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戦國鬼神伝  作者: 淡路
創ノ巻
17/64

好敵手


「なっ……なんでだよ‼︎信玄について行けば……‼︎」


ついて行った方が、幸せなんじゃねぇのかよ!

幸村は頭を振って水を落として、キッと俺を見た。


「例え鬼術を習得していようが、今だ生きている者には人生というものがあり申す」


その目は揺るぎない光を宿していたことが暗闇でも分かる。


「……ちょっと待て。お前も、鬼術を⁉︎」


「あの男と対峙するには、人並みの武力では勝てませぬ」


あの男?


「あの男って……?」


「豊臣家を敵に回したあの男、松平次郎三郎家康でござる」


な……


家康さんが?


「あの男は、かつての同盟に囚われたまま織田信長公の背後に付き、豊臣家を裏切った……そして、挙句の果てには鬼術を封印せんと太閤殿を潰そうとしておられる!」


なんだって?

家康さんが、そんな事……


家康さんがそんな事考えてたなんて、一言も聞いてねぇ。

家康さんにも、忠勝にも、犬千代にも、信長にも‼︎


信長は、鬼術で鬼になってまで生き返って、一体何がしたいんだ?

安土にいた皆、俺に何も……


「……大坂からの文に、安土に妙な男が現れたと書かれてあり申した」


俺ははっと、顔を上げる。

俺の事だ。


「そなたの様な男は、能力が未知数でござる……今一度、拙者とお相手して頂きたく申し候!」


幸村が、槍を構える。

無理だろ、普通に考えて。あっちは真剣、こっちは竹とバット。

負けるに決まってーーー……


ダメだろ。

まだ、何もやってないくせに諦めるなよ。


「……ああ‼︎」


何もできねぇじゃ、かっこ悪いだろ‼︎


俺はバットを右手に、鞘に収まった竹光を左手に構えて十字を作った。


家康さんに教えてもらった構えだ。


「いざ、尋常に手合わせ‼︎」


「うらぁあっ‼︎」


俺達は同じタイミングで地面を蹴った。


俺のバットと幸村の槍が重なって大きな音を立てる。


「あぁぁぁああっ‼︎」


俺が必死に両手で持った武器で幸村に食いかかる。でも、全て受け止められる。


「このっ‼︎」


幸村の槍の鉾先が、俺の肩を掠める。幸い、制服が少し破けただけだが、本物の槍に足が竦む。


くそっ‼︎なんで、俺はこんなビビりなんだよ‼︎


「お覚悟召されい‼︎」


幸村は槍を振り下ろす。でも、俺だって諦めちゃいない。

幸村の槍をバットで受け止める。その隙に左手に持っていた竹光で幸村の腹に突く。かなり手応えあった。


「がはっ……」


「「おぉぉぉおおおああっっ‼︎」」


また、俺達の武器が当たる。


「七星殿‼︎そなたは、」


「⁉︎」


幸村の声に、俺は一瞬止まる。


「そなたは何故、戦場にて戦うのでござるか‼︎」


「‼︎」


そんな事、考えたこともなかった。

安土にいる信長達にも、信玄や謙信、兼続さんにも戦う理由ってものがあるんだろうか。


「戦う理由なんて……‼︎」


「拙者は、己と、上田の民の為に」


「!」


幸村の攻撃が止まる。その瞳にはやはり曇りが無い。


「先程も申したように、拙者は戦場にて生き戦場にて死ぬのが本望。拙者は、己の為にただ戦場を奔走する事、己自身が戦う理由でござる‼︎」


言い終わった時、さっきまでとは比にならない程の力で押され、俺は地面に倒れる。


「ただ己を弱き者と捉えるだけで理由も無く戦場に行けば、待っているのは死のみ!」


「!」


「拙者は上田の民を守る為に、例え人として生きる事ができなくなろうとも戦う意志があり申す」


「それは……」


「はい、そこまで」


俺が言いかけた時、廊下から声がして振り返った。


信玄が立っていた。


「御館様……‼︎」


「上田の若殿御自ら説教か?」


「えっ、あ、その、これは……」


幸村が慌てふためくのを見て笑いながら信玄が言う。


「お前も豊臣側だったか。まぁ、無理もねぇ」


「……拙者は、」


「いいんだよ。一度きりの人生だ、誰にも縛られたくねぇのは皆同じだろ?だから俺はお前の人生も縛らねぇ。だが」


信玄はにっと笑って、幸村を見た。



「来るもの拒まず、だからな」



「っ、御館様……」


幸村は、そのまま黙ってしまった。


俺は、俺の戦う理由がどうしても分からなくて、部屋に戻っても考えていた。







「んじゃ、世話になったな」


「また、いつでも来てくだされ御館様!」


俺達は安土に向かうために、朝一で本丸を出た。


「……ゆ、幸村!」


気まずかったけど俺は思い切って幸村の名前を口にした。


「その……昨日ずっと考えてたけど、結局分からなかったんだ。……戦う理由が」


「……いつでも、待っているでござる。その答えが出る時を。その時はまた……」


「?」


「その時はまた、お手合わせ願う!」


真剣な顔して幸村が言った。

そっか。昨日は信玄が止めに来て、中断したんだよな。


「ああ!もちろんだ!」


次会う時は必ず、勝ってみせる!


俺達は、上田城を離れた。



信玄がぽつりとこんな事を言った。


「厄介な奴を敵に回したなぁ」


「は?」


「あれは見た目通りの暑苦しさですな」


兼続さんも苦笑いでそんな事を言う。


「厄介な暑苦しい男は、こっちにもいたみたいだがな」


謙信が言った途端、信玄も兼続さんも俺の方を見る。


「坊主、いい好敵手に会ったな」


「はぁ?なんなんだよ、お前ら……」



でも、幸村と戦う事になる時が少しでも遠い事を俺は願った。



安土まで、あと少し。




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