夕餉の時刻に
あの後太助さんの家に行ったら案の定怒られたんだけど、喧嘩があった事を話したら笑って、
「んだよ、そういうのは先に言え!人助けしてたなら仕方ないな!」
って言って俺の背中をバンバン叩いて、人助けの報酬とか言って大根とか冬野菜を10キロ程くれた。
太助さんはおおらかな人で良かった……背中痛いけどな。
俺は日暮れまで畑の手伝いをして、日が落ちる時に安土城に帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえり‼︎樹‼︎」
俺が屋敷に入ると、すぐに犬千代が笑顔で飛んできた。
「おかえりなさい、樹殿」
通りかかった家康さんが微笑んでくる。
なんか……本当に家みてぇになっちまったな。ここに来てもうすぐ1年経ちそうだし、慣れちまった。
「……あ‼︎そういや、今日伊達政宗に会ったんだけど‼︎」
俺はすれ違った家康さんを追いかけた。
家康さんはきょとんとしてる。
でも、すぐに微笑んだ。
「……今日は、夕餉にお客様がおられるみたいですよ」
「え?」
その客って、まさか……
*
「伊達藤次郎政宗、次郎三郎家康殿の御命により参上仕りました」
「奥州から御苦労様です、藤次郎殿」
昼間の時の具足を取って袴姿で正座して頭を下げる伊達政宗。
そして、それを笑顔で見る家康さん。
上座に信長がいない夕飯。上座は誰も座っていない。
「……はぁ⁉︎なんで⁉︎」
俺は思わず驚きを口に出してしまう。
だって、なんで伊達政宗がここにいるんだよ⁉︎
「藤次郎殿は既に私に帰順しているんです」
笑顔で言う家康さん。
っていうか、帰順ってどういう意味?
「……帰順、か」
その時、伊達政宗はぼそりと呟いてその隻眼で家康さんを見つめる。
「伊達家はまだ絶対服従はしておらぬ。
言うとすれば……そうだな、同盟だろう」
ニッと笑って伊達政宗はまたその目で家康さんを見る。
家康さんは笑顔のままだ。
「次に帰順などと言ったら……」
「この片倉小十郎、貴殿の首をこの鉈で掻き切ってくれましょうぞ」
家康さんの背後にはいつの間にか具足を付けた男がいて、家康さんの首元に結構な大きさの鉈を近づけていた。
それでも、家康さんは笑顔だ。
「私としたことが、言葉を選び損ねたみたいですね。謝りましょう。……でも、」
「家康様に手を出すのなら、この本多平八郎忠勝、黙っておらぬ」
俺と同じ顔をした忠勝が鬼の形相で槍を携えていた。
なんだよ、なんかすげぇ暗いっつーか、険悪なムード……
「……私は平和主義なので、今日はやめておきましょうか」
家康さんが笑うと、政宗が馬鹿にするかのように鼻で笑う。
「奥州の独眼竜殿は未だ目覚めていないようですからね」
「ーーー……ふん」
一旦話が止まると、さっきまで家康さんの背後にいた男が家康さんの前に来る。
「先程の御無礼、お許しください。某、片倉小十郎景綱と申します。今日は主君、伊達藤次郎政宗様の護衛として参上致した所存にございます」
丁寧に挨拶して、片倉さんは正座して頭を下げた。さっきの大鉈は鞘に納まっていて、刀と一緒に右側に置いてある。
ていうか片倉さん、薄茶の髪の毛先に黒いメッシュ入ってるんだけど‼︎何その自然過ぎるメッシュ‼︎
なんか優男って感じするんだけど、殺気立ってるような……
「挨拶はこれぐらいにしましょう」
ああ、やっと険悪なムードから解放される……!
俺は鳴ってた腹の虫を抑えようと、麦飯から手をつけた。




