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戦國鬼神伝  作者: 淡路
創ノ巻
14/64

新たな謎

「『氷山』」


直江兼続が言うと、直江兼続の周りは氷の薄い膜が張って、氷の結界ができる。


「氷か‼︎だが、火には負けるだろ!『風林火山、火の構え』‼︎」


信玄が大刀を振り回すと、大刀が真っ赤な炎に包まれる。


「いくぜ‼︎」


信玄が太刀を振るおうとした時、直江兼続は信玄を睨む。


「ッあ⁉︎」


信玄が振り下ろそうとした太刀を包んでいた炎が固まる。


「与六の『氷山』は炎をも凍らせるのだ」


「はぁ⁉︎ンな事言ったらお前、無敵じゃねぇかよ‼︎」


「別に、無敵とは言ってはおらぬだろう。炎など頭を拗らせた技はいらぬだけ」


信玄にそう言って、謙信は地面を蹴って氷の結界に走り込む。


「我が身に毘沙門天の御加護があらん事を……‼︎」


謙信は刀で結界を斬る。でも、ヒビ一つ入らない。


「くっ……」


それでも諦めずに刀を振る。その速さはどんどん上がっていく。


「……神速、だな……」


信玄が唖然としながら呟く。


結界に小さなヒビが入る。謙信はそれを見落とさなかった。


「オン・ベイシラ・マンダヤ・ソワカ『雷切』‼︎」


謙信が叫んだ途端、その刀に小さな稲妻が見えた。

刀を持ち直して、謙信は小さなヒビに向かって切っ先を向ける。


その刀は、結界を打ち破る。


「っ……‼︎」


「頭を冷やせ、与六‼︎」


その刀を直江兼続に向けようとした瞬間、直江兼続は膝を折って低く構えた。


「‼︎」


その瞳は、遠くにいる俺にもなぜかよく見えた。

その瞳は、あの紋がくっきり映っていた。


「『氷柱』」


何が起こったのか分からなかった。


いつの間にか、謙信は背中に大きな切り傷が刻まれていた。


「っ……あ、ぐ……!」


謙信は辛うじて膝を地につかずに、刀を地に刺して立っていた。


「謙信……‼︎」


俺は、何もできないのかよ⁉︎足がすくんで、動けねぇとは情けねえ!


折角、家康さんに教えてもらったのに‼︎


「直江兼続‼︎てめぇ‼︎」


信玄はかなり怒ってる。肩が震えた。

甲斐の虎って、やっぱ……

なんかもっと怖い力を持ってるんじゃねぇのか?俺が知ってる覇術よりもっと強い力が……


「逸る、駄目」


「「‼︎」」


上からあのくノ一の声がした。


「甲賀流忍術『乱れ桜』」


季節外れの桜吹雪が、俺達の目の前に現れた。


「‼︎」


桜色がこの場にいる奴全員の目を染める。

俺も目の前が桜しか見えなくなった。


ようやく桜吹雪が無くなった時、望月千代女の姿が見えた。


大きなくないを持って、上から直江兼続に向かってそれを振り下ろそうと飛び降りてきた。


「こっ……殺すのはダメだ、千代女‼︎」


「ーーー……否。殺す」


そして、千代女はくないを振り下ろした。


「与六……ーーー‼︎」


千代女は直江兼続の背後の影を切り裂いた。


「ーーーは?」


「任務、完了」


千代女は小さく言った。すると直江兼続が、がくんと力無く膝から倒れた。


「っ、は?お前、何を斬った?」


信玄と謙信には見えていないらしいから、何がなんだか分かってないらしい。


「……うつけにしか、見えぬもの」


んなっ⁉︎

それってバカって事だよな⁉︎


「ち、千代女!何でお前も見えるんだよ‼︎」


ついカッとなって、俺は千代女に聞いた。


「ーーー忍法」


答えになってねぇ‼︎


「……っつぅ」


今まで倒れていた直江兼続が気づいたらしい。俺達は思わず身構える。


「……与六」


謙信はもうまともに立てるようになったらしいが、まだ険しい顔で直江兼続を見ている。


「……⁉︎ま、まさか……貴方様は‼︎」


え?さっきと声色全然違う⁉︎

俺がはっと直江兼続の顔を見ると、直江兼続の目からすげぇ量の涙が溢れていた。

それはもう滝のようで、ボロボロ零れていく。


「お、お、おおおっ……大殿ぉぉぉぉっっ‼︎」


叫びながら謙信に飛びついた。


え、えええーっ⁇


訳が分からないのは俺だけじゃないらしく、信玄も口をポカンと開けて立ち尽くしている。いつも無表情の千代女も呆然としている。

無表情だけど。


俺がまた謙信と直江兼続の方を見ると、謙信が直江兼続を蹴飛ばして踏みつけてる最中でした。


「何をする」


「申し訳ありませぬ」


その直江兼続の背中にブスリと何かが刺さる。


「……隙 あり」


千代女の吹き矢だったらしい。


「お前……えげつねぇな」


信玄が怯む。


「……貴様、」


「はい?」


直江兼続、さっきと全然雰囲気も違うんですけど?

っていうか、吹き矢が効いてない?近くで見ると結構でけぇ!180cmあるんじゃねぇ⁉︎


「貴様、私を斬りおって……覚悟はできているのか?」


「え?そ、そんな無礼な事大殿に出来ませぬ‼︎それにその後が恐ろしくて、もし斬ったとしてもその場で腹を切りまする‼︎」


直江兼続がぶんぶんと首を横に振る。

謙信は「その後が恐ろしくて」っていう一節を訂正しろとまた直江兼続を足蹴にする。


「なっ……なんで、直江兼続はさっきの出来事を覚えてねぇんだ?」


俺が思っていた疑問を、信玄が言う。


「あの背後 陰陽勾玉巴 あった」


千代女が言う。あの影の名前か。なんかもっと違う名前だった気するのは俺だけか?

