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戦國鬼神伝  作者: 淡路
壱ノ巻
10/64

大坂城ニテ


大坂城天守・最上階。


他の階では多くの者が慌ただしく動いているのにも関わらず、最上階だけは次元が違うかのようにひっそり閑としている。


森長可はこの最上階の空気がどうしても好きになれなかった。


「……そうか、信長様が」


長可が座っている場所より少し離れた所に上座がある。

そこにこの大坂城の城主が座っているはずなのだが、この天守の構造と場所のせいで城主の顔は光が当たらず見る事ができない。


上座よりすぐ一段下がった場所には、大坂、越前、京、そして近江などの近畿周辺の国々が描かれた地図が広げられていた。


「……それと、妙な男を見ました」


「……なんと」


『あのね、僕らが視える人間がいたんだよ!』


『俺たち、普通の人間には視えないはずなのに!』


「……坊丸、力丸。場を弁えろ」


長可が静かに制すと、上座の城主は喉を鳴らしてくつくつと笑った。


「良い。子供は元気がある方が良い」


「……は」


長可は城主に一礼した。


「……そうかそうか、妙な男がのう……」


城主は呟きながら手にした扇子を開閉を繰り返しながらパチパチと音を鳴らす。


一瞬静かになったと思った時、地図に何かが刺さった。城主が左手で打った短刀だった。

その短刀の刃は丁度近江の安土山付近に命中していた。


城主は扇子でパチリと一層大きな音を鳴らした後、重たそうに腰を上げて立ち上がった。


長可はいきなり立ち上がった城主に思わず身構えた。


「……ようやく、この時が来たか……本能寺からこの地位に達するまで早幾年……待った甲斐があった」


「……」


城主が立った時、先程まで見られなかった城主の顔に僅かながら光が当たる。


「織田信長公を儂の支配下に置く。

この猿が薄汚い手で信長公を嬲り、あの穢れ無き魂を二度と戻らぬように黒く染めてくれるわ!」


大坂城主・太閤豊臣秀吉は高らかに笑った。



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