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眠れる雪国の竜
如月、中旬。
既に節分を越え本来なら春が到来しているはずだが、この地は未だ雪が降り積もる。
おそらく、北国なのだろう。
白に染まった景色の中に、ある城があった。
その本丸内にある屋敷の一部屋に、布団に包まっている男が一人。
「……んー……?っげ、寒っ……‼︎」
一度顔を外に向けようとするも、戸の隙間から入ってくる冷たい風に震えて布団の中に潜る。
「……そろそろ、起きねぇとマズいか」
部屋に、男の独り言が響く。
男は気だるげにむくりと上半身を起こし、白銀の無造作な短髪をがしがしと自分の手で掻いた。
その短髪の左側の一束は紫に染まっていた。
寝間着を整え、辺りをキョロキョロと見回す。
「ん、あったあった」
男は雪国生まれのせいか色白の皮膚で包まれた手で、枕元にあったそれを手にした。
「さて、俺も乱世に飛び入り参加させてもらうか」
男は手にしていた黒い眼帯を右目に付け、その部屋を出た。
主がいなくなったその部屋には、開きっ放しの戸から雪が混じった白い風が入るだけだった。