まあいいか。


「目にも映ってただろ?」


俺が問うと千代女はすぐに頷いた。


「多分 傀儡の類い」


くぐつ?


「……操られていた」


くぐつの意味が分からないってことが表情に出ていたらしい。


「操られてたって……」


「豊臣か」


信玄がポツリと呟く。


「可能性 大」


「……千代女、新しい任務だ。やってくれるか?」


「私 御館様の影」


「よし。ちょっと待ってろ」


信玄は千代女の頭を撫でると、その辺にあった岩に座って小さな紙と煙管みたいな道具を出す。

それには、筆と墨が入っていた。


信玄はメモしただけなのか手短に何かを書いてすぐに立ち上がって千代女の手に押し込む。

誰かに見られちゃマズいからなんだそうだ。


千代女はそのメモにすぐに目を通して懐に仕舞う。


「頼むぜ、俺の影」


「御意!」


千代女は短く答えると地面を蹴ってビックリするぐらい高く跳んだと思ったら、もうその姿はなかった。


「……何を言った?またしょうもない事を言いつけたんじゃ」


謙信が言うと、信玄はその言葉を鼻で笑った。


「はっ、そんなんじゃねぇよ。俺だってたまにゃ本気を出すんだよ」


「何?」


謙信が眉を顰める。


「……さて、お仲間も増えた事だし。

どうやってこの越後を脱出すっかね」


信玄がめんどくさそうに頭の後ろで手を組むと、優男になった直江兼続が口を開いた。


「たっ、武田晴信殿とお見受け致す!某としては大殿がお怪我をされておる故、あまり遠回りで国へご帰還なされるのはよろしくないかと……武田氏が滅亡した今、そなたらがどこに住まわれているのかは分かりませぬが」


「……はっ、確かにな。

ーーー……もう少し早く、あいつが俺の下で働いていればねぇ」


あいつ?千代女のことか?


「おい、与六。貴様も来い」


謙信がよろりと一歩を踏み出す。まともに立てるようにはなっても、やっぱり傷が痛むらしい。

謙信のその言葉に、直江兼続は目を輝かせて謙信の方を向く。


「おっ、大殿、まさか、デレ期でごさりまするがっふぁあッ‼︎」


謙信の鉄拳が直江兼続の顔に下る。

この性格じゃあ、イケメンも台無しだな。


「今、安土にいる織田は人出不足だ。貴様のような大男が2人もいれば百人力というもの」


その1人は信玄ってことか?越後の龍に大男扱いされてるよ、甲斐の虎。


「この怪我はどうせまたすぐに治る。それよりも、次は忍がおらぬ。全員が命の保障はないぞ」


俺達が無事に春日山城に着いたのも千代女の暗躍のおかげってことか……。やっぱり忍者ってすげぇな。


そして、信玄が地面に何かを木の枝ですらすらと描き始める。

昔の日本地図だ。


「一番近道の越中と美濃は通っちゃダメなのか?」


俺は現代でいう中部地方の辺りを指差す。


「確かに、一直線で帰還するのが一番だろうな」


「はい。しかし、美濃は既に豊臣領でござりまする」


「そうだな。それに安土を発って、もう2ヶ月過ぎてるしな。気候的にも危ねぇ」


俺の目の前で軍議っぽいの始まってる……!

いやいや、そんな事で感動するな!


そっか、公共交通機関とか何も無くて徒歩しか移動手段がないからこんな時間が経ってたのか……!


「……冬か」


謙信が呟く。


「ああ。この辺りの国は雪が多いからな」


「……一番手っ取り早く、少しでも温暖な国に行くには、信濃を通るしかない」


「信濃⁉︎しかし、あそこは」


直江兼続が驚くと、信玄が笑う。


「ばぁか。あそこは俺の元領地だぜ?それに、あそこにゃいるんだよ」


「……は?」


「俺の最終兵器って奴がな。まぁ、お前さんみてぇに快く俺らについてくれるか分からねぇがな」


「それはつまり、もう信濃は……」


「俺の子供はとっくに信長に滅ぼされてるんだぜ?豊臣ってのは織田の禄を引き継いだんだろ?とっくに豊臣領だろ」


「……武田氏の誇りを傷つけた無礼を、お許しくだされ、武田殿」


そう言って直江兼続は深々と頭を下げる。信玄はハハ、と笑って、


「んな堅っ苦しいのはもういいんだよ。俺はもう国とか重いもの背負わずに自由に暮らせる今の方がよっぽど幸せだと思ってるしな」


と、明るく応えた。


「……信玄、」


「信濃を越えたら駿河、遠江、三河……三河まで来れば、松平家康の本拠地になる」


「ここまで来れば尾張を通って、美濃の大部分と、雪を避けて安土に帰還できまする」


「よし、そうとなりゃ早速馬に乗って行きたい……所だが」


俺達の腹が一斉に鳴る。


「……満足な物はお出しできませんでしょうが」


「良いから早く開門してくれ。寝たい」


「あ、謙信ケガしてたんだったな……」


「ていうかお前、いつまで男でいる気?」


新しい仲間ができた訳で、俺達は立ち上がって春日山城の大門に向かって歩き始めた。


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