


俺は政宗の腕をこっちだと急かすように引っ張った。


俺達の背後に林があったから、そっちまで逃げる。


「待ちやがれ‼︎」


ゴロツキも俺達を追いかけて走ってくる。


林までは距離が近かったおかげですぐに入れた。


「政宗⁉︎」


俺が横で走ってた政宗を見ると、冷や汗をかいているみたいだった。震えてるのも確認できた。

武器も何も持ってねぇから、怖いのだろうか。


「大丈夫だ!絶対安土に帰れる‼︎」


俺がそう言ってまた前を見ると、いつの間にかゴロツキの仲間が先回りしていた。


「はっ、どうせ林に逃げ込むだろうと思って先回りしておいたんだよ」


「くっそ……!」


どうする七星樹!絶体絶命のピンチだ!

そうだ、野球で思い浮かべろ!これは、九回裏ツーアウト、バッターは俺……!


俺ならどうする?


「この前のお返しだ、食らえ‼︎」


先回りしていた男の一人が俺に向かって拳を振り上げる。


俺なら、俺なら……



正面突破、レフトにヒットを打ってやる‼︎



「っらぁぁぁあ‼︎」


俺は半分ヤケクソでそいつに向かって走って、拳を間一髪で避けて、そいつの横腹に蹴りを入れる。


こ、怖ぇぇぇぇ‼︎


「動くな‼︎」


「⁉︎」


俺が振り向くと、政宗がゴロツキに捕まって刀を首に向けられていた。


「てめぇっ……」


どうする、今度こそ絶体絶命だろ!こんな漫画みてぇな出来事、本当にあるのかよ!


「っ……‼︎」


政宗がゴロツキの足を思いっ切り踏んだ。


「いっ……ってぇ‼︎」


ゴロツキは裸足に草履だったから結構ダメージが大きいみたいで、悶えてる。


その時、俺の目に落ちていた木の枝が入った。木刀よりはちょっと細い気もするが、十分太刀打ちできるだろう。


「樹殿‼︎」


政宗が俺の名前を叫ぶ。


俺はその枝を拾って握りしめ、政宗を捕まえているゴロツキに向かって走った。

ゴロツキは俺の方を睨んでいた。


「う、らぁぁぁぁあっ‼︎」


次の瞬間、ドーンという耳をつんざく様な音が響いて、俺は思わず目を瞑った。


おそるおそる目を開けると、ドスっという音を立てて、ゴロツキの刀が地面に突き刺さる。


「な、な……⁉︎」


一体何が起きたんだ?お、俺な訳ねぇよ……?



「おい毛むくじゃら。誰の許可得てその女に触ってんだ?」



どこからか男の声がする。

誰だ?ゴロツキも辺りをキョロキョロと見回す。


「俺の女に手ェ出してんじゃねぇよ、クソったれ共」


俺の背後ーーー先回りしていたゴロツキの背後に、そいつはいた。



そいつは馬に乗っていた。片手には長さが少し短くて幅が広いクリーム色の火縄銃を持っている。

黒い具足に、紫の陣羽織。三日月の前立がついた兜の下からは銀髪が見えて、信長と同じぐらい色白な顔はイケメンだけど、右目にはーーー……



黒い眼帯。



「なんだてめぇ!」


「聞こえなかったのか?その女を放せよ」


「あぁ⁉︎ふざけんな!おい!」


政宗をまだ捕まえているゴロツキは近くにいた仲間に合図する。

その仲間は短筒を持っていた。

気づかなかった……!おそらく、これがゴロツキ達の最終兵器なのだろう。

っていうか、どこから仕入れたんだよそれ!


「死ね!」


ゴロツキが銃をガチリと構えた途端、ダン、と音がした。


その音はゴロツキではなく、馬上の男だった。


ゴロツキの銃はゴトリと地面に落ちる。


「構えがなってねぇな。飛び道具で俺と勝負なんざ早いんだよ」


そう言って男は銃から出る煙をフッと息を吹きかけて消した。


「っ、てめぇ、覚えていやがれ!行くぞ、てめぇら!」


ありがちな捨て台詞を言ってゴロツキは物凄いスピードで逃げていった。


その捨て台詞に向かって男は「いちいち覚えてたら切りねぇよ」とか言って舌を出した。


政宗は、地面にへたり込んでいた。


「まさ……」


「……して、」


「え?」


俺が呼びかけようとした時、政宗が蚊の鳴くような声で何かを言った。


その隻眼は、もう1人の隻眼に向いていた。



「どうして、貴方がここに……?」



その声はいつもの声とは違って、たった一人の女の声だった。


「……よぉ。迷惑かけたな、愛」


め、ご?


何それ?まさか、政宗の本当の名前?






「ーーー……藤次郎、政、宗様……?」



……は?


伊達政宗が2人⁉︎

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